Bio-Station

Bio-Stationは日々進歩する生命科学に関する知見を、整理、発信する生物系ポータルサイト、を目指します。

最近の生命科学論文

RNAスプライシングが遺伝子発現を制御する?

正確な遺伝子発現がどのように実現されているか知ることは、生物学の一つのゴールである。 ご存知のように遺伝子はDNAから転写されてRNAスプライシングなどの制御を受けて成熟したRNAになる。 これまでに、転写がRNAのスプライシングに影響を与えることはし…

タンパク質を保護する天然変性タンパク質群"Hero"の発見とその機能+筆頭著者によるコメント

全長にわたって天然変性しているタンパク質群「HERO」を発見、その機能に迫った論文を解説!

代謝とエピジェネをつなぐ新しいヒストン修飾「ラクチル化」の発見!

遺伝子の発現がどのように制御されているか知ることは、現在の生命科学の一つのゴールである。 遺伝子発現には遺伝子自身のDNAは配列も重要だが、DNAをパッキングするヒストンの状態も重要であることが知られている。 古典的にはヒストンのアセチル化が活性…

神経活動が寿命を決める!?

私たち人を含め生き物は病気にならなくても、老いていき、ある程度の寿命で死んでしまう。 このどうして老いていくのか、何が寿命を決定するのか、というのは人類が長年探し求めてきた疑問の一つである。 ここ数十年で、生命科学の発展により老化や寿命を規…

核の中の相分離

細胞の中で、DNAから適切な遺伝子が発現し機能することは、細胞運命を正確に制御するために極めて重要である。 これまでに遺伝子発現の制御には、多数のヒストン修飾をはじめとしたエピジェネティック因子が重要であることが示されてきた。 例えば下のイラス…

マクロファージの前座を務めますのは??

生物はわずか一つの受精卵から細胞の分裂と分化を繰り返し、多数の細胞からなる個体を形成する。 この細胞をどんどん増やしていくという発生の過程において、一方でいくつかの細胞は細胞死していくということが知られている。 発生において、細胞が正しく死…

病原を「寛容」する分子メカニズム

「腸チフスのマリー」として知られるメアリー・マローンをご存知だろうか。 メアリー・マローンは1869年~1938年に実在した人物で、アメリカにおいて住み込み料理人として働いていた。 彼女が有名になってしまった発端は、メアリーの勤め先の近辺で腸チフス患…

発生イベント制御に関与するLin28a遺伝子の時期特異的な発現操作による表現型解析(筆頭著者による論文紹介)

今回、筆頭著者による論文紹介第3弾(第1弾ペルオキシソーム、第2弾場所細胞)ということで、(元)東大薬、遺伝学教室の村松さんにご寄稿いただきました!管理人は研究内容はもちろん、大変だったことに書かれているゼロイチ実験(ネガデータの場合得られる情報…

ニューロンは特別ではない?_2

前回の記事で、ショウジョウバエの気嚢原基はサイトニーム(下の図のもしゃもしゃしたやつ)という特殊な突起を持っていて、そこからシグナルを受け取ることを紹介してきた。 このサイトニームはなんだか特別な構造体のように思えるが、まあそうでもない。 ニ…

ニューロンは特別ではない?_1

ニューロンは長い突起を持ち、その先でシグナル分子をやり取りする。 ニューロンは意識など脳の主要な働きを担うとされることから、ニューロンは特別ですごい細胞だと思っている人もいるかもしれない。 今回は、全然そんなことない、ニューロンは特別ではな…

肥満が摂食のブレーキを外す!?

肥満は全世界で5億人の人が困っているとされる。ただ太っているだけならまあ良いが、肥満は種々の疾患を引き起こすため、その原因の解明は重要である。 では、肥満はどうして起きてしまうのだろうか? 原因の一つは必要なエネルギーに対して過剰に食物を食べ…

記憶が遺伝する!?

生物学では、長い間、後天的に獲得した形質は次の世代には遺伝しないと考えられてきた。 ところが近年、この通説を覆すような事例が報告されつつある。 最も有名な例が、第二次世界大戦中のオランダ飢饉の例である。 第二次世界大戦中にナチスドイツの出入港…

「現在地」と「目的地」の情報は脳内でどのように処理されているか(筆頭著者による論文紹介)

筆頭著者による論文紹介第2弾、東大薬の青木さんにご寄稿いただきました! メディア出演などでもおなじみの池谷裕二研究室に所属されています。 とても丁寧にご解説頂きましたので是非最後までご覧ください! ----- 初めまして。東大薬の青木と申します。私…

ペルオキシソームの新しい機能を発見! (筆頭著者による論文紹介)

今回、筆頭著者による論文紹介、ということで、東大薬の田中秀明さんにご寄稿いただきました! 比較的マイナーなオルガネラ、ペルオキシソームの新しい機能を発見したという報告です。とても丁寧に書いていただきました!ぜひ最後までご覧ください! ----- …

神経前駆細胞の大移動@がん

今回紹介する論文は、これまでの紹介してきた中でもトップクラスの衝撃度です。どうぞ最後まで。 がんは日本人の死因の何割かを占める。闘病は大変なので、治せるならば治したほうがいい。 ではそもそも、がんはどうしてできてしまうのだろうか。これまで、…

哺乳類の繁栄を支える遺伝子

哺乳類が地球で繁栄したキーポイントの一つは、寒冷環境でも体温を維持できるようになったことである。 この驚異的な特性を得るために、哺乳類は褐色脂肪細胞という特殊な脂肪細胞を獲得してきた。 褐色脂肪細胞は「脂肪細胞」のイメージとは裏腹に、脂肪を…

精子のpHセンサー

精子は卵子の近くに来ると、ハイパーアクティベーションを起こして卵子に突っ込む。 このハイパーアクティベーションには精子へのカルシウムイオンの急速な流入が必要であることが知れている。 これまで、このカルシウムイオンの流入を可能にするカルシウム…

細胞核構造のダイナミックな変化が学習に大事!

神経細胞は、神経活動に合わせて遺伝子発現を変化させる必要がある、という点で少し特殊な細胞である。 この神経活動依存的な遺伝子発現の制御は学習や記憶といった高次機能にとても重要なので、これまで多くの研究者たちの興味を引いてきた。 これまで研究…

ヒストンの持つ驚きの機能_2

ヒストンの持つ驚きの機能_2 ヒストンは細胞核の中でDNAを巻き付けてパッキングするタンパク質として知られる(以下の図)。 また、ヒストンはメチル化などの修飾を受けることで、遺伝子の発現を制御する大事な役割があることが分かっている。 このためヒスト…

"エリート細胞"は存在するか?

iPS細胞は多くの細胞に分化できる能力を持つすごい細胞である。 ご存知のように、iPS細胞を作成する方法は山中先生らによって報告された(Takahashi & Yamanaka, 2006)。 この方法では、山中4因子といわれる転写因子(Oct3/4, Sox2. Klf4, c-Myc)を細胞に過剰…

麻酔薬の作用する細胞は?

麻酔薬は、生存状態を保ちながら知覚と随意運動能力を抑制する。 まさに魔法のような薬であり、外科手術には必須のものである。 人類史上、初めての全身麻酔による外科手術は1804年、日本人の医家、華岡青洲によって実現された。(以下肖像) 華岡青洲は朝鮮朝…

生きる長さを決めるもの

哺乳類の寿命は種によって200倍も異なっていることが知られている。 同じ地球に生きるものなのに、どうして寿命がこれほどまでに異なるのだろうか? とても魅力的な疑問であるにもかかわらず、種間で寿命の差を生み出す分子メカニズムはほとんど分かっていな…

エピジェネ因子の"じゃない方"の機能_DNAメチル化編

エピジェネティクスとは「DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム(脳科学辞典)」として知られる。 よく知られたエピジェネ修飾は、DNAを巻き付けているヒストンのメチル化やアセチル化などの修飾だろう。このほかにもDNAのメチル化、RNA…

ニューロンの多様性を作るメカニズム

私たちは常に外界からの情報を受け取り、処理し、行動に結びつけている。 ご存知のように、これらの情報処理を行うのに重要な器官は"脳"である。 脳の中でも神経細胞、ニューロンがとても重要であることが知られている。 人間には非常に多くのニューロンが存…

ノックアウトとノックダウンの表現型が違うのは?_2

前回の記事で、ある遺伝子をノックアウトした時にその遺伝子に似た機能を持つ遺伝子の発現が上昇する"コンペンセーション"のメカニズムについてまとめた。 まとめると前回紹介したところまでで、 ノックアウトで似た遺伝子の発現が上がるのは ノックアウトに…

ノックアウトとノックダウンの表現型が違うのは?_1

生物はある遺伝子が欠失した時でも、同じような機能を持つ遺伝子を発現させるメカニズム(Genetic compensation、以下"コンペンセーション")を持っている。 よくあるのは、ある遺伝子をノックアウトした際に、ファミリー遺伝子の発現が増加するもの。 (例えば…

赤外線が見える薬!?

私たち人間は、多くの情報を視覚から得ている。 人間が感知することのできる光は 波長がおよそ400nm~700nmの間にある可視光のみである。 一方で、世界には可視光以外の波長の光にもあふれており、 もし「可視光」(波長400nm~700nm)以外の光を「みる」こと…

スーパーエンハンサー小話_1

生物学には"スーパーエンハンサー"という用語がある。 歴史はそれほど長くはない。 初めに"スーパーエンハンサー"と言い出したのはRichard Youngという大物である。 2013年に彼がのグループがCellにBack-to-backで出した2報の論文が "スーパーエンハンサー"…

柳に雪折れなし? 成体の神経幹細胞における転写後制御

拙ブログでも何度か紹介しているように、 次世代シーケンサーの登場によって、多くの細胞種でRNAseqが行われ、 それらの細胞の遺伝子発現が網羅的に調べられてきている。 その勢いや猪のごとく(猪年だけに?)、 三大紙でもRNAseqを見ない週はない勢いである。…

「1細胞1受容体ルール」の分子メカニズム_2

前回の記事で紹介したように、 嗅覚神経には「1細胞1受容体ルール」という面白い特徴がある。 これまで、「1細胞1受容体ルール」を可能にするメカニズムを探索する中で - OR遺伝子(嗅覚受容体遺伝子)は数多くのエンハンサーによって制御されること - OR遺伝…