Bio-Station

Bio-Stationは日々進歩する生命科学に関する知見を、整理、発信する生物系ポータルサイト、を目指します。

最近の生命科学論文

「1細胞1受容体ルール」の分子メカニズム_1

動物はほぼ無限に存在する匂い物質をどのようにかぎ分けているだろうか? 匂いを感知するのは嗅覚系の嗅覚受容体であるが、マウスでも嗅覚受容体の遺伝子数は1000個程度であり、 1受容体が1つの物質を感知する仕組みだとそれほど多くの物質をかぎ分けること…

分化してからの時間が分かるRNAseq

近年、シングルセルRNAseq解析が生命科学研究で広まっている。 シングルセル解析の大まかな使われ方としては - 新しい細胞集団を見つけ出す - 発生/分化過程における遺伝子発現変動をつかむ の2種類があげられる(と思っている)。 後者では、ある細胞からある…

エンハンサー大事_2

先日もエンハンサーについて紹介したが、 https://jugem.hatenadiary.jp/entry/2019/01/30/212419 今回も違った角度からエンハンサーについて扱った論文を紹介する。 ----- 今の生命科学研究では、ある細胞のみを標識すること、が結構重要である。 例えば、…

ウイルス由来配列の発現を抑える

多くの生き物のゲノムには、 ウイルスを由来とする配列が多く含まれていることが分かっている。 例えばその一つで、レトロウイルス由来の配列であるRetroelementsは ヒトゲノムの40%を占めるとされている。 このようなウイルス由来配列は、胎盤形成に関わる…

エンハンサー大事

私たちの体がきちんとできあがるためには、 皮膚の細胞は皮膚の細胞へ、脳の細胞は脳の細胞へと それぞれの細胞がそれぞれのなるべき細胞に分化する必要がある。 この細胞の運命がきちんと制御されることが、正しい発生に極めて重要である。 細胞の運命は転…

温度に合わせて性別が決まるメカニズム

それなりの種類の爬虫類は、卵の時の温度に合わせて性別を決定するという仕組みを持っている。 例えばアカミミガメでは26℃ではほとんどオスになるが、 32℃ではほとんどがメスになることが知られている。 温度で性別をさせる利点ははっきりとは分かっていない…

なぜ毒ガエルは自分の毒で死なないのか?

多くの生物学研究は、マウスやハエ、線虫やゼブラフィッシュなどの モデル生物を用いて行われている。 モデル生物はこれまで数多くの知見が蓄積しているので、 研究を進めるには非常に便利である。 その一方で、地球上にはモデル生物以外の種も数多く存在し…

アストロサイトがリズムを作る

昨年は本庶佑先生がノーベル賞を受賞されて盛り上がりましたが、 おととしのノーベル医学生理学賞は何だったか憶えているでしょうか。 おととしのノーベル医学生理学賞は "概日リズムをコントロールする分子メカニズム"の発見に対して、 ジェフリー・ホール…

long non-coding RNAは意外と、、、??

生き物のゲノムにはlong non-coding RNA(lncRNA) (タンパク質をコードしていない長いRNA) が数多く存在していることが分かっている。 これまで数多くの因子のlncRNAの機能が報告されてきたが、 意外と発生に不可欠であるという報告は少なく、 lncRNAが"死ぬ…

Act locally !

最近の神経科学のトレンドの一つとして、 "軸索でのローカルなもろもろの制御"というのが挙げられる。 例えばこれまで、mRNAはaxonでローカルに必要な場所で合成されるだとか、 m6a修飾がaxonで特異的におこるとかが報告されてきた。 さらに、最近オルガネラ…

ニューロンを生むべきか、グリアを生むべきか

私たちの脳はニューロンやグリア細胞といった細胞から構成される。 このニューロンやグリア細胞は発生期において 共通の起源である神経幹細胞から生み出されることが知られている。 神経幹細胞は興味深い性質を持っていて、 発生の初めの方にはニューロンだ…

紹介できなかった論文たち_2

2018年も最後になってきたので、 今年出た論文で紹介しきれなかったものを簡単に紹介する。 Self-organization of a human organizer by combined Wnt and Nodal signalling, Nature, 2018 1924年にシュペーマンとマンゴールドの実験によって、イモリの初期…

二刀流 in Heart

今年2018年は大谷翔平がメジャーリーグでも二刀流をこなし話題になりましたね。 年の瀬ですが、Scienceにタンパク質も二刀流していたというやつが出ていたので 紹介します。 この論文では、心筋で筋小胞体とT tubeをつなぐ構造タンパク質として知られていたJ…

シングルセルChIP-seq

今回は日本初のテクニックについて紹介しようと思う。 ChIP(クロマチン免疫沈降法)は、 あるタンパク質がゲノム上のどこに張り付いているか調べる方法で、 転写因子の解析やエピジェネティクスの研究でよく使用されている。 具体的な実験としては、以下の図…

翻訳されるnon-coding RNA??

前回紹介したように、(https://jugem.hatenadiary.jp/entry/2018/12/16/145900) 近年non-codingと思われていたRNAから翻訳されていた! という報告がいくつかなされてきた。 今回紹介する論文も感染時に発現する翻訳される"non-coding"RNAを見つけた!、 と…

精子と卵子が出会うとき_2

精子と卵子がお互いを認識しあうタンパク質は受精卵の形成に極めて重要である。 先日紹介したように、https://jugem.hatenadiary.jp/entry/2018/11/27/192536 これまで哺乳類で精子-卵子間相互作用をIzumoとJunoという因子が担うこと報告されてきた。 (Izumo…

端のメチルが役に立つ?

今回は日本人研究者の論文を紹介しようと思います*。 タイトルは完全にプレスリリースのタイトルに引っ張られてます... (プレスリリースのタイトルは"メチルは端だが役に立つ") 少し前の投稿でも解説した通り、 最近新しいRNA修飾としてm6Aが再発見され、そ…

CRISPRの歴史_6

今回はゲノム編集ではなくて、基礎研究のためのCRISPRの応用法を。 先日CellにてでたCRISPR-GOというの(1)を紹介しようと思う。 遺伝子発現は転写因子やクロマチン状態などの要因で制御されることが有名ですね。 しかし近年、遺伝子発現が"遺伝子座が核内の…

CRISPRの歴史_5

今回はCRISPRを治療に使おうという潮流の論文を。 この分野では、 Juan Carlos Izpisua Belmonte (以下ベルモンテ) Lab (ソーク研究所) の成果が目覚ましい。 *ベルモンテは日本人研究者好きで知られている。 Publicationをみても日本人が1stのものも多い。 …

CRISPRの歴史_4

前回xCas9で紹介したDavid Liuの他の仕事について少し。 David Liuさん、これまで存じ上げなかったが、 2017年のNatureが選ぶ10人にも取り上げられるスーパーな研究者らしい。 経歴もなかなかすさまじく、 学部の時はド有機化学でノーベル賞ホルダーのE.J.Co…

CRISPRの歴史_3

今回はCas9の改変体について。 CRISPR-cas9は強力なゲノム編集技術だが、もちろん課題もある。 その一つが、ターゲット配列にかかる制限だ。 Cas9はガイドRNAで標的とした領域すべてを切断できるわけではなく、 標的配列の近傍にPAM(プロトスペーサー隣接モ…

CRISPRの歴史_2

前回、CRISPRの歴史について紹介したが、 Cellに昔出ていた"The Heroes of CRISPR"(Cell, 2015)という総説がかなり良かった。 どういった人々が、どのような経緯で重要な発見に至ったかが記されている。 *オープンアクセスなので誰でも読める。ぜひ。 ちなみ…

CRISPRの歴史

最近ヒトに対してCRISPRでゲノム編集を行ったというニュースが流れた。 (未だ真偽不明だが) 今でこそ、CRISPRは当たり前の技術になりつつあるが、 ゲノム編集のツールとして報告されたのは2012年と新しい。 CRISPRはどのように発見され、開発されてきたのだ…

精子と卵子が出会うとき_1

今回から二回にわけて、精子と卵子が結合するメカニズムについて紹介したい。 私たちの体は37兆個*の細胞からなると考えられていて、 それぞれの細胞が、それぞれの場所で、それぞれの機能を発揮することで恒常性を維持している。 これらのすべての細胞は元…

ヒストンのもつ驚きの機能

DNAを巻き付けているヒストンには銅の還元活性(Cu2+ → Cu1+)があるかも、 という驚きの論文*がでていたので紹介しようと思う。 ヒストンはDNAを巻き付けているタンパク質で、 DNAを核の中にコンパクトに収納するとともに、メチル化などの修飾によって遺伝子…

Ikzf2 (Helios) という因子

Ikzf1(Helios)という聞きなれない遺伝子に関する論文が、 今日のNature*とCell Stem Cell**に報告された。 Natureの方は耳の外有毛細胞の発生に関して、 Cell Stem Cellの方は白血病のがん幹細胞に関してである。 Pubmedで"IKZF1"を検索すると、110件しかヒ…

採用できなかった論文たち_1

比較的最近の論文の中で、このブログで解説しようと思ったが (主に編集者の力不足により)扱いきれなかった論文をまとめて紹介する。 まず、Molecular CellにBack-to-backで出ていた2本の論文。 - Systematic Study of Nucleosome-Displacing Factors in Bud…

レンチウイルスの作成効率を上げる

タイトルそのまま。 レンチウイルスの作成効率を上げる方法を紹介する。 レンチウイルスは目的のプラスミドとウイルスの外殻となるVSVを ウイルス産生用の細胞に導入することで作成される。 ------ 今回の論文では、 このときTaxという遺伝子をコードするプ…

猫も杓子も相分離_2

多くの転写因子はDNA結合ドメイン(DBDs)と活性化ドメイン(ADs)を持つことが知られている。 (下図、一応オレンジ色のまるで囲ってある) これまでDNA結合ドメイン(DBDs)の機能はよく研究されてきたが、 ADの遺伝子発現への機能はあまりよく分かっていない。 **…

同性のマウスから子供を作る_2

前回紹介した通り、同性での生殖を可能にする試みは長い間行われてきた。 今回紹介する論文では、 メス同士から子供を作る効率を上げるとともに、 はじめてオス同士のマウスから子供を作ることに成功した。 ----- メス同士から子供を作るにあたって、筆者ら…