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ニューロンへのリプログラミングの道_1 (Brn2, Ascl1, Myt1l)

私たちの体を構成する多くの分化細胞(皮膚細胞、神経細胞、血球、などなど)は、
 
発生の段階で、より未分化性の高い細胞から生み出される。
 
 
その様子はまるで球が坂を下り落ちるような状態にたとえられ、
 
坂を上るように細胞の状態が変化することはほとんどないと考えられてきた。(ワディントンのepigenetic landscape、図参照)。
 
*1
 
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その定説を覆したのが、山中伸弥先生らの研究で、
 
最も分化した(坂の一番下に位置する)線維芽細胞に4つの遺伝子を導入すると、
 
未分化性の非常に高い(図では坂の一番上にある)iPS細胞を生みだすことを報告してきた*2。
 
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しかしながら、iPS細胞などの未分化性の高い細胞はがん化の恐れがあること、
 
さらに目的の細胞まで分化させるのに手間がかかる、という問題点も併せ持っていた。
 
そこで、iPS細胞の発見の後、分化細胞をiPS細胞までリプログラミングさせることなく、
 
直接、他の分化細胞に系譜変換させる(Direct conversion、図の緑矢印)研究が盛んになった。
 
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その中でも線維芽細胞をニューロンに転換させるという一大論文が2010年に報告された*3。
 
この論文では、19個の遺伝子についてスクリーニングを行い、
 
線維芽細胞にBrn2, Ascl1, Myt1lを導入することでニューロンに系譜転換できることを示した。
 
このできたニューロンは膜電位も持ち、ある程度ニューロンらしいことも示されており、再生医療などへの応用も期待される。
 
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わずか3つの遺伝子の導入だけで、線維芽細胞をニューロンにできるのは非常に驚くべきことだと思う。
 
また、この系譜変換の過程で神経幹細胞的な状態も経由するのかは気になるポイント。
 
タイムコース振ってシングルセルRNA seqすれば分かるだろうが、まだpublishはされていない気がする。
 
さすがにどっかのラボではon goingだろうけど。
 
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さて、当然気になるポイントとして、
 
この3つの遺伝子はどのような分子メカニズムで運命転換させているのだろうか??
 
Brn2(ブレイン2)、やAscl1は神経で機能がよく知られているが、Myt1l(Myelin Transcription Factor 1 Like)とは何者??
 
と思うだろうが、これは次回のお話ということで(予定)。
 
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1. ycu.repo.nii.ac.jp
2. Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors, Cell, 2006
3. Direct conversion of fibroblasts to functional neurons by defined factors, Nature, 2010