ニューロンへのリプログラミングの道_2 (Brn2, Ascl1, Myt1l)
前回、Brn2,Ascl1,Myt1lの3つの遺伝子(頭文字をとってBAM因子)の強制発現だけで、
では、これらの3つの遺伝子はどのような分子メカニズムで、系譜変換を実行しているのだろか?
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3つの遺伝子を発見した同じグループが、Brn2とAscl1について*、さらにMyt1lについて**、
それぞれCellとNatureというBig journalにすでに発表している。
今回はAscl1とBrn2について紹介する。
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まず、Ascl1について。
Ascl1はbHLH型(basic helix-loop-helix、タンパク質の構造のこと)の転写因子で、
(Notchによるnegative feeedbackを受けるのでNotch関連因子としても知られる)
では、今回の例でもニューロン関連遺伝子の発現をAscl1がトリガーしているのだろうか?
実際、線維芽細胞にBAM因子を発現させた際に、Ascl1がどのようなDNA領域に張り付いているか確かめてみると、
系譜転換の際に発現が変化するような遺伝子の近くに結合していることが分かった。
すなわち、予想通り、Ascl1はニューロン関連遺伝子の発現を制御していそうであることが示唆された。
これだけでは、まあそうかという気もするが、筆者たちは、面白いことに
はじめの線維芽細胞ではAscl1の標的遺伝子座のクロマチンは閉じていること、を明らかにする。
しかし、Ascl1を発現すると、それらのクロマチンは開き、転写が活性化する。
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なるほど、Ascl1の働きはなんとなくわかった気がする。
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次にBrn2について。
Brn2はPou3f2としても知られる因子で、一応ブレイン2と呼ばれるだけあって、神経のマーカーとしても使われる。
Brn2はAscl1と違って、標的遺伝子座に自分から行くということもなく、
Ascl1によって呼び込まれてAscl1の結合している領域に結合するらしい。
それでもって、系譜転換の後半で必要な遺伝子の発現をONにするらしい。
筆者たちもAscl1ほどデータを出していないので分かった感は薄いかもしれない。
続報でもう少し突っ込んだメカニズムも分かると嬉しいが....
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いずれにせよ、この一報でAscl1とBrn2の解析はまとめられた。
Myt1lの働きも結構面白いのだけど、Ascl1とBrn2が思いのほか長くなってしまったので、次回(予定)ということで。
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参考
* Hierarchical Mechanisms for Direct Reprogramming of Fibroblasts to Neurons, Cell, 2015
** Myt1l safeguards neuronal identity by actively repressing many non-neuronal fates, Nature, 2017
*** Pioneer Transcription Factors Target Partial DNA Motifs on Nucleosomes to Initiate Reprogramming, Cell, 2015など
**** Ascl1 Coordinately Regulates Gene Expression and the Chromatin Landscape during Neurogenesis, Cell reports, 2015