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ニューロンへのリプログラミングの道_4 (低分子化合物で)

これまで3回にわたって、
 
遺伝子導入によって線維芽細胞をニューロンに系譜転換する方法とそのメカニズムを紹介してきた。
 
今回は、遺伝子導入ではなく、低分子化合物でこのような系譜転換を行う例を紹介する。
 
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遺伝子導入による系譜転換は、
 
- ウイルスを作らなくてはならないので実験的に手間
- ウイルスが重要な遺伝子の遺伝子座に入るとがん化などの危険がある
 
などの問題がある。
 
ウイルスを用いない系譜転換方法はこれらの問題を一部解決できるため有用である。
 
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このような目的で、様々な細胞の系譜転換を低分子化合物で行おう、
 
という研究は数多く行われている。
 
特にSheng Dingらのグループは様々な細胞種への低分子化合物での系譜転換を実現してきた。
 
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その中でも、2016年の論文*では低分子化合物で、
 
線維芽細胞を神経幹細胞に系譜転換する方法を報告した。
 
具体的には
 
CHIR(GSK3 inhibitor), 
LDN, A83(ALK inhibitor), 
RA(レチノイン酸), 
Hh(Smo inhibitor), 
RG(DNAメチル化酵素阻害剤), 
SR(オートファジー調節剤) and bFGF
 
9つの低分子化合物を線維芽細胞に加えるだけで、神経幹細胞に系譜転換することに成功した。
 
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このときできた神経幹細胞はニューロンやアストロサイトを生むことができること、
 
さらにこのニューロンは活動電位を持つことなどを示している。
 
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(遺伝子導入を行わずに)低分子化合物だけで細胞の運命を変えることができる
 
というのは非常に面白く、臨床を目指すうえでも重要だろう。
 
 
今回それぞれの低分子がどのようなメカニズムで系譜転換を実行しているかは明らかにされていない。
 
特に、RG(DNAメチル化酵素阻害剤)、Par(ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)は何をしているのだろうか?
 
そもそも系譜転換の際にどのようにクロマチンが変わるかを含めて今後のbig questionだろう。
 
シングルセルATACseqすればよいだろうが、誰かやっているかな?
 
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もう少しネタはあったが、とりあえず神経系への系譜転換シリーズは今回で休止。
 
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参考
* Pharmacological Reprogramming of Fibroblasts into Neural Stem Cells by Signaling-Directed Transcriptional Activation, Cell Stem Cell, 2016