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猫も杓子も相分離 (Phase separation)

細胞内には膜を持たない細胞内小器官が存在する。(membrane less organelles)
(ストレス顆粒とか、核小体とか)
 
近年、これらの形成機構として相分離(Phase separation)という概念が提唱されている。流行ですな。
 
相分離を起こすと、これらの細胞内構造物を構成するタンパク質の疎水性ドメイン
それぞれ疎水結合で凝集することで、細胞小器官のようにまとまると考えられている。
 
小器官用の構造物だけなく、スーパーエンハンサーも核内で相分離していることも示される**など、核内の構造体の相分離も数多く報告されている。
 
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今回の論文*ではこれまで知られている例に加えて、遺伝子発現を抑制する場の一つ、ポリコームボディも相分離していることを示した。
 
ポリコームというのは結構有名なエピジェネ因子の一つ。
 
ヒストンにメチル化やユビキチン化を導入することで遺伝子発現を抑制することが知られていて、体節形成や神経分化にとても重要である。
 
面白いことにこれまで、ポリコーム複合体は核内でドットのような凝集体を作ることが知られていた。
 
そこで、ポリコームはこの凝集体(ポリコームボディ)を作ることで、遺伝子発現抑制の「場」を作っているのではないかと考えられてきた。
 
では、ポリコームボディはどのように形成されるのだろうか?
 
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筆者らは、ポリコームボディも相分離しているのではないだろうかと考え、検証を行った。
 
このため、タンパク質を精製し、in vitroでポリコームを再構成する実験を行った。
 
この結果、興味深いことに精製したポリコームはそれだけで液滴を作り出すことが分かった。
 
この結果は、ポリコームボディも相分離すること示唆する。
 
 
では、ポリコームボディはどのように相分離しているのだろうか?
 
筆者らは、ポリコーム構成因子の一つ、CBX2の疎水ドメインに着目した。
 
実際、CBX2に点変異を入れるだけで相分離しなくなることを明らかにしている。
(LCドメインの欠損実験の例は多いが、点変異で相分離しなくなるというのはそんなに多くはない印象なので面白い。)
 
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以上の結果から、ポリコームボディも相分離すること、そしてその相分離にはCBX2のアミノ酸配列が重要であることが明らかになった。
 
では、この相分離は遺伝子発現にどれだけ影響するのだろうか?というのが知りたいところであるが、今回の論文ではそこまでは示されていなかった。
 
 
 
最近世の中では、みなさん「相分離!相分離!なんでも相分離!」と大騒ぎのように見えるが、少なくとも管理人は、相分離しているという記述だけでは面白さはもうそんなになくなってきているのではないかと思う。(大事ではあるし、私見です)
 
本当に相分離することが大事なのか、なんで相分離なのかといったさらなる疑問に迫っていければ面白いなあと思っておりますが...
 
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参考
* Phase separation and nucleosome compaction are governed by the same domain of Polycomb Repressive Complex 1, BioRxiv, 2018, (Genes&Develpment, 2019)
** Coactivator condensation at super-enhancers links phase separation and gene control, Science, 2018