ヒストンのもつ驚きの機能
DNAを巻き付けているヒストンには銅の還元活性(Cu2+ → Cu1+)があるかも、
という驚きの論文*がでていたので紹介しようと思う。
ヒストンはDNAを巻き付けているタンパク質で、
DNAを核の中にコンパクトに収納するとともに、メチル化などの修飾によって遺伝子発現を調整すると考えられている。
ヒストンは進化的によく保存されていて、古細菌にもヒストン様のタンパク質が存在する。
しかし、古細菌ヒストンは
- N末端が短くメチル化などの修飾を受けにくそうなこと、
- ゲノムも小さく核もないのでDNAパッキングの必要性が小さい
ことから、ヒストンには転写制御、DNAパッキング以外にも未知の機能があるのではないか、と考えた。
(というイントロなのだが、実験ではすべて真核生物のヒストンしか扱っていない...)
これまでの報告で、進化的に保存された残基であるH3C110とH3H113は
ポケット状の構造を作り、in vitroでは金属に結合することが分かっていた。
しかし、このヒストンの金属結合残基がどのような機能を持っているかはこれまで謎であった。
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この残基の機能に迫るため、筆者らはまず、この残基に変異を入れた酵母を作成した。
このとき、遺伝子発現やクロマチンのopennessには大きな変化がない、
すなわち、H3H113は転写制御、クロマチン状態の制御には大きな貢献はないことが示唆された。
では、この残基の機能は何なのだろうか?
そこで、このH3H113N酵母において、さらに銅のトランスポーターであるCTR1をノックアウトした。
この酵母は生存率が悪くなるが、培地に銅を加えていくことで生存率は上昇する。
すなわち、H3H113Nは銅代謝に異常をきたしている可能性が示唆された。
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ではなぜ、H3H113Nで銅代謝が生存率に影響したのだろうか?
Cu+が必要な有名な経路としてSODを介したROSへの応答があげられる。
そこで、SOD1の活性をみてみると、H3H113NでSOD1の活性が落ちていることが分かった。
さらに、H3H113NのdefectはSOD1依存的であったことから、H3H113Nの表現型の一部は
SOD1を介したROSへの抵抗性であったことが示唆された。
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しかし、本当にヒストンは直接銅を還元しているのだろうか?
これにaddressするため、筆者らは無細胞系を用いてヒストンの銅還元活性を測定した。
すると、驚くべきことに、
ヒストンが直接銅を還元していること、またH3H113Nでは還元できなくなること、
が示された。
(ちなみにいくつかの実験は変異をH3C110に入れた変異体も解析していて、
これらの結果がH3H113のみに依存した表現型でないことを確かめている。)
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以上の結果から、
ヒストンはこれまで考えられてきた機能のほかに、銅還元酵素としての機能があることが初めて明らかになった。
これまで銅代謝に異常をきたすと、ウィルソン病の疾患になるということなどが報告されている。
ヒストンの新しい機能がこれらの疾患の理解につながる可能性もあり興味深い。
また、進化的に元々は銅の還元酵素であったヒストンがDNAをパックするようになった
というストーリーも考えられ、進化的にも非常に興味深い。
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哺乳類で同じように酵素として働いているか、
銅トランスポーターKOというエキセントリックな状況でなくても機能的であるか、
は不明であり、これからの研究が期待される。
いずれにせよ、ヒストンのような有名なタンパク質にも
これまで知られていないような機能があるというのはとても面白かった。
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参考
* The Histone H3-H4 Tetramer is a Copper Reductase Enzyme, bioRxiv, 2018
bioRxivというのはpreprintといわれ、現在査読中の論文が投稿されている。
こちらの方が最新の情報が手に入る、商業誌の不透明なreview processを避けられるということで
最近はbioRxivに投稿している研究者も多い、と思う。