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CRISPRの歴史

最近ヒトに対してCRISPRでゲノム編集を行ったというニュースが流れた。
(未だ真偽不明だが)
 
今でこそ、CRISPRは当たり前の技術になりつつあるが、
ゲノム編集のツールとして報告されたのは2012年と新しい。
 
CRISPRはどのように発見され、開発されてきたのだろうか。
今回は、CRISPRの歴史をざっと振り返りたい
 
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1980年ごろ、塩基配列解読技術の発展によって、いろいろな生物の全ゲノムが解読されるようになった。
その中で、原核生物には回文配列がみられることが分かった。
このときは、この配列が何をしているのかは不明であったが、転写制御を行うと考えられていたらしい。
 
ちなみに、最初の報告は石野先生という日本人の先生である。
原著はこれ。
Nucleotide Sequence of the iap Gene, Responsible for Alkaline Phosphatase Isozyme Conversion in Escherichia coli, and Identification of the Gene Product,  J. BACTERIOLOGY, 1987
 
この後、CRISPRの遺伝子座の近傍にcasというタンパク質があることが見つかったが、
CRISPR/casの機能は未知であった。
 
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2007年、デンマークのグループがCRISPRの機能を報告した(1)。
原核生物は獲得免疫様の免疫機構としてCRISPR/casを用いているのだ。
 
原核生物はファージなどが感染すると、
そのゲノムを切断しCRISPR配列のスペースに組み込んでおく。
 
こうすると、同じファージに感染した場合、
この配列がファージのDNAと相同になり、ファージDNAを結合する。
(RNAiによる生体防御機構に近い)
 
ちなみに筆者らは乳酸菌を扱う会社の人で、初めは乳酸菌を使って実験が行われた
 
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この後しばらくは、原核生物の免疫機構としての研究がなされたが、
2012年、Jennifer A. Doudna, Emmanuelle Charpentier(ダウドナ、シャルパンティエ)のグループによって、
CRISPR/casを用いることで、RNAで標的としたDNAの配列が切断できることが報告された。(2)
 
すなわち、guideとなるRNAを入れておくと、cas9が寄ってきて、DNAを切断できることが分かったのだ。
 
この報告まで、ゲノム編集はハードルが高く、誰でも簡単にできるものではなかった。
この発見以後、マウスやヒトの細胞でゲノム編集ができるか、先を争って研究が行われた。
 
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明くる2013年、先日紹介したkarl deisserothのラボにでオプトジェネティクスの開発に携わっていた、
Feng ZhangらのグループがCRISPRを用いてマウスとヒトの細胞でゲノム編集が可能であることをScienceに報告した(3)。
 
先ほど紹介したダウドナのグループも同じような報告を同月eLifeにだしている。
1カ月にも満たない差であるが、一般的にはフェンチャンのScienceがブレイクスルーとして取り上げられること多い。
 
ちなみに、このフェンチャンとダウドナの争いはここで終わらず、
CRISPRの特許でプライオリティをめぐって裁判沙汰にもなっている。
一応(様々な思惑と政治の上で?)裁判はフェンチャンが勝訴し、CRISPRの特許はボストンが持っている。
 
ただ、科学界での一般的な認識(といいつつブログ編集者の周囲の雰囲気)は、
基礎的なアイデアはダウドナ、応用したのがフェンチャンという感じじゃないだろうか。
 
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ともかく、2013年に現在使われているようなツールとして報告されてから、
2018年にはだれでも使えるツールとして爆発的に普及している。
 
現在はゲノム編集に留まらず、他の用途でも幅広く利用されている。
その辺については、機会があったらまとめようと思う。
 
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参考
(1) CRISPR provides acquired resistance against viruses in prokaryotes, Science, 2007
(2) A Programmable Dual-RNA–Guided DNA Endonuclease in Adaptive Bacterial Immunity, Science, 2012
(3) Multiplex Genome Engineering Using CRISPR/Cas Systems, Science, 2013, Jan 03
(4) RNA-programmed genome editing in human cells, eLife, 2013 Jan 29
 
こうしてみるとCRIPSRはScienceが多いですね。