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紹介できなかった論文たち_2

2018年も最後になってきたので、
今年出た論文で紹介しきれなかったものを簡単に紹介する。
 
 
Self-organization of a human organizer by combined Wnt and Nodal signalling, Nature, 2018
1924年にシュペーマンとマンゴールドの実験によって、イモリの初期胚には
シグナリングセンターのような"オーガナイザー"があることが分かっていた。
オーガナイザーは誘導因子を分泌し、周りの組織の発生運命を決定する重要な領域である。
 
他にもカエルなどでオーガナイザーは発見され、誘導因子の分子実体など研究されてきた。
しかし、このオーガナイザーがヒトにも保存された発生メカニズムであるかは不明であった。
 
筆者らは、
ヒトES細胞を用いることで、ヒトにもオーガナイザーが存在することを見出した。
 
驚くのは最後のFigureで、ヒトESから取ってきた"オーガナイザー"を
ニワトリの初期胚に移植することで二次胚を誘導できることを示している。
 
まさに100年越し(96年だけど)の金字塔か。
 
 
 
Ribosome Incorporation into Somatic Cells Promotes Lineage Transdifferentiation towards Multipotency, Scientific reports, 2018
熊大の太田先生の論文。
これまで筆者らは、皮膚の細胞に乳酸菌をかけるだけでreprogrammingして多能性を獲得することを示していた(!?)
 
しかし、多能性を獲得させる因子の分子実体は分かっていなかった。
そこで分子量で分画して、それぞれ細胞にかけて運命をみるような実験を行った。
 
すると、
(まさかの)乳酸菌のリボソームが多能性を獲得するのに大事であることが分かった。
つまり、乳酸菌のリボソームかけるだけで皮膚細胞がリプログラミングする。
なお、これは市販されている精製リボソームでもこの現象がみられることを示している。
 
にわかには信じがたいが、本当だったらすごい。
次は何でリボソームでリプログラミングできるのかというところだろうか。
 
 
 
Asymmetric Expression of LincGET Biases Cell Fate in Two-Cell Mouse Embryos, Cell, 2018
初期発生で、これまで4細胞期から存在すると思われていた非対称性が、
実は2細胞期からあった、という報告。
 
さらに2細胞期で非対称に発現するnon-coding RNA
その後の運命に重要であることを
KDと過剰発現で確認している。
 
codingより先にnon-codingが見つかったというのもなかなか興味深い。
 
ちなみに、2細胞期の後期で細胞運命がなんとなく決まることは知られていたらしい。
つまりtotipotencyは2細胞期の"間"に(細胞分裂に依存せずに)失われるということか??
 
 
 
Mechanisms Underlying Microbial-Mediated Changes in Social Behavior in Mouse Models of Autism Spectrum Disorder, Neuron, 2018
ヨーグルトを食べると自閉症が治るかも、という論文。
 
筆者らはこれまでに、母親に高脂肪食を食べさせると子供が自閉症になりやすいこと、
またこのとき腸内細菌叢が乱れていて、ロイテリ菌(ヨーグルトに含まれる)を戻すと
症状が緩和すること、を報告していた。
 
前回の報告は環境要因による自閉症だったが、
今回の論文では、
なんと遺伝要因による自閉症(自閉症モデルマウス)でも腸内細菌叢が乱れていること、
さらにロイテリ菌を戻すことで症状が緩和することを示した。
 
使ったのはShank3Bノックアウトというよく使われる自閉症モデルマウス。
 
ロイテリ菌を摂取するだけで自閉症が治るのならば、
これまでの研究は何だったんだという衝撃。
 
ただ、他の自閉症モデルでも共通しているのか、
またそもそも他のラボで再現がとれるのかは検証が必要。
 
分子まで捕まえられれば、本当かもしれないと思えてくる。
 
 
とりあえずこんなもので。
来年もしばらくsingle cell RNAseqとphase separationの流れが続くのでしょうか。
よいお年を。
 

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