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Act locally !

最近の神経科学のトレンドの一つとして、
"軸索でのローカルなもろもろの制御"というのが挙げられる。
 
例えばこれまで、mRNAはaxonでローカルに必要な場所で合成されるだとか、
m6a修飾がaxonで特異的におこるとかが報告されてきた。
 
さらに、最近オルガネラまでもがAxonやDendriteにローカルに存在することが
CellにBack-to-backで報告される*など、
ローカルな制御がグローバルに熱くなっている。
 
ちなみにそのCellによると、
ミトコンドリアもdendritesでコンパートメントを作っていて、
エネルギーをローカルに供給しているらしい(Rangaraju, Cell, 2019)。
また、後期エンドソームもaxonにローカルに存在し、
RNA翻訳の場になっているらしい(Cioni, Cell, 2019)。
 
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今回、さらに驚くべきことに
リボソーム自体がaxonでローカルに翻訳されているぜ!
という報告がBioRxiv**にpostされていたので紹介する。
 
 
近年、axonでのmRNAを検出する手法が開発されてきて、世の中の人々は
axonにリボソーム関係のmRNAがあるのではないかということに
薄々気づき始めていた。
 
そこでまず、筆者らは時期を振って
カエルの視神経のaxonのmRNAを検出する実験を行った。
 
すると、
リボソーム関係mRNAはaxonが枝分かれするタイミングでaxonに多く集まる
ことが分かった。
 
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そこで筆者らはaxonのリボソームRNAは、ローカルに翻訳され、
axonの枝分かれに重要なのではないかと仮説を立てた。
 
ここがおしゃれな実験だが、
筆者らは、axonでのみノックダウンを行う手法を用いて
axonでリボソーム関係RNAをノックダウンした。
 
すると、驚くべきことに、axonでリボソーム関係因子をKDすると、
axonの枝分かれが異常になることが分かった。
 
すなわち、axon中のリボソームRNAはaxon中で翻訳されることが
axonの枝分かれに重要であることが分かった。
 
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さらに筆者らは、アクソンガイダンスに重要な因子であるNetrin1が
リボソームRNAの翻訳を亢進させていることも明らかにしている。
 
つまり、枝分かれさせたい時にNetrinからのシグナルがくると、
その場で、リボソームが合成されて他の因子の翻訳を亢進させるということだろうか。
 
以下がまとめの図。
 
 
これまで誰もが、リボソームは核小体で組み立てられて、運ばれていくと考えてきた。
 
今回の論文では、リボソーム自身がaxonでローカルに翻訳されることを
初めて明らかにした点で非常に衝撃的である。
 
さらに、axonの枝分かれに効くなど、生物学的にもfunctionalなのも面白い。
 
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では、ローカルに制御することにはどういう生物学的メリットがあるのだろうか?
やはり、ローカルにしておいた方がロスが少ないということだろうか?
それともaxon特異的な翻訳機構があったりするのだろうか?
 
今回の論文からさらにいくつかの発見が生まれるのではないだろうか。
 
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ちなみに最初に紹介したCellと同じグループの論文。
PublishされるのはCellかNeuronと予想。外すことが多いけど。
 
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** 生物系のプレプリントサーバー。review前の(後のもあるけど)論文が出ている。
参考
On-site ribosome remodeling by locally synthesized ribosomal proteins in axons, BioRxiv, 2018