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ゾフルーザの作用機序 -Snatching the cap-

今年もインフルエンザが広まる季節になってきましたね。
当ラボでもボスを始めとして発症者が出てしまいました....
 
ただ、去年までと様相が異なるのは、
"ゾフルーザ"という新しい薬が出ていることだろう
 
この"ゾフルーザ"の作用機序は結構興味深いので、
このブログで紹介しようと思う。
 
一言でまとめると、ゾフルーザは
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤なのだが、
それではなんのこっちゃ分からないので説明したい。
 
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インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、
細胞中でRNAからRNAを転写することで自己増幅する
 
 
1970年代、このインフルには面白い性質があることが分かっていた。
 
まず、インフルはRNAウイルスのため、
細胞質で転写、増幅すればよいが、
インフルはなぜか核に移行する、こと。
 
さらに、細胞中のインフルRNAは5末端にキャップをもつが(Krug RM, 1976)、
無細胞系ではインフルRNAはキャップを持てないこと。
 
 
なぜ、インフルはこのような挙動をするのだろうか?
(下にちょっと考えるスペース入れました)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
当時の研究者たちは、数多くの試行錯誤の結果、
インフルは核内で宿主の5キャップを外し、自分に付け替えることで、
ウイルスRNAの転写効率を上げていることを明らかにした。
 
実際の実験は、
試験管内でウイルスを培養して転写効率を測る系で、
ここにmRNAを入れるだけで、(mRNAのキャップがウイルスにつけ変わり)
ウイルスRNAの転写効率が劇的に向上している。
 
試薬ならともかく、転写の系にRNAを入れるという発想もさることながら、
キャップを拉致するというウイルスの生存戦略も驚きである。
 
ちなみに、インフル以外にも
アレナウイルスやブニャウイルスが
このキャップ拉致を行うらしい。
 
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さて、このキャップ拉致反応はウイルスしか行わないので、
この反応を止めてやればウイルスは増殖することができない。
 
そう、ゾフルーザはこのキャップ拉致反応の阻害薬である。
 
 
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤
=キャップを認識してキャップを切り出すヌクレアーゼの阻害剤
ということですね。
 
これまでのタミフルなどはウイルスが細胞外にでていくのを止める薬。
それらとは全く別の機序なのでとても新しい。
 
薬としても1回投与でよい飲み薬ということで飲みやすいらしいです。
 
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普段はあまり気にしない(かもしれない)が、
RNAのキャップは死ぬほど大事なのだな、と痛感。
 
そして本当に基礎の基礎研究から
新薬の開発まで結び付けた多くの人の力に感動。
 
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参考
- Cap and Internal Nucleotides of Reovirus mRNA Primers Are Incorporated into Influenza Viral Complementary RNA During Transcription In Vitro, 1979, JV 
- 塩野義製薬のページ
(*ゾフルーザはシオノギから発売されてますが、特にシオノギ関係者ではないです。)
- RNA学会のブログ。大変参考にさせていただきました。
- Figureはここから改変