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long non-coding RNAは意外と、、、??

生き物のゲノムにはlong non-coding RNA(lncRNA)
(タンパク質をコードしていない長いRNA)
が数多く存在していることが分かっている。
 
これまで数多くの因子のlncRNAの機能が報告されてきたが、
意外と発生に不可欠であるという報告は少なく、
lncRNAが"死ぬほど"重要なのかどうかは不明であった
 
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lncRNAが"死ぬほど"重要なのかを調べるために、
筆者らはゼブラフィッシュにおいて、CRISPR-cas9を用いて、
32種類のlncRNAのノックアウトゼブラを作成した。
 
(32種類は、RNAseqで発現していて、
リボソームはプロファイリングでリードがない=翻訳されない、
かつ進化的によく保存されているものを選んだらしい)
 
その結果、驚くべきことに、
31種類のlncRNAのノックアウトゼブラは
正常に発生し、次世代を残すことができた
 
つまり、今回選ばれたlncRNAのほとんどは
"死ぬほど"重要ではないことが示唆された。
 
唯一表現型が現れたのは
lnc-phox2bbというlncRNAのノックアウトである。
このlncRNAの遺伝子座を完全になくしたゼブラはホモでは胎生致死で、
ヘテロでも顎の形成が異常になる。
 
しかし、驚くべきことに、
lnc-phox2bbの転写開始点のみをノックアウトしたゼブラでは
この表現型は現れなかった。
 
これはとても不思議な現象だが、筆者らは
lnc-phox2bbの遺伝子座にエンハンサーマークであるH3K4me1があること、
lnc-phox2bb全体ノックアウトでは近傍の遺伝子の発現が変化していること、
を突き止めている。
 
すわなち、lnc-phox2bb全体ノックアウトの表現型は、
lnc-phox2bb遺伝子座がもつエンハンサーとしての機能の欠損であろうと考察している。
 
つまり、今回ノックアウトした32種類で
唯一表現型のあったlnc-phox2bbは、
lncRNAとしての機能が重要であったわけではなく、
その遺伝子座がエンハンサーとして働くことが重要であった可能性が示唆された
 
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では、これまで"死ぬほど"重要といわれていたlncRNAはどうなったのだろう?
 
このような"死ぬほど"大事なlncRNAにcyranoというものがある。
 
cyranoをノックダウンしたゼブラは
頭が小さい、尾が短いなどの外見上の表現型があることが
報告されていた。(Ulitsky et al., Cell, 2011)
 
しかし、今回の報告ではCyranoのノックアウトゼブラは
このような表現型を示さなかった
 
そこで、Cyranoノックアウトゼブラに対して、
Cyranoのノックダウンするベクターを導入した。
 
すると、恐るべきことに、
CyranoがないCyranoノックアウトゼブラでも
Cyranoノックダウンと同じ表現型がみられた。
 
すなわち、Cyranoノックダウンでの表現型は、
ノックダウンベクターによるオフターゲット
(予期しない遺伝子の発現を抑えてしまうこと)
であった可能性が示唆された。
 
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この研究から、少なくとも今回ノックアウトした32種類のlncRNAは
ゼブラの発生には"死ぬほど"重要ではないことが示唆された。
 
すなわち、lncRNAは意外と、"死ぬほど"重要ではない可能性がある。
 
ただし、これまでlncRNAの欠損は行動異常などにつながるという報告がなされつつある。
lncRNAはこのような、より高次の生命現象をfineに制御するために使われている可能性がある。
 
また、lncRNAの機能を本当にみるのはたいへんだな、と思った。
lncRNAの論文を見かけても気を付けてデータと主張をみたいですね。
 
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参考
Individual long non-coding RNAs have no overt functions in zebrafish 2 embryogenesis, viability and fertility, eLife, 2019
著者らはきっと"死ぬほど"重要なlncRNAをとりたかったのだろう。
32種類も試して、ひたすらネガティブ(にみえる)データをとり続けた筆者らに敬服。
ハイインパクトジャーナルには載りづらいかもしれないけれど、
こういう研究こそ生命科学を進めている感じがした。