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なぜ毒ガエルは自分の毒で死なないのか?

多くの生物学研究は、マウスやハエ、線虫やゼブラフィッシュなどの
モデル生物を用いて行われている。
 
モデル生物はこれまで数多くの知見が蓄積しているので、
研究を進めるには非常に便利である。
 
その一方で、地球上にはモデル生物以外の種も数多く存在していて、
その一部はモデル生物にはない特殊能力を持っていることが知られている。
 
この非モデル生物を使って研究することで、
初めてわかる知見も数多くあり、非モデル生物の研究は重要である。
 
例えば、GFPももともとオワンクラゲの発光から取られたものだし、
CRISPRも菌(化膿レンサ球菌とか)の自己防御機構から取られたものである。
 
そこで今回(ともう1回?)は、非モデル生物を使った論文を紹介したい。
 
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今回の論文↓
 
ご存知のように、カエルには毒を持つ種がいて、
外的への防御機構として利用している。
 
この中でも、今回の論文の筆者らは
南アメリカに生息するヤドクガエルに注目した。
 
ヤドクガエルはエピバチジンという強い毒を持っていて、
カエル1匹分の毒でバッファロー一頭を死に至らせることができる。
 
では、こんなにも強い毒を体の中に蓄えこんでいるにも関わらず、
なぜ毒ガエル自身は自身の毒でダメージを受けないのだろうか??
 
*ヤドクガエル
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この問題に取り組むため、筆者らは
ヤドクガエルのゲノムを解読した。
*南米まで行ってカエルとってきてゲノム読むのは大変だっただろう...
 
エピバチジンの作用点アセチルコリン受容体とされている。
つまり、エピバチジンはアセチルコリン受容体に結合することで、
神経伝達をブロックすることで毒として働く。
 
そこで、ヤドクガエルのアセチルコリン受容体の配列をみると、
驚くべきことに、ヤドクガエルのアセチルコリン受容体は、
エピバチジンと結合しないようなアミノ酸変異が入っていることが分かった。
 
すなわち、ヤドクガエルは自身の受容体には
エピバチジンが結合しないために効果を発揮しないことが分かった。
 
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しかし、アセチルコリン受容体の変異は、
アセチルコリン自身への感受性も減らしてしまう可能性がある
 
実際、エピバチジンと結合が弱くなるような変異を入れると、
アセチルコリンへの絵都合も弱くなることが示されている。
 
しかし、さらに驚くべきことに、
ヤドクガエルはアセチルコリン受容体にさらなる変異を持つことで、
アセチルコリン自身への結合を弱めないようにしていることが分かった。
 
以上の結果から、ヤドクガエルは
アセチルコリン受容体に2種類の変異を持つことで、
アセチルコリン受容体としての機能を保ったまま、
自身の毒、エピバチジンへの感受性を弱めていることが分かった
 
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毒ガエルはなぜ自分の毒で死なないのか、
というシンプルな疑問に分子レベルで答えを示したすごい論文だと思う。
 
ヤドクガエルにとどまらず、
面白い特徴を持っていながら研究が進んでいない生き物は数多く存在する。
 
そのような生き物の研究から面白い生物の仕組みももっと明らかになるのではないだろうか。
 
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参考
- 原著
Interacting amino acid replacements allow poison frogs to evolve epibatidine resistance, Science, 2017
*結構古いです。すいません。
- 画像はこちらから拝借しました