分化してからの時間が分かるRNAseq
近年、シングルセルRNAseq解析が生命科学研究で広まっている。
シングルセル解析の大まかな使われ方としては
- 新しい細胞集団を見つけ出す
- 発生/分化過程における遺伝子発現変動をつかむ
の2種類があげられる(と思っている)。
後者では、ある細胞からある細胞になるときの遺伝子発現変化から
その変化に重要な遺伝子をとったりすることができるので、結構論文でも見られる。
しかし、現在のシングルセル解析は遺伝子発現の近似性から
疑似的な時間/分化軸を算出しているため、あくまでも机の上での時間軸である。
(遺伝子発現よりより精度の高い方法としてRNA velosityとかがあるわけだけど。)
つまり、現在の手法では"実際の時間軸"を反映した遺伝子発現を検出できないという問題があった。
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今回の論文の筆者らは、腸の幹細胞をモデルに、
"分化してからの時間"情報を残したままシングルセル解析を行う方法を編み出した。
(LastのHans Cleversは腸幹細胞の大御所。超クレバーっす。)
彼らはモデルとして腸の幹細胞を用いている。
腸は分泌するホルモンによってL細胞、I細胞、EC細胞、X細胞、K細胞、N細胞などに分けられる。
これらの細胞種はすべて腸幹細胞から生み出され、3~5日で新陳代謝を繰り返す。
しかし、一つの腸幹細胞から生まれた細胞が次々と細胞種を変えていくのか、
それとも一つの腸幹細胞が決まった多様な細胞種を生み出しているのかは不明であった。
このため、腸幹細胞においては特に時間情報を残したまま遺伝子発現を解析することが重要である。
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では、彼らはどのように時間情報を細胞に当てはめたのだろうか?
彼らは腸の幹細胞は幹細胞の段階でNgn3という遺伝子を発現することに着目し、
このマウスでは、Ngn3が発現する状態では
つまり、Ngn3が発現しなくなる(分化し始める)と、RFPの蛍光強度は時間依存的に短くなる。
(Ngn3陽性細胞をラベルするために用いている)
彼らはこれまでに、RFPの蛍光強度を測定しながら遺伝子発現をみる系を作成しているので、
このマウスを用いることで、分化してからの時間情報を残したまま遺伝子発現をみることが可能になった。
実際、RFPの強度別に細胞集団で遺伝子発現をみてみると、
RFP強度に従って、きれいに分化細胞関連遺伝子の発現が上昇している。
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ただし、腸の細胞は1細胞ごとにHeterogenietyがあるため、
筆者らはこの系を用いてさらにシングルセルRNAseqを行った。
この結果を用いて、RFP強度と遺伝子発現から、
幹細胞からそれぞれの細胞にどのように分化していくかtragectoryを作成した。
すると驚くべきことに腸幹細胞は時間の経過に伴って、自身の細胞種を変えていることが分かった。
一つの例では、分化してからまずL細胞に、ついでL細胞になったのちにN細胞になるらしい。
*おそらく多くの人は、幹細胞が初めから多様な細胞を生む、と思っていただろうから結構な驚きポイント。
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これだけでも十分すごいが、筆者たちはこの運命転換に重要な因子も同定している。
この系では、まさに運命が変わるタイミングで発現が変わる遺伝子が分かるのもいいところ。
この考えで、彼らは運命転換タイミングで発現の変わる因子をピックアップし、
この結果、新たに6つもの遺伝子が腸の細胞の運命に重要であることを発見している。
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これまで"RNAseqはスナップショット"という難題をおしゃれな方法で解決した点で画期的。
(ただしある程度ターンオーバーの早い組織でないと使えないという問題もあるが)
また、シングルセル解析は"きれいな"tragectoryのお絵描きで終わっている論文もあるが、
今回の論文はきちんと機能までみて、tragectoryが本当らしいことをみているのもよい。
今後は別の手法も含め、シングルセルRNAseqに時間情報が付加されるのが一般的になるとよいが。
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参考
Identification of Enteroendocrine Regulators by Real-Time Single-Cell Differentiation Mapping, Cell, 2019