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ChIA-PETの歴史

 
今回はタイトル通りChIA-PETという手法の解説。
 
私たちのゲノムには"エンハンサー"という大事な領域がある。
"エンハンサー"はその名の通り、遺伝子発現をエンハンスする領域である。
 
面白いことに、このエンハンサーは
- 転写を活性化する遺伝子の転写開始点付近だけでなく,かなり離れた領域にも存在する
- 活性化された場合には,しばしばループを形成してプロモーターと物理的に近接関係になる
ことが知られている。(実験医学Onlineより一部改変)
 
以下の図のような感じ。転写因子を含む複合体がプロモーターとエンハンサーを物理的に近づける。
 
 
遺伝子の発現がどのように制御されているか知るには、転写因子がどこのエンハンサーとプロモーターを近づけているのか知ることが重要
 
しかしながら、ゲノム領域の近接情報を保ったまま転写因子と結合しているゲノム領域を同定する手法はなかった。
これを解決したのがChIA-PETという手法。
 
ChIA-PETは簡単に言うとChIPとHiCを組み合わせた手法。
ChIPは転写因子がどこについているか知ることができるが、近接するゲノム情報が取れない。
Hi-Cは近接するゲノム情報をとることができるが、どんな転写因子がくっついていたか分からない。
 
そこで、HiCのように近接したゲノムをくっつけておいてChIPseqしたのがChIA-PET。chromatin interaction analysis by paired-end tag sequencingの略。
 
以下模式図

f:id:Jugem:20190429162053p:plain

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初めてChIA-PETを使ったのはこの論文(Nature, 2009)
*ただこの論文以前にも総説とかで、ChIA-PETという言葉は使っている。
 
JAXのYijun Ruanさんのグループがずっとやっているらしい。このNatureの1stの人は既に独立されている。経歴をみるとまだ40歳になっていないくらいだろう....
 
この論文では、エストロゲン受容体の結合するプロモーター-エンハンサーループをとっている。
 
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最近もシングルセルでこのChIA-PETができるようになりましたよ、というのが出ていたりする(Nature, 2019)。
これはChIA-PETとドロップseqを組み合わせた手法で、シングルセルの解像度でChIP-PETできるもの。一応ChIA-Drop命名
 
どうでもいいが、共著者にはよくChia-Lin Weiさんが入っている。ChIA-PETのChIAはChiaさんの名前とかけてみたんだろうか?
 
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今回は技術紹介で終わり。ともかく、ChIA-PETで転写因子のついているエンハンサー-プロモーターがとれる。
これを使った論文を近々紹介予定。
 
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参考
- 脳科学辞典