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ヒストンの持つ驚きの機能_2

ヒストンの持つ驚きの機能_2
 
ヒストン細胞核の中でDNAを巻き付けてパッキングするタンパク質として知られる(以下の図)。
 
また、ヒストンはメチル化などの修飾を受けることで、遺伝子の発現を制御する大事な役割があることが分かっている。
 
このためヒストン研究の多くは、パッキング因子、遺伝子発現制御因子、としての機能を中心にして進められてきた
 
 
ところが最近になって、ヒストンにはこれらの機能だけではなく、意外に思えるような別の機能を持っていることが示されつつある。
 
例えば、ヒストンは銅を還元する活性があることを拙ブログでも以前紹介した。
 
今回さらなるヒストンの持つ驚きの機能、炎症時にヒストンが細胞外に放出されることで、ヒストンが細胞死を誘導することがある、という論文を紹介する。
 
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筆者らはヒストンの研究者ではなく、心疾患を研究しているグループのようだ。このため筆者らは動脈硬化に着目して研究を始めている。
 
動脈硬化といってもそんなになじみがないかもしれないが、なんと日本人の死因のおよそ1/4は動脈硬化である(1)。このことからも動脈硬化の発症メカニズムを知ることは重要だということが分かる。
 
特に、筆者らはモデルとして、動脈硬化の代表として知られるアテローム動脈硬化を扱っている。
 
アテローム動脈硬化プラークと呼ばれるものが血管の壁に作られることを特徴とする。
 
このアテローム動脈硬化プラークが破綻すると、そこで血小板が血栓を作って、血管が詰まり、心筋梗塞脳梗塞などを引き起こす。以下モデル図参照(参考2より引用)。
 
 
この中でも、アテローム動脈硬化プラークが破綻、がキーポイントである。このプラークの破綻を止めることができれば動脈硬化による血管の閉塞を回避できる可能性がある。
 
では、 プラークの破綻に重要なファクターは何であろうか?これまでの研究で、細胞死、特に血管の平滑筋の細胞死プラークの破綻に寄与することが知られていた
 
一方、免疫細胞も何やら大事らしいことが分かっていたので、筆者らは免疫細胞と平滑筋の細胞死との関係に着目した
 
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筆者らは免疫細胞の中でも、好中球に着目した。
 
なぜなら、アテローム動脈硬化モデルマウスにおいて、好中球が多いと平滑筋の細胞死が増加していることが分かったためである。
(このとき、マクロファージや血管内皮細胞の数および活性化状態にはあまり変化がないことも見ている。)
 
実際、好中球が多くなるような遺伝子改変マウスでは平滑筋の細胞死が増加し、プラークが安定化すること(逆も同様)、から好中球の活性化は血管平滑筋の細胞死を誘導することが示唆された。
 
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では、好中球はどのようにして血管平滑筋を細胞死させているのだろうか??
 
筆者らは好中球の持つ特殊な性質の一つ、好中球細胞外トラップに着目した。
 
好中球細胞外トラップ(NETs)とは、好中球が放出する自身の核酸、ヒストンと顆粒タンパク質などを成分とする網目状の構造物であり、これに細菌等を補足して感染を防御すると考えられている(下図参照)。
 
 
少し端折るが、筆者らは実際、血管平滑筋の細胞死にこの好中球細胞外トラップが必要であることを示している。
 
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では、好中球細胞外トラップはどのように細胞死を誘導するのだろうか?(ここからが本題??)
 
この疑問に迫るため、筆者らは好中球細胞外トラップに含まれることが知られるタンパク質を阻害した
このとき特に抗菌作用が知られる顆粒タンパク質群と、好中球細胞外トラップに多く含まれているヒストンに着目している。
 
この結果、驚くべきことに、顆粒タンパク質の阻害は細胞死に影響を与えない一方、ヒストンの阻害では平滑筋細胞の細胞死が抑制されることが分かった。
 
さらに、特にコアヒストンの一つであるヒストンH4が、特に細胞死への影響が強いことを見出している。
 
*ヒストンは普通核の中でDNAと巻き付いているものというのが"常識"なので、この発見は驚きである。
 
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では、ヒストンH4はどのように細胞死を誘導するのだろうか?
 
例えば、ヒストンH4が何らかのシグナル因子になっている可能性も考えられる。しかし、筆者らは観察によってヒストンH4が膜に突き刺さっている可能性を見出した。
 
ヒストンH4はプラス性の電荷を帯びていることが知られている(カチオン性)。一方、細胞膜はマイナス性の電荷を帯びていることが知られる(アニオン性)。
 
このため、筆者らは、ヒストンH4と細胞膜が静電相互作用により近接し、そのまま細胞膜を破っているのではないかと考えた。なんともびっくりである。
 
実際、プラス性を弱めたようなヒストンH4変異体では細胞死は減少し、プラス性を強めたヒストンH4変異体では細胞死が亢進していることを明らかにしている。
 
 
これは本当ならばインパクトの大きい仮説である。一方、インパクトが大きい分、検証もより丁寧に行う必要がある。
そこでさらに、筆者らはヒストンH4→細胞膜破壊の直接的な証拠に迫った。
 
筆者らは、細胞膜を模倣し人工的に作った脂質二重膜にヒストンH4を振りかける実験を行った。その結果、ヒストンH4を振りかけておくと、脂質二重膜に穴が開く様子が観察された。(以下本論文より引用、黒く見えるのが脂質二重膜に空いた穴)
 
 
すなわち(驚くべきことに)、ヒストンH4は、直接、脂質二重膜を破壊する機能があることが示唆された。
 
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以上のことから、好中球から放たれたヒストンH4が、血管平滑筋の細胞死を誘導していることが示唆された。
 
では、ヒストンH4を阻害すれば、動脈硬化になりにくくなるのだろうか?この点に関して、筆者らは、ヒストンH4を阻害するようなペプチドを投与すると、平滑筋の細胞死が減少すること、プラークが安定化がみられること、を示している。
 
すなわち、ヒストンH4は動脈硬化に対する治療標的の一つになりうることを示唆する。
 
 
結果は以上で、今回の研究で
- 好中球から放出されるヒストンH4が平滑筋細胞の細胞死を誘導すること
- ヒストンH4は細胞膜を破壊することができること
- ヒストンH4の阻害は動脈硬化の治療につながる可能性があること
が見出された。(以下がまとめ図、本論文より引用)
 

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この結果は、ヒストンの持つ意外な機能を明らかにしたという生物学的面白さに留まらず、動脈硬化の治療にも大きな一歩であると考えられる。
 
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ヒストンといえば修飾されて遺伝子発現制御、という印象が強いが、こんな働きもあるのは驚き。ヒストンに限らず、まさかそんな機能があるなんて、という因子はまだまだたくさんあるだろう。
 
この因子はこういう機能、とこれまでの概念に縛られていては新しい発見はできなのかもしれない。
これからも、まさか、と思うような遺伝子の機能が明らかになると面白い。
 
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参考
- Externalized histone H4 orchestrates chronic inflammation by inducing lytic cell death, Nature, 2019
Carlos Silvestre-Roig, Quinte Braster, …, Oliver Soehnlein