神経前駆細胞の大移動@がん
今回紹介する論文は、これまでの紹介してきた中でもトップクラスの衝撃度です。どうぞ最後まで。
がんは日本人の死因の何割かを占める。闘病は大変なので、治せるならば治したほうがいい。
ではそもそも、がんはどうしてできてしまうのだろうか。これまで、たくさんの人たちが、発症に関わる因子をたくさんみつけてきた。その中で、意外なことに神経線維ががんに重要らしいということが分かっている。
これらの研究によると、がんには神経線維が異常に侵入していて、がんの増殖を手助けしているらしい。
実際、いくつかのがんでは神経伝達を阻害すると、がんが小さくなったりすることが知らている。
しかしながら、この神経はどこからやってくるのか?ということは分かっていなかった。
今回は、このがんの中の神経は、脳室から巡ってきた神経前駆細胞に由来するという驚きの論文を紹介。
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以下が今回の論文の流れ
- そもそも神経浸潤はヒトのがん患者にも認められるか?
ヒトの前立腺がん患者の組織を染色、神経の数と症状の相関を検証
→人の患者でもがんの中に神経がある!さらに、神経の数が多いほど患者さんは早い期間で亡くなっていた
がんの神経への浸潤ががんの悪性化を引き起こしている可能性がある!
- 分子メカニズムに迫るため、マウスモデルを作成
面白いことに、がんの中には神経線維だけではなく、神経前駆細胞も存在した。
- 神経前駆細胞はどこからやってくるか?
ここが、この論文のハイライトの一つ!
成体において、神経幹細胞が存在するのは2か所。脳室下体と海馬である。
それぞれに細胞をラベルするウイルスを打ち込み挙動をトレーシング
これらの結果は、がんにおいて脳室下体の神経前駆細胞が、血中に流れ出してがんに生着し、がんを手助けるすることを示唆する!
*神経前駆細胞が脳の外に出ていくというのは、これまで考えらてもいなかったことでとても驚き!!
- この神経幹細胞の移動は他のがんにおいてもみられるか?
肺がん、乳癌の系、またMyc過剰発現でない前立腺がんにおいて同様の実験
→いずれのがんにおいても、神経幹細胞が脳から血管に流出し、がんに生着する!!
すなわち、神経幹細胞の移動と生着は、がん一般に起こりうる性質である可能性がある!すごい!
- 神経細胞の浸潤はがんの悪性化に重要か?
筆者は、神経前駆細胞を単離し、移植
→神経前駆細胞が移植されたマウスではがんのサイズが大きくなる!
つまり、神経前駆細胞が生着することががんの増殖に大事!
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今回の結果から、がんになると脳から神経前駆細胞が流れ出してがんに生着すること、この神経ががんの増殖に大事であること、が示唆された。
以下がまとめ図
ちなみに、がんの患者では認知機能が低下してしまうことがあることが知られている。もしかしたら、この原因は、がんになると神経前駆細胞ががんの方に行っちゃって脳の神経前駆細胞が不足することかもね、というのが筆者らのディスカッション。
*いやいやそんなまさか、とは思ってしまうが、意外とそんなことあったりして。
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神経前駆細胞が脳の外に出てしまう、というのは衝撃的。というかあまりにも想像の範疇を超えているので最初は何を言っているのか分からかった。
とはいえ、Natureに通るだけあるというか、読んでいると、そういうこともあるかもしれないと思えるような気もしてきた。
あとは、本当にこれが本当だと思えるためには、どうしてがんのときに神経前駆細胞が脳の外に出ることができるのか、が明らかになるとよいと思った。
一つの候補としてはエクソソームとかが面白いのかもしれない。例えば、がんは自身のだすエクソソームによって転移先のニッチを形成することが知られているためである。
もしかしたら、がんの出すエクソソームがシグナルとなって、神経前駆細胞の流出を手助けしているのかもしれない、とか。
いずれにしても、続報が楽しみな論文だと思った。
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参考
Progenitors from the central nervous system drive neurogenesis in cancer, Nature, 2019
Nerve cells from the brain invade prostate tumours, News and views in Nature, 2019