DNAメチル化が遺伝子発現を抑えるメカニズム@植物
DNAメチル化は、遺伝子やトランスポゾンの転写抑制に関連している有名なDNA修飾であるが、DNAメチル化がどうして転写を抑制できるのかは不明な点も多い。
哺乳類はいくつかのメチルCpG結合ドメイン(MBD)タンパク質を持ち、これらのタンパク質はメチル化されたCGジヌクレオチドを認識することでクロマチンに結合する。一般的なモデルでは、メチル化されたDNAにMBDがヒストン脱アセチル化酵素複合体をリクルートすることでクロマチンを凝集させ、遺伝子発現が抑制される。
しかしながら、植物ではメチル化DNAを認識して遺伝子発現を抑制するリーダータンパク質は不明であった。
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筆者らのグループは最近の論文(Harris et al., 2018)でメチル化DNAに結合しうるタンパク質を質量分析で網羅的に解析していた。この時はDNAメチル化結合因子としてSUVHという因子を同定し、転写の活性化に寄与することを示していた。
このデータでDNA認識タンパク質の候補として挙がっていた因子の中にMBD5とMBD6があり、今回の研究ではこれら因子に着目した。
まず筆者らは生化学解析やChIP-seqなどを駆使してMBD5とMBD6がメチル化されたDNA(特にCG配列)に結合することを明らかにする(説明端折りすぎか、、?)。これによりMBD5とMBD6はメチル化DNA認識タンパク質であることが分かった。
問題は、MBD5とMBD6が遺伝子発現に対して促進する方に働くのか、抑制する方に働くのかという点である。なぜなら一般にDNAメチル化は発現抑制であるが、前回筆者らが見つけた因子はDNAメチル化に結合して転写を活性化する因子であったからである。
この結果、MBD5,6の二重変異体では野生型ではほとんど発現していないような遺伝子の発現が異常に促進していることが明らかになった。
このことから、MBD5とMBD6は遺伝子発現を抑制する方向に働くことが示唆された。
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メチル化DNAを認識する発現抑制因子を同定するだけも相当すごいが、ここからも結構すごい。
次に筆者らはMBD5,6が遺伝子発現を抑制する分子メカニズムに迫った。
このために、MBD5とMBD6で免疫沈降-質量分析を行いMBD5及びMBD6と相互作用する因子を探索した。
驚くべきことに、このSILENZIOを欠損するとMBD5,6の変異体と同じように遺伝子発現が脱抑制されることからSILENZIOは発現抑制に関わることが示唆された。
さらにさらに筆者らは、SILENZIOを特定の遺伝子座に強制的にリクルートする系を用いることで、SILENZIOは遺伝子発現を抑えるのに十分であることを示している。
(1列目:SILENZIOはMBD5/6と相互作用し遺伝子発現を抑制する。3列目:ZF108でSILENZIOを特定のゲノム領域にリクルートすると遺伝子発現を抑制する。)
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そこでSILENZIOに対して免疫沈降-質量分析してみると、実際ヒートショックタンパク質が相互作用する因子として検出された。
面白いことに、ヒートショックタンパク質と相互作用すると思われるSILENZIOのアミノ酸配列に変異を入れると遺伝子発現の抑制効果が減少したことから、ヒートショックタンパク質との相互作用がSILENZIOによる発現抑制に重要である可能性がある。
これは哺乳類でよく調べられてきた"MBDタンパク質→ヒストン脱アセチル化"とは全く異なる経路でありとても興味深い。
結果は以上で、メインポイントとしては
・植物でDNAメチル化を認識して遺伝子発現を抑える因子としてMBD5、MBD6を同定
・MBD5、MBD6は遺伝子発現の抑制に貢献する新規因子SILENZIOと相互作用する
・さらにSILENZIOはヒートショックタンパク質と相互作用することで発現抑制に重要かも
というところだろう。
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コメント
・植物のメチル化認識抑制因子同定だけもすごいが、さらに発現抑制にヒートショックタンパク質が関わっているのは相当面白い。
・ヒートショックタンパク質がどのように発現抑制に効いているのか、哺乳類でも保存されているのか?などが次の疑問だろう。いずれにしてもめちゃ面白い。
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MBD5 and MBD6 couple DNA methylation to gene silencing through the J-domain protein SILENZIO, Science, 2021
Lucia Ichino, Brandon A. Boone, Luke Strauskulage,..., Sy Redding, Steven E. Jacobsen