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細胞外タンパク質の品質管理

タンパク質の異常な凝集などは、神経変性疾患をはじめとして種々の疾患の原因となりうることから、タンパク質の品質は生体内で保たれる必要がある。
 
これまで細胞内でタンパク質の品質管理を担う因子は数多く同定されてきたが、細胞外タンパク質の品質がどのように担保されているかはあまり分かっていなかった
 
今回線虫の系を用いて、細胞外タンパク質の品質管理を行うメカニズムに迫った論文を紹介する。

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今回紹介する論文
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細胞外タンパク質の品質の異常の一つとして、タンパク質の凝集があげられる。
 
そこで筆者らはまず、細胞外タンパク質の凝集をモニターするような実験系を立ち上げた。
 
具体的には、細胞外に放出され、凝集しやすいことが知られていたLBP-2という因子に蛍光タグをつけた線虫を作成した。
 
次にこの線虫を用い、LBP-2の凝集が異常になるような変異体をRNAiスクリーニングで網羅的に探索した。
 
この結果、57遺伝子がヒットし、さらにドメイン探索から酵素活性を持っていそうで、かつ表現型が大きかった13因子に着目した(extracellular regulators (ECRs)と命名)。
 
これらの因子はタンパク質の凝集を阻害するような機能があることが予想され、実際13遺伝子それぞれの欠損ではLBP-2の凝集が増加することをみている。
 
(ちなみにLBP-2だけでなくLYS-7というタンパク質の凝集でも同じようなことをみているので、これらの因子はLBP-2だけでなく多くのタンパク質の品質管理を担っていることが期待される。)
 
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さらに筆者らはこれらの因子を過剰発現するだけで、凝集タンパク質が減少するかを検証した。
 
このために、ECRのうち、CLEC-1とLYS-3という因子に加え、機能が全く不明な遺伝子2つ(C36C5.5 and F56B6.6)を過剰発現するような線虫を作成し、解析を行った。
 
この結果、これら4つのECRそれぞれ単独の過剰発現によってLBP-2の凝集が減少することが分かった。
 
すなわち、ECRは過剰発現するだけで細胞外の凝集タンパク質を減らせることが分かった。
 
また興味深いことに、これら4つのECRはLBP-2と共局在し、ECRの少なくとも一つは免疫沈降でLBP-2との相互作用が検出されたことから、ECRは細胞外凝集タンパク質と直接相互作用して効果を発揮している可能性が示唆された。
 
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筆者らはさらに、これまでタンパク質の品質管理と老化の関係が示唆されてきたことから、細胞外タンパク質の凝集と老化の関係に着目した。
 
結果をまとめると、LBP-2の凝集は老化に伴って増加すること、さらにECRの過剰発現により凝集は減少し、寿命が延びることを見出している
 
ちなみに、免疫の活性化との関係も見ているが結果は省略。
 
以下がまとめ図。(News&Viewsから引用)

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この研究では、細胞外タンパク質の凝集をモニターする系を確立し、細胞外タンパク質の品質管理を担いうる遺伝子を複数同定した。
 
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コメント
 
・めっちゃ大事そうなのに細胞外タンパク質の品質管理メカニズムって意外と分かっていなかったのね。Questionがいかしてますね。
 
・ECRが細胞外タンパク質の品質管理を担うメカニズムは気になる。凝集したやつを分解に導くのか、そもそも凝集自体を防いでいるのかもちょっとよく分からない?あと凝集タンパクを認識する仕組みも知りたい。
 
・哺乳類にも今回見つかったECRのオルソログがあるらしい。哺乳類での機能も知りたいところ。
 
今回紹介した論文
Extracellular proteostasis prevents aggregation during pathogenic attack, Nature, 2020
Bio-station, 2020, communicated by L.F.