植物の水分センサー
水は生命にとって必須であるが、多くの生物は水が欠乏した状態にも耐えうる方法を獲得している。
その中でも植物の種子は数年から数千年の間、乾燥した条件の中でも生存し続けることができる。
種子は水を吸収すると細胞活動を再開し発芽する。この適切な水の感知による発芽のコントロールが苗の生存には重要である。
しかし、どのような分子がどのようにして水を感知しているのかは明らかではなかった。
そこで今回紹介する論文では、種子が水を感知するタンパク質を同定し、その物理的特性に迫った。
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興味深いことに、種子で高く発現するこれらのタンパク質は明確な構造を持たない傾向が強かった。(図1, C)
このタンパク質の中から相分離しやすいことが知られるプリオン様ドメインを持つタンパク質を14因子抽出した。さらにこの14因子の中からこれまで性質がよく分かっていなかった遺伝子"AT4G28300"に着目し、"FLOE1"と命名した。(図1, D)
(ちなみに探している分子がプリオン様である必要も、転写因子やRNA結合因子ではない必要性も特に感じられなかったので最初からfloeに着目したというよりいくつか解析して後から当たったやつを論文にしている気もする、分からないが)
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いくつもの実験をまとめると、FLOE1は乾燥した環境では細胞内で分散して存在するが、湿気た環境では相分離した液滴のように存在し、さらにこの2つの状態は可逆的であることが明らかになった。
このように周辺の水の量でFLOE1が性質を変化させることから、FLOE1は水を感知している可能性が示唆された。
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さらにFloe1の発芽に対する影響を解析するため、筆者らはCRISPRをもちいてFloe1をノックアウトしたシロイヌナズナを作製し、解析をおこなった。
Floe1の変異体は通常の環境では野生型と同じように発芽したが、塩によるストレス環境下(水分量が少ない環境を模倣)でも高い割合で発芽してしまい、結果的にうまく発育できないことが明らかになった。
このことからFLOE1は水を感知し、水分量の少ない不利な環境での発芽を抑制していることが示唆された。
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次に筆者らはFLOE1が機能する分子メカニズムに迫るため、FLOE1の物理的性質の解析を行った。
FLOE1はDS(アスパラギン酸、セリン)に飛んだDS-richドメイン、核形成に重要なnucleationドメイン、コイルドコイルドメイン、QPS(グルタミン、プロリン、セリン)の多いQPS-richドメイン、謎のDUFドメインならなる。
結果をまとめると、QPSドメインが相分離には重要で、QPSを欠いた変異体は相分離できないことが明らかになった。
では、相分離するという生化学的性質は表現型につながるのだろうか?
このために筆者らは、Floe1を欠損したシロイヌナズナに種々のFloe1変異体を発現させて野生型と同じように発芽するか検証した。
この結果Floe1の欠損で塩ストレス環境下での発芽率が上がってしまう条件下で、野生型Floe1を発現させると発芽率が減少するが、QPSの欠損した相分離できないFloe1変異体を発現すると発芽率は高いままであることが分かった。
このことから、相分離能と塩ストレス環境下での発芽率には相関があることが分かった。
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結果は大体以上でまとめると、
・植物の種子に発現し周りの水分量によって性質を変化させる因子としてFloe1を同定
・Floe1は水分量の少ないストレス環境下での異常な発芽を抑制していることを発見
・Floe1は相分離を起こし、相分離能と発芽の表現型に相関があることを発見
という感じ。
なんとなくまとめのイラストは以下。
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コメント
・すごい因子を機能の知られていないタンパク質からとってくるのはすごい。
・相分離から発芽(あるいは遺伝子発現)までの詳しいメカニズムが分かるともっと面白いかも?
A prion-like protein regulator of seed germination undergoes hydration-dependent phase separation, Cell, 2021
*データの画像はbioRxivバージョンとGraphical abstractから引用