腸内細菌が宿主の行動を変化させる!?
私達人間を含む動物は、腸内細菌をはじめとして多くの生き物と共生している。
これまで、腸内細菌が宿主の行動を変えうることを示唆することが報告されてきたものの、そのメカニズムはあまり分かっていなかった。
今回、ある種の腸内細菌が神経伝達物質を合成し神経に働きかけることで、その腸内細菌の利益となるように宿主の行動を変化させることを明らかにした論文を紹介する。
---
はじめに筆者らは、線虫を用いて宿主の行動を変化させうる腸内細菌を探索した。
ここで、線虫にいろいろな種類の細菌を食べさせることで、この忌避反応に変化が現れるような細菌を探索した。
その結果、Providencia sp. JUb39(以下JUb39)という腸内細菌を摂取すると、線虫のオクタノールへの忌避反応が減弱することが分かった。
またこの時、 JUb39を殺して摂取させると忌避反応の減弱は見られなかったので、JUb39が生きて何かを産生することが宿主の行動変化をもたらすのに重要である可能性が示唆された。
---
では、JUb39の何が、宿主の行動を変化させるのだろうか?
このことから、チラミンがJUb39から供給されている可能性が示唆された。(ちょっとややこしいので下図参照)
---
では本当にJUb39はチラミンを合成できるのだろうか?
そこで筆者らはJUb39の全ゲノムシーケンシングを行うことで、チラミンを合成しうる遺伝子を探索した。(すごー)
その結果、JUb39は他の種にみられるチラミン合成酵素に似た配列を持つ遺伝子を持っていることが分かった。
さらに質量分析による解析からなんと、JUb39はこの遺伝子によって、実際にチラミンを合成できることが明らかになった。
----
このチラミンはどのように行動を制御するのだろうか?
---
では、JUb39が宿主の化学物質に対する忌避行動を減弱させる生物学的意義は何だろうか?
JUb39はアルコール類を産生するすることが知られている(オクタノールを産生するかは不明らしい)。
つまり、JUb39は線虫のアルコール忌避性を減弱させることができれば、より自分たちが食べられやすくなる(寄生しやすくなる)と考えられる。
実際、JUb39は他の餌よりもより線虫に好まれる傾向にあり、この傾向はJUb39のチラミン合成や線虫のオクトパミン合成に依存していることを明らかにしている。
すなわち、JUb39は自身が食べられやすくなるように宿主の行動を制御している可能性が示唆された。
結果は以上で、繰り返しになるが今回、腸内細菌の一種が神経伝達物質を合成し神経に働きかけることで、その腸内細菌に利益となるように宿主の行動を変化させるというモデルが提唱された。
---
管理人コメント
・いやー、腸内細菌に行動変えられてしまうなんて怖いなぁ。自分の意志だと思っていることも本当は腸内細菌の心の(お腹の?)声だったりするんだろうか。
・とはいえ、どれだけ哺乳類にも保存されていて一般的な生命現象なんだろう。抗生物質飲んでもあんまり行動変わる感じもしないし、そんなに一般的ではないのかも?とは感じるが。
・チラミン合成酵素ホモログ探すために全ゲノムシーケンスなんてすごいなぁと思ったけど、今の時代結構簡単にできるのか?すごい時代だと思った。
・グループミーティング用に解説記事かいたけど、ラボ全体のジャーナルクラブ用にしてもよかったかな。。
---
今回の論文
A neurotransmitter produced by gut bacteria modulates host sensory behaviour, Nature, 2020
(Bio-staion, 2020, Communicated by L.F.)