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転写因子のヒストン自体への結合が細胞運命に重要?

私たちの体は多様な細胞種によって構成され、それぞれの細胞に正しく分化するにはそれぞれの細胞群に必要な遺伝子セットが活性化される必要がある。
 
細胞分化に伴って特定の遺伝子セットを活性化するには、それまでクロマチンが閉じていた領域をオープンにしていく必要がある。
 
しかし普通の転写因子はクロマチンをオープンにできず、イオニアファクターという特別な因子群のみがこの閉じたクロマチンをオープンにしていく活性を持つことが知られている。
 
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研究が進んでいるパイオニアファクターの一つにFOXA1という因子があり、初期発生に重要であることが知られている。
 
これまでFOXAとヌクレオソームを精製して試験管で混ぜ合わせた系において、他の因子がなくてもFOXA1はクロマチンをオープンにしていくことが示されている。
 
興味深いことに特にこの再構成系におけるクロマチン構造変化には、FOXA1のヒストン結合ドメインが重要であることが知られてきた(Cirillo, L. et al. Mol. Cell, 2002)。
 
しかし、FOXA1がドメイン中のどのアミノ酸残基を介してヒストンと結合するのか、そしてFOXA1のクロマチンオープニング活性が生体内においても重要なのかは不明であった。そこで今回この疑問に迫った論文を紹介する。

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今回紹介する論文。コレスポのKenneth Zaretはパイオニアファクターのパイオニアらしい。
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まず筆者らは、FOXA1のどのドメインがヒストンと相互作用するのかを検討した。
 
このため、精製したFOXA1とヒストンを試験管の中で混ぜたのち、ホルムアルデヒドによって架橋して結合部位を固定したのち質量分析にかけることで両者の相互作用部位を同定した。(クロスリンキング質量分析と呼ばれるらしい。)

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イメージ図。イメージとしてはタンパク質でHi-Cするような感じ
この結果、FOXA1のDNA結合ドメインの近くのリジン残基(K270)とC末端のリジン残基(K414)がヒストンと相互作用している可能性が明らかになった。
 
実際、この残基の周辺に変異を入れたFOXA1はヒストンと相互作用が弱くなっていることを示している。
 
興味深いことに、進化的に保存された配列を持つK414周辺に変異を入れたFOXA1は再構成系(vitro)の系においてクロマチンオープニング活性が弱くなることも見ている。
 
以上から筆者らは、FOXA1がヒストンと相互作用するアミノ酸残基を特定し、その配列がvitroにおいてクロマチンを開くのに重要であることを示した。

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FOXA1のタンパク構造の模式図。K270とK414がヒストンと相互作用する候補部位
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では、このヒストンと相互作用するドメインこそが生体においてFOXA1が生体で機能するために重要なのだろうか?
 
FOXA1のノックアウトマウス胎生致死になることが知られてきたが、これまで解析されてきたノックアウトマウスは大きくFOXA1を欠損するものだったため、機能に重要な詳細なドメインは不明であった。
 
このため、筆者らはヒストンと相互作用する部位を10アミノ酸だけ欠損するFOXA1の変異体マウスをあらたに作成した。
 
このFOXA1変異マウスを解析するとなんと、一部の胎児が発生遅滞を示し、大人にまで成長するマウスは見られなかった。
 
このことから、FOXA1のヒストン結合ドメインは生体においても重要な働きをすることが分かった。
 
あとは端折ってしまうが、FOXA1が高く発現している胎生7日目の時点で、FOXA1の変異体では遺伝子発現やクロマチン状態が変わっていることを見ている。
 
まとめると、今回パイオニアファクターの一つであるFOXA1について、FOXA1がヒストンと相互作用するドメインを明らかにし、そのドメインが生体においても重要であることが示された。
 
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管理人コメント
 
転写因子が"コアヒストン"と結合することがクロマチンをオープンにするのに重要とは!!というのがびっくりですね。
 
ほかのパイオニアファクターでも同様なことが見られるのかは気になります。
 
全体に、タンパク質のドメインを探索するような解像度からマウス個体の生存を見るような解像度まで一つなぎで解析されていて、分かった感のある論文でした。
 
分子から個体までがつながる研究いいですね。
 
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今回紹介した論文
Gene network transitions in embryos depend upon interactions between a pioneer transcription factor and core histones, Nature Genetics, 2020 (リンク)