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正確な翻訳が寿命を延ばす?

正常なタンパク質を作ることは個体の生存に重要であると考えられているが、タンパク質翻訳のエラーが寿命に与える影響については分かっていないことも多い。
 
というわけで今回タンパク質翻訳の正確性と寿命の関係に迫った論文を紹介する。

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Open Acessなので論文から図をたくさん拝借しております。
 
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これまでの論文で、タンパク質翻訳を担うリボソーム構成因子の中で翻訳の反応にはRPS23というのが特に重要なのではないかと報告されてきた。
 
そこでまず筆者らはRPS23のアミノ酸配列の違いをあらゆる生物種で比較した。
 
すると一部の(超)好熱古細菌では、他の種ではリジンである60番目の残基がアルギニンであることが分かった。
 
これら好熱菌は高熱や酸性環境など過酷な環境で生き延びることが知られるため、筆者らはこのアミノ酸の違い(K60R)に着目した。

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まず、このRPS23のK60Rの特性に迫るため、RPS23の60番目のリジンをアルギニンに置換した酵母とハエを作成した。
 
この変異体を用いて翻訳の正確性を測定するレポーターアッセイ(ストップコドンできちんとストップできないと活性のあるタンパク質が発現してしまうという仕組み)を行った。
 
この結果、特に老化した個体でRPS23 K60R変異体は翻訳の正確性が上がっている可能性が示唆された。

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そこで筆者らは次に、このRPS23 K60Rの変異が寿命に与える影響を検証した。
 
先ほどと同様に、RPS23の60番目のリジンをアルギニンに置換した酵母、線虫とハエを作成し、寿命を測定した。
 
すると酵母、線虫とハエのいずれにおいても、K60Rの変異体はコントロールに比べ寿命がのびることが分かった。
 
これは翻訳の正確さが寿命を延長する可能性を示唆する。(すごい)

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ちなみに、K60Rで寿命が延びるんだったらすべての生物種が60Rを持てば生存に有利な気もする。
 
しかし、筆者らのデータによるとこのK60R変異体は増殖や成長ののスピードが遅いらしい。
 
というわけで(今回の例では)成長速度と寿命はトレードオフの関係になっているらしい。

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最後にこの翻訳の正確性と寿命の関係がより一般的なものであるかを調べるために、これまで抗老化作用が報告されていた低分子化合物が翻訳の正確性を変化させるかを検討した。
 
このために、ラパマイシン、トリン1、トラメチニブという3つの薬剤をハエの細胞に振りかけて翻訳の正確性を測定した。
 
この結果、これら3つの薬剤はいずれも翻訳の正確性を上昇させることが示唆され、翻訳の正確性が寿命に広く影響する可能性が明らかになった。

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コメント
・翻訳の正確性と寿命、いかにも関係ありそうだが古細菌からアミノ酸置換を見つけてきて因果関係に迫っているのは面白い。
・そもそも老化などに伴ってどの程度の翻訳エラーがどういうところでおきているかとか結構気になるのだけどもうやられているんだろうか?
 
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今回の論文
Increased fidelity of protein synthesis extends lifespan, Cell Metabolism, 2021
Victoria Eugenia Martinez-Miguel, Celia Lujan, ... ,Tobias von der Haar, Filipe Cabreiro and Ivana Bjedov