Bio-Station

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2021年 ノーベル医学生理学賞;温度と圧力のセンサー分子の発見

2021年のノーベル医学生理学賞は「温度や圧力を生物はどのように感知するか?」という謎に取り組んだデビッド・ジュリアス氏アーデム・パタプティアン氏に授与されます。

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David JuliusさんとArdem Patapoutianさん

Biostationでは、受賞対象となった研究についてまとめてみようと思います。内容はおおむねノーベル財団の公式発表に基づいております。
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暑さや寒さ、私たちを取り巻くものの形など、周りの物理的環境を私達がどのように感知しているかという疑問は、長い間人類を魅了してきました。

1900年代前半には温度や圧力が特定の神経を活性化することがすでに明らかになっていましたが、温度や圧力を直接感知し、神経活動に変換する分子の実態はデビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏の研究までは不明でした。

デビッド・ジュリアス氏は辛味成分の受容体の同定をきっかけに熱を直接感知するTRP受容体を発見し、アーデム・パタプティアン氏は冷感受容体であるTRPM8とともに圧力センサーであるPIEZOという分子を同定しました。

この記事ではどのようにこの発見がもたらされたのかを簡単に説明していきたいと思います。

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温度感受性イオンチャネルとしてのTRPV1の発見

1990年代後半、デビッド・ジュリアス氏は唐辛子の辛味成分として知られる"カプサイシン"の作用メカニズムを理解することで痛みのシグナル伝達経路を解明しようと試みました。

当時、カプサイシンは辛味成分として灼熱感をもたらし神経活動を介して発汗を促進することなどが知られていましたが、カプサイシンがどの分子に作用しているのかが不明だったのです。

カプサイシン作用点を網羅的に探索するため、ジュリアス氏らは感覚ニューロンに発現している遺伝子群を発現させることで、普段カプサイシンに反応しない細胞(HEK293T)をカプサイシンに反応できるようにさせる遺伝子を同定しようと試みました。

この結果、最終的にカプサイシンに対する反応性をもたらす単一のcDNAクローンを単離することに成功しました(カギとなった論文1)

この遺伝子は,相同性検索の結果,一過性受容体電位(TRP)カチオンチャネルのスーパーファミリーに属することが判明し、のちにTRPV1チャネル(当時はVR1)と命名されました。

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論文1より。A; 感覚ニューロンに発現している遺伝子群を発現させた培養細胞はカプサイシンに反応するようになる。

さらに、ジュリアス氏らはTRPV1の温度上昇に対する影響を調べ、TRPV1は有害な熱(>40℃)を感知するのに重要であることを明らかにしました。

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有害な熱の感覚;第2、第3のTRPチャネルの発見

さらなる研究で、TRPV1が炎症時の熱に対する感受性の増加に重要な役割を果たしていることが分かりましたが、Trpv1を欠損させた動物では,急性の不快な熱感覚がわずかに失われるだけだったことから,他の熱感受性受容体が存在するはずであることが明らかになりました。

そこで2011年に第2のTRPチャネルとして、TRPM3が不快な熱に対するセンサーであることを報告しました。この論文はTRPに着目して特定の神経で高いTRPを探すことで特定に結び付けたようです。

ただ、Tpv1とTrpm3のダブルノックアウトでも不快な熱に対する反射反応が鈍化したものの,消失はしなかったらしいです。

そこで、デビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏は独立して、第3のTRPチャネルとしてTRPA1を同定しました。TRPA1は,マスタードオイル,ワサビ,シナモン,ニンニク,クローブ,ショウガなどに含まれる活性化合物や,脂質化合物,環境刺激物質,その他の化学物質など,さまざまな有害な外部刺激の検出に関与していることが分かっています。

TRPA1は少し複雑な物性を示すことが知られていますが、少なくともマウスの有害な熱感覚には、TRPV1、TRPM3、TRPA1の3つのイオンチャネルが関与しているということが知られています。

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寒さの感覚

熱さとは反対に、私達は寒さも感じることができます。デビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏は同時期に、この冷感センサーとしてTRPM8を同定しました。(カギとなった論文2, 3)

ジュリアス氏は冷感を感じさせる化合物のメントールが作用する分子をTRPと同様のスクリーニングの系で決めようと試み、TRPM8を同定しました。

さらなるTRPM8こそが冷感のセンサー因子であり、マウスのTrpm8を欠損させると冷感の感覚が損なわれることが報告されています。

これらの研究によって、現在のところTRPV1、TRPA1、TRPM3、TRPM2、TRPM8という因子たちが温度感覚に重要な役割を果たしていることが実験的に確認されています。

ヒトにはいくつかの遺伝的な「TRPチャネル異常症」が知られています。常染色体優性のTRPA1チャネル症(Familial Episodic Pain Syndrome type 1)は,温度感知TRPチャネルのうち,TRPA1の点変異によって引き起こされ,寒さ,絶食,身体的ストレスが引き金となって,衰弱した上半身の痛みが現れます。

今後の研究によりこれらの疾患の治療にもつながる可能性があります。

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脊椎動物の機械感受性イオンチャネルの発見

アーデム・パタプティアン氏はさらに"機械的な刺激"を受容する分子の同定を試みました。

このような因子を同定する系として、培養細胞であるNeuro2a細胞を用い、細胞膜を凹ませてパッチクランプ記録を行うことで、機械的な力によって引き起こされる可能性のある電流を検出する系を用いました。

そこでこのNeuro2a細胞に発現する2回以上細胞膜を貫通するタンパク質72種類を候補因子とし、これらの遺伝子をそれぞれノックダウンすることで機械刺激に対する応答が弱くなる遺伝子を探索しました。

その結果、Fam38aをノックダウンすると機械的に活性化される電流がなくなり、対応するタンパク質はギリシャ語で圧力を意味する「piesi」にちなんでPIEZO1と名付けられました。

このPIEZOこそが、探し求められていた"機械的な刺激"を受容する分子の実態です。

PIEZO1をヒト胚性腎細胞(HEK-293)に強制発現させると機械的感受性を持つようになり、細胞膜に圧力をかけると大きな電流が流れることがわかりました。また、配列の相同性から、PIEZO2と名付けられた第2の機械感受性チャネルが発見されました。

PIEZOタンパク質はまったく新しいクラスの脊椎動物の機械刺激性チャネルであり、ユニークな38回膜貫通型のヘリックストポロジーを示していて、以下のような面白い構造を持つ分子であることもその後の発見で分かってきています。

 

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Piezo1構造のイメージ

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PIEZOの生理機能

PIEZOは手足のいわゆる触覚刺激だけではなく、胚の圧力や血圧、消化管や膀胱の圧も感知している可能性が明らかにされています。

例えば、気管支や細気管支の壁にある肺ストレッチ受容体上に存在するPIEZO2チャネルは,大きな吸気によって活性化され,肺を過剰な膨張から守る反射を開始することを示されており、発生段階でPiezo2を欠失させると,呼吸困難に陥り出生時に死亡することが知られています。(カギとなった論文5;管理人所属ラボの隣のラボから留学された野々村さんのお仕事です、おめでとうございます!)

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PIEZO2遺伝子の機能低下変異は、手指、足、足指の複数の関節に先天的な収縮があり、プロプリオセプションや触覚に障害がある遠位性関節グリポーシス(DAIPT)と呼ばれる疾患を引き起こします。このほかにもPIEZOはいくつもの疾患への関与が知られており、これらの発症メカニズムの解明にも近づくことが期待されます。

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まとめ(プレスリリースまとめよりほぼ引用)

今年のノーベル賞受賞者によるTRPV1、TRPM8、PIEZOチャネルの画期的な発見により、私たちは、熱、冷たさ、機械的な力がどのように感知され、私たちが周囲の世界を知覚しているのかを理解することができました。TRPチャネルは、私たちが温度を感知する際の中心的な役割を果たしており、一方でPIEZO2チャネルは、私たちに触覚と固有感覚をもたらします。今年のノーベル賞受賞者の発見をもとに、これらの受容体のさまざまな生理機能を解明し、慢性的な痛みをはじめとするさまざまな疾患の治療法を開発するための集中的な研究が進められているそうです。

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かんりにんのかんそう
・TRPもPIEZOもみんな普段使っているような培養細胞から同定されていたと知ってびっくり。本当に研究は発想しだいなんだなぁ。
RNAワクチンがとるかと思って予習してました、予想は外れてしまったけどTRPもPIEZOも納得ですね。

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カギとなった論文
(1) The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway, Nature, 1997 
(2) Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation, Nature, 2002 
(3) A TRP channel that senses cold stimuli and menthol, Cell, 2002 
(4) Piezo1 and Piezo2 Are Essential Components of Distinct Mechanically Activated Cation Channels, Science, 2010
(5) Piezo2 senses airway stretch and mediates lung inflationinduced apnoea, Nature, 2017

植物の水分センサー

水は生命にとって必須であるが、多くの生物は水が欠乏した状態にも耐えうる方法を獲得している。
 
その中でも植物の種子は数年から数千年の間、乾燥した条件の中でも生存し続けることができる。
 
種子は水を吸収すると細胞活動を再開し発芽する。この適切な水の感知による発芽のコントロールが苗の生存には重要である。
 
しかし、どのような分子がどのようにして水を感知しているのかは明らかではなかった。
 
そこで今回紹介する論文では、種子が水を感知するタンパク質を同定し、その物理的特性に迫った。

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筆者らは始めに、公開されているシロイヌナズナのトランスクリプトミクスデータを再解析し、他の組織に比べて乾燥した種子で高く発現する449個のタンパク質をコードする遺伝子を見つけた。(図1, A)
 
興味深いことに、種子で高く発現するこれらのタンパク質は明確な構造を持たない傾向が強かった。(図1, C)
 
このタンパク質の中から相分離しやすいことが知られるプリオンドメインを持つタンパク質を14因子抽出した。さらにこの14因子の中からこれまで性質がよく分かっていなかった遺伝子"AT4G28300"に着目し、"FLOE1"と命名した。(図1, D)
 
このFLOE1の名前はフィリップグラス(ミニマル・ミュージックの巨匠らしい)の"Glassworks"の第二楽章"floe"、そしてfloe=浮氷の持つイメージから来ているらしい。

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(ちなみに探している分子がプリオン様である必要も、転写因子やRNA結合因子ではない必要性も特に感じられなかったので最初からfloeに着目したというよりいくつか解析して後から当たったやつを論文にしている気もする、分からないが)
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次にFLOE1の細胞内での局在を観察するために、筆者らはFLOE1-GFPの遺伝子改変シロイヌナズナを作製した。
 
いくつもの実験をまとめると、FLOE1は乾燥した環境では細胞内で分散して存在するが、湿気た環境では相分離した液滴のように存在し、さらにこの2つの状態は可逆的であることが明らかになった。
 
このように周辺の水の量でFLOE1が性質を変化させることから、FLOE1は水を感知している可能性が示唆された。

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さらにFloe1の発芽に対する影響を解析するため、筆者らはCRISPRをもちいてFloe1をノックアウトしたシロイヌナズナを作製し、解析をおこなった。
 
Floe1の変異体は通常の環境では野生型と同じように発芽したが、塩によるストレス環境下(水分量が少ない環境を模倣)でも高い割合で発芽してしまい、結果的にうまく発育できないことが明らかになった。
 
このことからFLOE1は水を感知し、水分量の少ない不利な環境での発芽を抑制していることが示唆された。

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次に筆者らはFLOE1が機能する分子メカニズムに迫るため、FLOE1の物理的性質の解析を行った。
 
FLOE1はDS(アスパラギン酸、セリン)に飛んだDS-richドメイン、核形成に重要なnucleationドメイン、コイルドコイルドメイン、QPS(グルタミン、プロリン、セリン)の多いQPS-richドメイン、謎のDUFドメインならなる。
 
結果をまとめると、QPSドメインが相分離には重要で、QPSを欠いた変異体は相分離できないことが明らかになった。
(他のドメインの欠損実験やアミノ酸の置換実験とかもすごくやっていたが省略)

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では、相分離するという生化学的性質は表現型につながるのだろうか?
 
このために筆者らは、Floe1を欠損したシロイヌナズナに種々のFloe1変異体を発現させて野生型と同じように発芽するか検証した。
 
この結果Floe1の欠損で塩ストレス環境下での発芽率が上がってしまう条件下で、野生型Floe1を発現させると発芽率が減少するが、QPSの欠損した相分離できないFloe1変異体を発現すると発芽率は高いままであることが分かった。
 
このことから、相分離能と塩ストレス環境下での発芽率には相関があることが分かった。

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あとはDSドメインの機能や、他の植物でも同じようなメカニズムが保存されている可能性などについても議論されているが省略。
 
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結果は大体以上でまとめると、
・植物の種子に発現し周りの水分量によって性質を変化させる因子としてFloe1を同定
・Floe1は水分量の少ないストレス環境下での異常な発芽を抑制していることを発見
・Floe1は相分離を起こし、相分離能と発芽の表現型に相関があることを発見
という感じ。
 
なんとなくまとめのイラストは以下。

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コメント
・すごい因子を機能の知られていないタンパク質からとってくるのはすごい。
・相分離から発芽(あるいは遺伝子発現)までの詳しいメカニズムが分かるともっと面白いかも?
 
A prion-like protein regulator of seed germination undergoes hydration-dependent phase separation, Cell, 2021
*データの画像はbioRxivバージョンとGraphical abstractから引用

DNAメチル化が遺伝子発現を抑えるメカニズム@植物

DNAメチル化は、遺伝子やトランスポゾンの転写抑制に関連している有名なDNA修飾であるが、DNAメチル化がどうして転写を抑制できるのかは不明な点も多い。
 
哺乳類はいくつかのメチルCpG結合ドメイン(MBD)タンパク質を持ち、これらのタンパク質はメチル化されたCGジヌクレオチドを認識することでクロマチンに結合する。一般的なモデルでは、メチル化されたDNAにMBDがヒストン脱アセチル化酵素複合体をリクルートすることでクロマチンを凝集させ、遺伝子発現が抑制される。
 
しかしながら、植物ではメチル化DNAを認識して遺伝子発現を抑制するリーダータンパク質は不明であった。
 
そこで今回、植物におけるメチル化DNA認識タンパク質を同定し、その下流カニズムに迫った論文を紹介する。

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筆者らのグループは最近の論文(Harris et al., 2018)でメチル化DNAに結合しうるタンパク質を質量分析で網羅的に解析していた。この時はDNAメチル化結合因子としてSUVHという因子を同定し、転写の活性化に寄与することを示していた。
 
このデータでDNA認識タンパク質の候補として挙がっていた因子の中にMBD5とMBD6があり、今回の研究ではこれら因子に着目した。
 
まず筆者らは生化学解析やChIP-seqなどを駆使してMBD5とMBD6がメチル化されたDNA(特にCG配列)に結合することを明らかにする(説明端折りすぎか、、?)。これによりMBD5とMBD6はメチル化DNA認識タンパク質であることが分かった。
 
問題は、MBD5とMBD6が遺伝子発現に対して促進する方に働くのか、抑制する方に働くのかという点である。なぜなら一般にDNAメチル化は発現抑制であるが、前回筆者らが見つけた因子はDNAメチル化に結合して転写を活性化する因子であったからである。
 
これに迫るため、筆者らはMBD5とMBD6を欠損したイロイヌナズナ変異体を作成し、RNA-seqを行った。
 
この結果、MBD5,6の二重変異体では野生型ではほとんど発現していないような遺伝子の発現が異常に促進していることが明らかになった。
 
このことから、MBD5とMBD6は遺伝子発現を抑制する方向に働くことが示唆された。

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(1列目:変異体とコントロールの比。2列目:コントロールでの発現量。3/4列目:メチル化レベル。メチル化が高く、コントロールで発現量の低い遺伝子がMBD5,6の変異体で発現上昇する)

 
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メチル化DNAを認識する発現抑制因子を同定するだけも相当すごいが、ここからも結構すごい。
 
次に筆者らはMBD5,6が遺伝子発現を抑制する分子メカニズムに迫った。
 
このために、MBD5とMBD6で免疫沈降-質量分析を行いMBD5及びMBD6と相互作用する因子を探索した。
 
この結果、これまで機能未知であったクラスCのJドメインタンパク質(AT5G37380、SILENZIOと命名) がヒットした。
 
驚くべきことに、このSILENZIOを欠損するとMBD5,6の変異体と同じように遺伝子発現が脱抑制されることからSILENZIOは発現抑制に関わることが示唆された。
 
さらにさらに筆者らは、SILENZIOを特定の遺伝子座に強制的にリクルートする系を用いることで、SILENZIOは遺伝子発現を抑えるのに十分であることを示している。

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(1列目:SILENZIOはMBD5/6と相互作用し遺伝子発現を抑制する。3列目:ZF108でSILENZIOを特定のゲノム領域にリクルートすると遺伝子発現を抑制する。)

 
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Jドメインタンパク質のよく知られた機能は熱ストレスに応答するヒートショックタンパク質のリクルートらしい。
 
そこでSILENZIOに対して免疫沈降-質量分析してみると、実際ヒートショックタンパク質が相互作用する因子として検出された。
 
面白いことに、ヒートショックタンパク質と相互作用すると思われるSILENZIOのアミノ酸配列に変異を入れると遺伝子発現の抑制効果が減少したことから、ヒートショックタンパク質との相互作用がSILENZIOによる発現抑制に重要である可能性がある。
 
これは哺乳類でよく調べられてきた"MBDタンパク質→ヒストン脱アセチル化"とは全く異なる経路でありとても興味深い。
 
結果は以上で、メインポイントとしては
・植物でDNAメチル化を認識して遺伝子発現を抑える因子としてMBD5、MBD6を同定
・MBD5、MBD6は遺伝子発現の抑制に貢献する新規因子SILENZIOと相互作用する
・さらにSILENZIOはヒートショックタンパク質と相互作用することで発現抑制に重要かも
というところだろう。
 
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コメント
・植物のメチル化認識抑制因子同定だけもすごいが、さらに発現抑制にヒートショックタンパク質が関わっているのは相当面白い。
 
・ヒートショックタンパク質がどのように発現抑制に効いているのか、哺乳類でも保存されているのか?などが次の疑問だろう。いずれにしてもめちゃ面白い。
 
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MBD5 and MBD6 couple DNA methylation to gene silencing through the J-domain protein SILENZIO, Science, 2021
Lucia Ichino, Brandon A. Boone, Luke Strauskulage,..., Sy Redding, Steven E. Jacobsen

ウィーン滞在記(2)

管理人が2021年4月から3か月ほどオーストリアのウィーンに短期滞在しておりましたので、前回に続きましてウィーン滞在記(2)となります。
 
今回は研究のことについてご紹介していこうと思います。
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まず滞在している研究所なのですが、IMP(Institute for molecular pathology)というところで下の地図の右下の丸のところにあります。(中心の赤枠が町の中心地で、ここから自転車で20分くらいのところにあります)
 
このあたりはVienna Biocenterといって4つの研究機関(IMP, IMBA, GMI, MAX PERUTZ)が建物をつなげて一つのセンターのようになっています。
 
たとえばIMPは16くらいのラボが入っているので、一つの研究所が日本の大学の付置研一つくらいのサイズ感でしょうか。
 
ちなみに現在このVienna Biocenterには10名ほどの日本人の方がポスドク/PIとして在籍されています。
 
(思っていたよりも少ないなという印象です。ちなみに生命科学系でウィーン留学ならここか、別のところにあるISTというところかのどちらかがほとんどのようです)

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比較的こじんまりとしたセンターではあるのですが、PIはすごい人たちが集まっていてスーパー大御所から今をきらめく超新星まで多様な人材がいます。
 
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なんとなくこちらに来てみて感じた違いをご紹介したいと思います。全体的にはすごく研究しやすいよい研究所だなと思います。
 
環境
・建物はとてもおしゃれ、言葉では説明しづらいが、いわゆる海外のオシャンなラボのイメージに近いと思う
・実験室は4ラボ共用(海外だとほとんどそうだと思うが、)
・デスクスペースは半階ずつずらして2階分で全ラボが入っている、ラボ間の仕切りは特にない
・コンビニがないので少し不便。食堂と軽食ショップが入っている。
・食堂は思ったよりもおいしい。日本の学食の方がヘルシーだが。
・ウィーンはドイツ語圏なのでなにかとドイツ語なことがある(食堂の注文とか)。
・洗濯機やキッチンはあってこれは世界共通なんだなと思った。
 
実験関係
・基本的な試薬/培地はコアファシリティーが全部作ってくれる。PCR酵素も精製してくれる。すごい
・ペンや実験ノートのストックまでファシリティーのストックみたいなのがあって取りに行けばGetできる(ラボの経費から落ちる)
・使い終わった器具も洗ってくれる
・サンガーシーケンスもファシリティーがやってくれるので当日中に結果が分かる。
・だけどなぜかオートクレーブは自分ではできなくてコアファシリティーに持っていってお願いする
・試薬などの注文は一括ぽくてラボに業者さんが入ってこない、これは結構いいとおもった
・研究の進め方が劇的に日本と違うかといわれるとそうでもない、そりゃそうだが。
・研究所セミナーが多い。ポスドク/PhD studentが毎回2~3人話すInternalセミナーと外部からゲストを呼ぶセミナーがそれぞれ週1くらいである。お勉強になってよい。
 
コロナ関係
・コロナのPCRを週2で無料で受けられる(陽性がでたら全体メールでお知らせされる)
・このため割と内輪のミーティングは対面でやっているラボが多い
 
その他
・IMPとIMBAの若手PIは任期(8年?)が決まっている。その間に次のポストを見つけないといけない
・多くの場合は栄転されるらしい。研究所も人をどんどんフレッシュにする、という方針らしい
・コロナ前は毎週金曜に研究所のお金で研究所全体飲み会があったらしい。まじか。
・ラボでの滞在時間はみなさんやはり少し短め。朝はそんなに変わらないが夕方が早い。アジア人は長め。
 
書きながら、もう少し研究者の卵らしくもう少し違いにSensitiveになって、差をちゃんと記述できるようになりたいと思いました()。
 
ネタ切れなのでウィーン滞在記は2で終わると思います。何かあれば何かで聞いてください。では。

ウィーン滞在記(1)

今回は論文紹介ではなく管理人の雑記になります。
 
管理人が2021年4月から3か月ほどオーストリアのウィーンに短期滞在しておりますので、その様子などをお伝えすることで皆様のお役に立てればと思います。
 
今回は渡航までの経緯などをご紹介しようと思います。
 
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なんとなくきっかけからですが、管理人は博士課程も終盤がみえてきて、そろそろ次のキャリアを考えなければならないという気持ちがありました。
 
海外でポスドクがなんとなくいいのかなぁと思っていたのですが、海外のPIにコンタクトとるにも海外学会もオンラインになってしまったしどうしよう、、となかなか困った状況でした。
 
そこでラボの皆さんの紹介などもあり、学術振興会の海外若手挑戦プログラムというので数か月海外で研究してみよう、という運びになりました(昨年の夏ごろでした)。
 
この海外若手挑戦プログラムというのが、
・採用時に博士課程に在学していれば応募できる(DCを持っていなくてもOK)
・金銭的にサポートがしっかりしている(100~140万円+渡航費)
・比較的競争が緩い(自分の年度/分野では採択率50%)
というので結構よいように思います。
 
公式のページのリンクは以下です。
 
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このプログラムにだそうと決めたのはいいのですが、意中の研究室が1つに決まっていたわけではないので、ここから受け入れて頂く研究室を選び始めました。
 
研究室選びでは、はじめにこれまでにいいな、と思っていたラボを中心にラボの様子を調べ、4研究室に絞りました。
 
次にこの中から、分野が近いラボは視野が広がりづらいというアドバイスに基づき分野がある程度離れる2研究室に絞り、諸条件を加味して1研究室に連絡を取ってみることにしました。
 
結果、奇跡的にOKの返事を頂くことができ、あとは申請書が採択されれば受け入れていただけるということになりました。
 
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というわけで、渡航前年の8月末に申請書を作成しました。(年度ごとに8月〆切と3月〆切の2回の応募があります。)
 
詳しくは学術振興会のページを参考にしていただくのがよいですが、今年度はこれまでの研究1ページ、渡航先でやりたいこと1ページの内容でした。
(DCやPD、海外学振と比べたら全然軽いですね、、まあ渡航期間も短いですし審査も大変でしょうからこれくらいがいいのかもしれません)
 
ただ私は受け入れ許可のメールをいただいた時点で申請書締め切りまで1週間を切っていたので渡航先でやりたいことを書くのは苦労しました。
 
結果的にはメールだけのやり取りで細部を詰め切ることができなかったのでよくなかったですね、、Zoomで話したのは申請書を書いた後でした、、
 
渡航先でやりたいことは先方とよく話し合って書けるように前々から準備されるとよいと思います、、
 
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そんなわけでなんとか申請書を提出しまして、12月末に採択内定通知を頂きました。今年はコロナの影響か応募人数が少なかったのも幸いしたように思います。
 
このあと1月以降で先方のメンターさんやボスと数回Zoomでディスカッションをして具体的にどんな実験をするかについて詰めました。
 
もちろんラボによると思いますが、私の受け入れ先は何やってもいいからアイデアだしてみて!という感じだったので結構頭を悩ませました。
 
最終的には先方の提案から自分がいくつかピックアップするような形でやることを決めていきました。
 
また、この採択決定後から渡航までは、受入れラボのテーマに近い論文をウォッチすることで少しでもその分野の知識を入れておこうと試みました(もっと気合い入れればよかった、)。
 
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プログラムをスタートする時期はある幅の中で自由に決められるのですが、私は受入れラボとの話し合いの結果4月に渡航することになりました。
 
そういうわけで4月に、飛行機も何度か変更されたりしてやはり平時ではないなあというのを感じつつも、なんとかウィーンに渡航することができました。
 
渡航後も5日間隔離されたのちにテストを受けて陰性を確認してからラボへの訪問を始めました。
 
研究生活については今回の記事である程度反響があればウィーン滞在記(2)として書いてみようかと思います。
 
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ちなみに町はいかにもヨーロッパでおしゃれな雰囲気で、なんだか観光客のような気分になりました。(残念ながらコロナのせいで観光地どころかレストランもやっていませんが、)
 
一応2枚ほど写真でご紹介します
 
・シュテファン聖堂というウィーンのシンボル的建物

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・中心地近くの街並み

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ひとまず以上になりますが、若い読者の皆様にこのようなプログラムがあることを知っていただければ嬉しいです。(ご質問などありましたら何かでご連絡ください。)
 
では。

DNAの傷が転写を活性化する?

細胞の中でDNAはヒストンやその他たくさんの非ヒストン性クロマチン因子によってパッキングされている。
 
これらの因子によるゲノム構造の制御が、正常な遺伝子発現のコントロールには重要である。
 
この中でHMGA2という因子が胎生期の細胞やガン細胞などで高く発現し、結構重要らしいことが長年の研究で分かってきている。
 
しかしながら、HMGA2の働く分子メカニズムは(その重要性の割に)あまり統一的な見解が得られず、グループ毎に各々が言いたいことを主張しているような感じである。
 
筆者らのグループはこれまでにHMGA2がDNA損傷応答関連因子と相互作用することを報告していたが、具体的に転写制御まで行きつく分子メカニズムはよく分かっていなかった。
 
今回はなんとHMGA2がDNAに傷を入れることでDNA損傷応答関連因子を呼び込み、転写を活性化するというモデルを提唱する報告を紹介する。

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彼らは以前の報告でHMGA2を抗体で免疫沈降してきて質量分析することで、HMGA2がγ-H2A.XなどのDNA損傷応答因子と相互作用することを明らかにしていた。
 
H2A.Xはヒストンバリアントの一種H2A.XがDNA損傷に応じてリン酸化を受けたものとして知られる。)
 
そこではじめにHmga2をノックアウトした条件でγH2A.XのChIP-seqを行った。
 
その結果、Hmga2のノックアウトによりγH2A.Xの局在が大きく変化し、コントロールではTSSに濃縮しているのに対してノックアウトではこの濃縮がなくなることが分かった。
(ほんとにγH2A.XのChIP-seqってこんなにTSSに濃縮するのかな、、??ご存知の方いらっしゃったら教えて頂きたいです、、、)

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というわけで、Hmga2はγH2A.Xの呼び込みに重要である可能性が示唆された。
 
では、Hmga2は転写にどのような影響を与えるのだろうか?
 
筆者らはさらにHmga2のノックアウトマウスにおいて転写の開始を見るリン酸化ポリメラーゼIIのChIP-seqを行った。
 
この結果、Hmga2のノックアウトによってリン酸化ポリメラーゼII(pPol2)のTSSへの濃縮も減少することが分かった。
(ちなみに遺伝子発現も一部の遺伝子群で減少することを見ている)

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というわけで、どうやらHmga2は(γH2A.Xの呼び込みを介して?)転写を正に制御するように見える。
 
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では、Hmga2はどのようにγH2A.Xの呼び込みを制御しているのだろうか?
 
筆者らは細胞をMNaseで処理してスクロース勾配法で分画することでHmga2と同じ画分に存在するタンパク質を網羅的に解析した(若干この流れはストレートでない感じがしたが、)。
 
この結果ヒストンシャペロンであるFACTがHmga2と同じ画分に存在し、Hmga2のノックアウトでその分画から減少することが分かった。
 
そこでFACTを阻害剤で阻害してみるとγH2A.Xの量が減ることから、Hmga2はFACTを介してγH2A.Xの呼び込みを制御している可能性が示唆された。
(このデータからはすべて標的遺伝子を3つに絞った解析)
 
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以下細かいので端折ってしまうと、(ごめんなさい)
Hmga2がDNAに一本鎖切断を入れる(これは以前報告がある)→FACTがやってきてγH2A.Xを呼び込む→DNA損傷応答依存的DNA脱メチル化→転写活性化というモデルらしい。

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管理人コメント
・ぶっちゃけなんか不安なデータが多い。MNase-seq、γH2A.XやHmga2やFACTのChIP-seqってこんなピークの出方で正しいのかな、、、しかも後半は見る遺伝子3つに絞っているし、どれだけ一般的なメカニズムなのかはよく分からない。
 
・ただクロマチン因子がDNA損傷を入れて転写を活性化する、というのはコンセプトとしては面白いかも?
 
Positioning of nucleosomes containing γ-H2AX precedes active DNA demethylation and transcription initiation
Stephanie Dobersch, Karla Rubio, Indrabahadur Singh, ..., Dulce Papy-Garcia & Guillermo Barreto

脊髄の再生を促進するグリア細胞の性質変化

今回紹介する論文では、ゼブラフィッシュの系を用いてグリア細胞の上皮間葉転換(Epithelial-to-Mesenchymal Transition, EMT)が脊髄損傷後の再生に重要であることを見出した。
 
我々哺乳類とは異なりゼブラフィッシュは高い再生能を有し、脊髄が損傷しても6-8週で元通りにすることができる。
 
この再生を可能にするメカニズムを明らかにすることは、生物学的側面からも再生医療などの医学的側面からも重要である。
 
これまでに今回の筆者らのグループなどは、ゼブラフィッシュの脊髄再生には特殊なグリア細胞集団が損傷部位を架橋することが重要であることを報告してきた。

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(哺乳類では中枢神経においてはアストロサイトが損傷に反応し再生ではなく傷口をふさぐような機能を果たすため再生ができないと考えられている。また、哺乳類の末梢神経系ではシュワン細胞が損傷部位を架橋することで再生を促進することが知られている。)
 
というわけで、今回この特殊なグリア細胞集団が損傷部位を架橋するメカニズムに迫った論文を紹介する。

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筆者らはこれまでに損傷部位の架橋を行う特殊なグリア細胞集団に発現するマーカー遺伝子としてctgfaを見出してきた。
 
そこではじめに損傷時においてctgfa陽性細胞集団を分取しRNAseqを行うことで、この細胞集団がどのような遺伝子発現プロファイルをしているのかを網羅的に解析した。
 
すると興味深いことにこのctgfa陽性細胞集団では上皮系の遺伝子発現が減少し、間葉系の遺伝子発現が上昇していることが分かった。
 
このような遺伝子発現変化は上皮間葉転換と言われ、"上皮細胞がその細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い、遊走、浸潤能を得ることで間葉系様の細胞へと変化するプロセス(Wikipedia)"として有名である。
 
さらに組織染色からもEカドヘリンの減少とNカドヘリンの増加という上皮間葉転換にみられる代表的な変化が起きていることからも、グリア細胞集団による損傷部位の架橋では上皮間葉転換様の変化が起きていることが明らかになった。
 
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そこで気になるのが、この上皮間葉転換様の運命転換はグリア細胞による架橋、そして脊髄再生に重要なのか、という点である。
 
この問いに迫るため筆者らはCRISPR/cas9システムを用いたノックアウトスクリーニングを行った。
 
このスクリーニングでは受精卵においてCRISPR/cas9を用いて遺伝子をノックアウトし、大人になって損傷を加えることでグリア細胞による架橋と脊髄再生による遊泳能力の改善を評価した。
 
その結果、上皮間葉転換を制御するいくつかの遺伝子の欠損でグリア細胞による架橋と脊髄再生による遊泳能力の改善が弱くなることを見出した。
 
このことから、グリア細胞が上皮間葉転換様の運命転換を行うことがグリア細胞による損傷部位の架橋、そして脊髄再生に必要であることが示唆された。
 
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ただ再生できなくなる変異体なら取れなくもなさそうだが、上皮間葉転換を促進するだけで再生も促進することができるのだろうか。
 
このために、Twistという上皮間葉転換を促進する遺伝子を再生時に発現させるゼブラフィッシュを作成し、再生能を評価した。
 
すると興味深いことに、Twistを再生時に強制発現させると、グリア細胞による架橋が促進され、再生能も向上することが明らかになった。
 
ということで、上皮間葉転換を促進するだけでも脊髄再生が促進される可能性が示唆された。
 
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まとめると、今回の論文でゼブラフィッシュの脊髄再生ではグリア細胞が上皮間葉転換様の性質変化を起こし、損傷部位を架橋することが正常な再生に重要であることが分かった。
 
哺乳類では脊髄に同様の機能を持つ細胞はいないため、このような細胞集団を生みだすことが脊髄の修復には重要なのかもしれない。
 
以下グラフィカルアブストラク

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コメント
・上皮間葉転換と言えばガンとかで有名な気がするが再生にも関わっているのか。哺乳類で再生能が落ちているのはガン化のリスク下げるためなのかなぁ。
 
・上流がYAPらしいが再生時に物理的な圧力を感知したりできるのか?物理ストレスを感知して再生するとかなら結構面白い。
 
・応用的には哺乳類で再生ができると嬉しい。部分的に上皮間葉転換をおこせれば、って感じかな。
 
今回の論文
Localized EMT reprograms glial progenitors to promote spinal cord repair, 2021