Bio-Station

Bio-Stationは日々進歩する生命科学に関する知見を、整理、発信する生物系ポータルサイト、を目指します。

バイステではポッドキャストを開始します!

バイオステーションでは新しい試みとしてポッドキャストを始めます!
 
バイオステーションではブログやツイッターで論文紹介を行っており、おかげさまで多くの人に読んでいただいているようです。ありがとうございます!
 
一方で、この方法では論文を読むだけでは分からない論文までのプロセスや論文を書いた人の思いをくみ取ることができないという歯がゆさを感じていました。
 
そんな中で、神経科学の分野でポスドクや若手PIにインタビューを行っているNeuroRadioというポッドキャスト(すごく面白いです!)を拝聴し、バイオステーションでも同じようにポッドキャストをやってみようと思い至りました。
 
バイオステーションポッドキャストでは(主に神経科学以外の分野で、)ポスドクやPIなど多様なキャリアのゲストをお呼びして、論文を読むだけではわからない研究のプロセスや研究者のキャリア選択についてお聞きしていこうと思います。(ゲストなしの回もやる、かも)
 
主な聞き手は分子生物学を研究する博士課程在学中(2022年2月)の学生3人です。メインのリスナー層は学部学生からポスドクくらいを想定していますが、たくさんの方に聞いていただけると幸いです。
 
視聴後の感想やコメントもぜひお願いします!またゲストで出てくださる方も絶賛大募集しておりますのでお気軽にお声掛けください。
 
では、第1回を近日公開予定です。お楽しみに!

正確な翻訳が寿命を延ばす?

正常なタンパク質を作ることは個体の生存に重要であると考えられているが、タンパク質翻訳のエラーが寿命に与える影響については分かっていないことも多い。
 
というわけで今回タンパク質翻訳の正確性と寿命の関係に迫った論文を紹介する。

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Open Acessなので論文から図をたくさん拝借しております。
 
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これまでの論文で、タンパク質翻訳を担うリボソーム構成因子の中で翻訳の反応にはRPS23というのが特に重要なのではないかと報告されてきた。
 
そこでまず筆者らはRPS23のアミノ酸配列の違いをあらゆる生物種で比較した。
 
すると一部の(超)好熱古細菌では、他の種ではリジンである60番目の残基がアルギニンであることが分かった。
 
これら好熱菌は高熱や酸性環境など過酷な環境で生き延びることが知られるため、筆者らはこのアミノ酸の違い(K60R)に着目した。

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まず、このRPS23のK60Rの特性に迫るため、RPS23の60番目のリジンをアルギニンに置換した酵母とハエを作成した。
 
この変異体を用いて翻訳の正確性を測定するレポーターアッセイ(ストップコドンできちんとストップできないと活性のあるタンパク質が発現してしまうという仕組み)を行った。
 
この結果、特に老化した個体でRPS23 K60R変異体は翻訳の正確性が上がっている可能性が示唆された。

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そこで筆者らは次に、このRPS23 K60Rの変異が寿命に与える影響を検証した。
 
先ほどと同様に、RPS23の60番目のリジンをアルギニンに置換した酵母、線虫とハエを作成し、寿命を測定した。
 
すると酵母、線虫とハエのいずれにおいても、K60Rの変異体はコントロールに比べ寿命がのびることが分かった。
 
これは翻訳の正確さが寿命を延長する可能性を示唆する。(すごい)

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ちなみに、K60Rで寿命が延びるんだったらすべての生物種が60Rを持てば生存に有利な気もする。
 
しかし、筆者らのデータによるとこのK60R変異体は増殖や成長ののスピードが遅いらしい。
 
というわけで(今回の例では)成長速度と寿命はトレードオフの関係になっているらしい。

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最後にこの翻訳の正確性と寿命の関係がより一般的なものであるかを調べるために、これまで抗老化作用が報告されていた低分子化合物が翻訳の正確性を変化させるかを検討した。
 
このために、ラパマイシン、トリン1、トラメチニブという3つの薬剤をハエの細胞に振りかけて翻訳の正確性を測定した。
 
この結果、これら3つの薬剤はいずれも翻訳の正確性を上昇させることが示唆され、翻訳の正確性が寿命に広く影響する可能性が明らかになった。

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コメント
・翻訳の正確性と寿命、いかにも関係ありそうだが古細菌からアミノ酸置換を見つけてきて因果関係に迫っているのは面白い。
・そもそも老化などに伴ってどの程度の翻訳エラーがどういうところでおきているかとか結構気になるのだけどもうやられているんだろうか?
 
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今回の論文
Increased fidelity of protein synthesis extends lifespan, Cell Metabolism, 2021
Victoria Eugenia Martinez-Miguel, Celia Lujan, ... ,Tobias von der Haar, Filipe Cabreiro and Ivana Bjedov

2021年生命科学研究まとめ&2022年展望

今回は大みそかということで、管理人の独断と偏見による2021年生命科学研究のまとめと2022年の展望を紹介していこうと思います。
学生の漫談みたいな感じなのであしからず。昨年の2020年まとめ&2021年展望はこちら
全体のまとめ、神経幹細胞研究、今年面白かった論文という感じの流れです。最後にバイオステーションの来年の目標とお願いがあります。
 
全体
相変わらずコロナの論文は多いが事情が事情なので納得。正直全然フォローできていないが、、、
 
興味深い感じがしたのは相分離の論文がトップジャーナルでは激減したこと。研究を始めて流行ができてしぼんでいく様子が見れた。
 
来年熱くなる分野、、どうでしょうね。Alpha fold2も出たし細胞内でタンパク質の構造見るテク(Cryo-ETとか?)も流行しつつあるので構造解析の分野は新時代に移るんでしょうか(分野外なので分からないですが)。というわけで、管理人が比較的理解できる分野のまとめに移ります。
 
神経幹細胞研究(特に胎生期)
今年はトップジャーナルに神経幹細胞研究は全然載りませんでしたね、、ラボのスラックに神経幹細胞の論文を(手動で)集めるチャンネルがあるのですが、それによると今年はマウスの胎生期神経幹細胞運命制御でCNSに載った論文は0らしい。本当かな、、
 
成体では概日リズムと神経幹細胞の論文が一報出て、胎生期でもhumanでは数報出ましたね。これだけ少ない中で2報NatureにだしたTom Nowakowski恐るべし、、
 
去年も同じ事書いてましたが、全体のトレンドとしては純粋な神経発生だけではちょっと苦しくて、進化とか疾患とかと結びつけていかないとなあ、という感じでしょうか。もちろんまだまだ分かっていない重要な課題はたくさんあるので来年以降も神経幹細胞関連の面白い論文に期待です。
 
今年でた面白かった論文
Twitterで紹介した中で面白かった論文をいくつかピックアップしました。(順不同)
 
・年1回のラボのジャーナルクラブで扱った論文。脂質もユビキチン化されるのか。。!

 

・直接聞いた話で一番感動した論文。論文の内容もだがフォーカスを変えて毎回面白い論文を出してくるAndrea Pauliすごい。

 

セミナー聞いてビビった論文。

 

バイオステーション来年の目標とお願い
目標
バイステでは来年から新しいコンテンツを始めます。近日詳細を発表できるように頑張ります。
・来年もゆるりとTwitter、ブログ記事、新コンテンツを無理なく続けていきたいと思います。
 
お願い
・よく間違えたこと書くので是非ご指摘よろしくお願いします。
・どういう形でもバイステをヘルプしてくれる方募集してます。特にたまに紹介記事書いてくれる方やWebページきれいにしていただける方いらっしゃいましたら是非、、!
 
では、よいお年を。来年もよろしくお願いします。

2021年 ノーベル医学生理学賞;温度と圧力のセンサー分子の発見

2021年のノーベル医学生理学賞は「温度や圧力を生物はどのように感知するか?」という謎に取り組んだデビッド・ジュリアス氏アーデム・パタプティアン氏に授与されます。

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David JuliusさんとArdem Patapoutianさん

Biostationでは、受賞対象となった研究についてまとめてみようと思います。内容はおおむねノーベル財団の公式発表に基づいております。
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暑さや寒さ、私たちを取り巻くものの形など、周りの物理的環境を私達がどのように感知しているかという疑問は、長い間人類を魅了してきました。

1900年代前半には温度や圧力が特定の神経を活性化することがすでに明らかになっていましたが、温度や圧力を直接感知し、神経活動に変換する分子の実態はデビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏の研究までは不明でした。

デビッド・ジュリアス氏は辛味成分の受容体の同定をきっかけに熱を直接感知するTRP受容体を発見し、アーデム・パタプティアン氏は冷感受容体であるTRPM8とともに圧力センサーであるPIEZOという分子を同定しました。

この記事ではどのようにこの発見がもたらされたのかを簡単に説明していきたいと思います。

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温度感受性イオンチャネルとしてのTRPV1の発見

1990年代後半、デビッド・ジュリアス氏は唐辛子の辛味成分として知られる"カプサイシン"の作用メカニズムを理解することで痛みのシグナル伝達経路を解明しようと試みました。

当時、カプサイシンは辛味成分として灼熱感をもたらし神経活動を介して発汗を促進することなどが知られていましたが、カプサイシンがどの分子に作用しているのかが不明だったのです。

カプサイシン作用点を網羅的に探索するため、ジュリアス氏らは感覚ニューロンに発現している遺伝子群を発現させることで、普段カプサイシンに反応しない細胞(HEK293T)をカプサイシンに反応できるようにさせる遺伝子を同定しようと試みました。

この結果、最終的にカプサイシンに対する反応性をもたらす単一のcDNAクローンを単離することに成功しました(カギとなった論文1)

この遺伝子は,相同性検索の結果,一過性受容体電位(TRP)カチオンチャネルのスーパーファミリーに属することが判明し、のちにTRPV1チャネル(当時はVR1)と命名されました。

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論文1より。A; 感覚ニューロンに発現している遺伝子群を発現させた培養細胞はカプサイシンに反応するようになる。

さらに、ジュリアス氏らはTRPV1の温度上昇に対する影響を調べ、TRPV1は有害な熱(>40℃)を感知するのに重要であることを明らかにしました。

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有害な熱の感覚;第2、第3のTRPチャネルの発見

さらなる研究で、TRPV1が炎症時の熱に対する感受性の増加に重要な役割を果たしていることが分かりましたが、Trpv1を欠損させた動物では,急性の不快な熱感覚がわずかに失われるだけだったことから,他の熱感受性受容体が存在するはずであることが明らかになりました。

そこで2011年に第2のTRPチャネルとして、TRPM3が不快な熱に対するセンサーであることを報告しました。この論文はTRPに着目して特定の神経で高いTRPを探すことで特定に結び付けたようです。

ただ、Tpv1とTrpm3のダブルノックアウトでも不快な熱に対する反射反応が鈍化したものの,消失はしなかったらしいです。

そこで、デビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏は独立して、第3のTRPチャネルとしてTRPA1を同定しました。TRPA1は,マスタードオイル,ワサビ,シナモン,ニンニク,クローブ,ショウガなどに含まれる活性化合物や,脂質化合物,環境刺激物質,その他の化学物質など,さまざまな有害な外部刺激の検出に関与していることが分かっています。

TRPA1は少し複雑な物性を示すことが知られていますが、少なくともマウスの有害な熱感覚には、TRPV1、TRPM3、TRPA1の3つのイオンチャネルが関与しているということが知られています。

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寒さの感覚

熱さとは反対に、私達は寒さも感じることができます。デビッド・ジュリアス氏とアーデム・パタプティアン氏は同時期に、この冷感センサーとしてTRPM8を同定しました。(カギとなった論文2, 3)

ジュリアス氏は冷感を感じさせる化合物のメントールが作用する分子をTRPと同様のスクリーニングの系で決めようと試み、TRPM8を同定しました。

さらなるTRPM8こそが冷感のセンサー因子であり、マウスのTrpm8を欠損させると冷感の感覚が損なわれることが報告されています。

これらの研究によって、現在のところTRPV1、TRPA1、TRPM3、TRPM2、TRPM8という因子たちが温度感覚に重要な役割を果たしていることが実験的に確認されています。

ヒトにはいくつかの遺伝的な「TRPチャネル異常症」が知られています。常染色体優性のTRPA1チャネル症(Familial Episodic Pain Syndrome type 1)は,温度感知TRPチャネルのうち,TRPA1の点変異によって引き起こされ,寒さ,絶食,身体的ストレスが引き金となって,衰弱した上半身の痛みが現れます。

今後の研究によりこれらの疾患の治療にもつながる可能性があります。

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脊椎動物の機械感受性イオンチャネルの発見

アーデム・パタプティアン氏はさらに"機械的な刺激"を受容する分子の同定を試みました。

このような因子を同定する系として、培養細胞であるNeuro2a細胞を用い、細胞膜を凹ませてパッチクランプ記録を行うことで、機械的な力によって引き起こされる可能性のある電流を検出する系を用いました。

そこでこのNeuro2a細胞に発現する2回以上細胞膜を貫通するタンパク質72種類を候補因子とし、これらの遺伝子をそれぞれノックダウンすることで機械刺激に対する応答が弱くなる遺伝子を探索しました。

その結果、Fam38aをノックダウンすると機械的に活性化される電流がなくなり、対応するタンパク質はギリシャ語で圧力を意味する「piesi」にちなんでPIEZO1と名付けられました。

このPIEZOこそが、探し求められていた"機械的な刺激"を受容する分子の実態です。

PIEZO1をヒト胚性腎細胞(HEK-293)に強制発現させると機械的感受性を持つようになり、細胞膜に圧力をかけると大きな電流が流れることがわかりました。また、配列の相同性から、PIEZO2と名付けられた第2の機械感受性チャネルが発見されました。

PIEZOタンパク質はまったく新しいクラスの脊椎動物の機械刺激性チャネルであり、ユニークな38回膜貫通型のヘリックストポロジーを示していて、以下のような面白い構造を持つ分子であることもその後の発見で分かってきています。

 

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Piezo1構造のイメージ

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PIEZOの生理機能

PIEZOは手足のいわゆる触覚刺激だけではなく、胚の圧力や血圧、消化管や膀胱の圧も感知している可能性が明らかにされています。

例えば、気管支や細気管支の壁にある肺ストレッチ受容体上に存在するPIEZO2チャネルは,大きな吸気によって活性化され,肺を過剰な膨張から守る反射を開始することを示されており、発生段階でPiezo2を欠失させると,呼吸困難に陥り出生時に死亡することが知られています。(カギとなった論文5;管理人所属ラボの隣のラボから留学された野々村さんのお仕事です、おめでとうございます!)

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PIEZO2遺伝子の機能低下変異は、手指、足、足指の複数の関節に先天的な収縮があり、プロプリオセプションや触覚に障害がある遠位性関節グリポーシス(DAIPT)と呼ばれる疾患を引き起こします。このほかにもPIEZOはいくつもの疾患への関与が知られており、これらの発症メカニズムの解明にも近づくことが期待されます。

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まとめ(プレスリリースまとめよりほぼ引用)

今年のノーベル賞受賞者によるTRPV1、TRPM8、PIEZOチャネルの画期的な発見により、私たちは、熱、冷たさ、機械的な力がどのように感知され、私たちが周囲の世界を知覚しているのかを理解することができました。TRPチャネルは、私たちが温度を感知する際の中心的な役割を果たしており、一方でPIEZO2チャネルは、私たちに触覚と固有感覚をもたらします。今年のノーベル賞受賞者の発見をもとに、これらの受容体のさまざまな生理機能を解明し、慢性的な痛みをはじめとするさまざまな疾患の治療法を開発するための集中的な研究が進められているそうです。

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かんりにんのかんそう
・TRPもPIEZOもみんな普段使っているような培養細胞から同定されていたと知ってびっくり。本当に研究は発想しだいなんだなぁ。
RNAワクチンがとるかと思って予習してました、予想は外れてしまったけどTRPもPIEZOも納得ですね。

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カギとなった論文
(1) The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway, Nature, 1997 
(2) Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation, Nature, 2002 
(3) A TRP channel that senses cold stimuli and menthol, Cell, 2002 
(4) Piezo1 and Piezo2 Are Essential Components of Distinct Mechanically Activated Cation Channels, Science, 2010
(5) Piezo2 senses airway stretch and mediates lung inflationinduced apnoea, Nature, 2017

植物の水分センサー

水は生命にとって必須であるが、多くの生物は水が欠乏した状態にも耐えうる方法を獲得している。
 
その中でも植物の種子は数年から数千年の間、乾燥した条件の中でも生存し続けることができる。
 
種子は水を吸収すると細胞活動を再開し発芽する。この適切な水の感知による発芽のコントロールが苗の生存には重要である。
 
しかし、どのような分子がどのようにして水を感知しているのかは明らかではなかった。
 
そこで今回紹介する論文では、種子が水を感知するタンパク質を同定し、その物理的特性に迫った。

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筆者らは始めに、公開されているシロイヌナズナのトランスクリプトミクスデータを再解析し、他の組織に比べて乾燥した種子で高く発現する449個のタンパク質をコードする遺伝子を見つけた。(図1, A)
 
興味深いことに、種子で高く発現するこれらのタンパク質は明確な構造を持たない傾向が強かった。(図1, C)
 
このタンパク質の中から相分離しやすいことが知られるプリオンドメインを持つタンパク質を14因子抽出した。さらにこの14因子の中からこれまで性質がよく分かっていなかった遺伝子"AT4G28300"に着目し、"FLOE1"と命名した。(図1, D)
 
このFLOE1の名前はフィリップグラス(ミニマル・ミュージックの巨匠らしい)の"Glassworks"の第二楽章"floe"、そしてfloe=浮氷の持つイメージから来ているらしい。

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(ちなみに探している分子がプリオン様である必要も、転写因子やRNA結合因子ではない必要性も特に感じられなかったので最初からfloeに着目したというよりいくつか解析して後から当たったやつを論文にしている気もする、分からないが)
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次にFLOE1の細胞内での局在を観察するために、筆者らはFLOE1-GFPの遺伝子改変シロイヌナズナを作製した。
 
いくつもの実験をまとめると、FLOE1は乾燥した環境では細胞内で分散して存在するが、湿気た環境では相分離した液滴のように存在し、さらにこの2つの状態は可逆的であることが明らかになった。
 
このように周辺の水の量でFLOE1が性質を変化させることから、FLOE1は水を感知している可能性が示唆された。

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さらにFloe1の発芽に対する影響を解析するため、筆者らはCRISPRをもちいてFloe1をノックアウトしたシロイヌナズナを作製し、解析をおこなった。
 
Floe1の変異体は通常の環境では野生型と同じように発芽したが、塩によるストレス環境下(水分量が少ない環境を模倣)でも高い割合で発芽してしまい、結果的にうまく発育できないことが明らかになった。
 
このことからFLOE1は水を感知し、水分量の少ない不利な環境での発芽を抑制していることが示唆された。

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次に筆者らはFLOE1が機能する分子メカニズムに迫るため、FLOE1の物理的性質の解析を行った。
 
FLOE1はDS(アスパラギン酸、セリン)に飛んだDS-richドメイン、核形成に重要なnucleationドメイン、コイルドコイルドメイン、QPS(グルタミン、プロリン、セリン)の多いQPS-richドメイン、謎のDUFドメインならなる。
 
結果をまとめると、QPSドメインが相分離には重要で、QPSを欠いた変異体は相分離できないことが明らかになった。
(他のドメインの欠損実験やアミノ酸の置換実験とかもすごくやっていたが省略)

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では、相分離するという生化学的性質は表現型につながるのだろうか?
 
このために筆者らは、Floe1を欠損したシロイヌナズナに種々のFloe1変異体を発現させて野生型と同じように発芽するか検証した。
 
この結果Floe1の欠損で塩ストレス環境下での発芽率が上がってしまう条件下で、野生型Floe1を発現させると発芽率が減少するが、QPSの欠損した相分離できないFloe1変異体を発現すると発芽率は高いままであることが分かった。
 
このことから、相分離能と塩ストレス環境下での発芽率には相関があることが分かった。

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あとはDSドメインの機能や、他の植物でも同じようなメカニズムが保存されている可能性などについても議論されているが省略。
 
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結果は大体以上でまとめると、
・植物の種子に発現し周りの水分量によって性質を変化させる因子としてFloe1を同定
・Floe1は水分量の少ないストレス環境下での異常な発芽を抑制していることを発見
・Floe1は相分離を起こし、相分離能と発芽の表現型に相関があることを発見
という感じ。
 
なんとなくまとめのイラストは以下。

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コメント
・すごい因子を機能の知られていないタンパク質からとってくるのはすごい。
・相分離から発芽(あるいは遺伝子発現)までの詳しいメカニズムが分かるともっと面白いかも?
 
A prion-like protein regulator of seed germination undergoes hydration-dependent phase separation, Cell, 2021
*データの画像はbioRxivバージョンとGraphical abstractから引用

DNAメチル化が遺伝子発現を抑えるメカニズム@植物

DNAメチル化は、遺伝子やトランスポゾンの転写抑制に関連している有名なDNA修飾であるが、DNAメチル化がどうして転写を抑制できるのかは不明な点も多い。
 
哺乳類はいくつかのメチルCpG結合ドメイン(MBD)タンパク質を持ち、これらのタンパク質はメチル化されたCGジヌクレオチドを認識することでクロマチンに結合する。一般的なモデルでは、メチル化されたDNAにMBDがヒストン脱アセチル化酵素複合体をリクルートすることでクロマチンを凝集させ、遺伝子発現が抑制される。
 
しかしながら、植物ではメチル化DNAを認識して遺伝子発現を抑制するリーダータンパク質は不明であった。
 
そこで今回、植物におけるメチル化DNA認識タンパク質を同定し、その下流カニズムに迫った論文を紹介する。

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筆者らのグループは最近の論文(Harris et al., 2018)でメチル化DNAに結合しうるタンパク質を質量分析で網羅的に解析していた。この時はDNAメチル化結合因子としてSUVHという因子を同定し、転写の活性化に寄与することを示していた。
 
このデータでDNA認識タンパク質の候補として挙がっていた因子の中にMBD5とMBD6があり、今回の研究ではこれら因子に着目した。
 
まず筆者らは生化学解析やChIP-seqなどを駆使してMBD5とMBD6がメチル化されたDNA(特にCG配列)に結合することを明らかにする(説明端折りすぎか、、?)。これによりMBD5とMBD6はメチル化DNA認識タンパク質であることが分かった。
 
問題は、MBD5とMBD6が遺伝子発現に対して促進する方に働くのか、抑制する方に働くのかという点である。なぜなら一般にDNAメチル化は発現抑制であるが、前回筆者らが見つけた因子はDNAメチル化に結合して転写を活性化する因子であったからである。
 
これに迫るため、筆者らはMBD5とMBD6を欠損したイロイヌナズナ変異体を作成し、RNA-seqを行った。
 
この結果、MBD5,6の二重変異体では野生型ではほとんど発現していないような遺伝子の発現が異常に促進していることが明らかになった。
 
このことから、MBD5とMBD6は遺伝子発現を抑制する方向に働くことが示唆された。

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(1列目:変異体とコントロールの比。2列目:コントロールでの発現量。3/4列目:メチル化レベル。メチル化が高く、コントロールで発現量の低い遺伝子がMBD5,6の変異体で発現上昇する)

 
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メチル化DNAを認識する発現抑制因子を同定するだけも相当すごいが、ここからも結構すごい。
 
次に筆者らはMBD5,6が遺伝子発現を抑制する分子メカニズムに迫った。
 
このために、MBD5とMBD6で免疫沈降-質量分析を行いMBD5及びMBD6と相互作用する因子を探索した。
 
この結果、これまで機能未知であったクラスCのJドメインタンパク質(AT5G37380、SILENZIOと命名) がヒットした。
 
驚くべきことに、このSILENZIOを欠損するとMBD5,6の変異体と同じように遺伝子発現が脱抑制されることからSILENZIOは発現抑制に関わることが示唆された。
 
さらにさらに筆者らは、SILENZIOを特定の遺伝子座に強制的にリクルートする系を用いることで、SILENZIOは遺伝子発現を抑えるのに十分であることを示している。

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(1列目:SILENZIOはMBD5/6と相互作用し遺伝子発現を抑制する。3列目:ZF108でSILENZIOを特定のゲノム領域にリクルートすると遺伝子発現を抑制する。)

 
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Jドメインタンパク質のよく知られた機能は熱ストレスに応答するヒートショックタンパク質のリクルートらしい。
 
そこでSILENZIOに対して免疫沈降-質量分析してみると、実際ヒートショックタンパク質が相互作用する因子として検出された。
 
面白いことに、ヒートショックタンパク質と相互作用すると思われるSILENZIOのアミノ酸配列に変異を入れると遺伝子発現の抑制効果が減少したことから、ヒートショックタンパク質との相互作用がSILENZIOによる発現抑制に重要である可能性がある。
 
これは哺乳類でよく調べられてきた"MBDタンパク質→ヒストン脱アセチル化"とは全く異なる経路でありとても興味深い。
 
結果は以上で、メインポイントとしては
・植物でDNAメチル化を認識して遺伝子発現を抑える因子としてMBD5、MBD6を同定
・MBD5、MBD6は遺伝子発現の抑制に貢献する新規因子SILENZIOと相互作用する
・さらにSILENZIOはヒートショックタンパク質と相互作用することで発現抑制に重要かも
というところだろう。
 
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コメント
・植物のメチル化認識抑制因子同定だけもすごいが、さらに発現抑制にヒートショックタンパク質が関わっているのは相当面白い。
 
・ヒートショックタンパク質がどのように発現抑制に効いているのか、哺乳類でも保存されているのか?などが次の疑問だろう。いずれにしてもめちゃ面白い。
 
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MBD5 and MBD6 couple DNA methylation to gene silencing through the J-domain protein SILENZIO, Science, 2021
Lucia Ichino, Brandon A. Boone, Luke Strauskulage,..., Sy Redding, Steven E. Jacobsen

ウィーン滞在記(2)

管理人が2021年4月から3か月ほどオーストリアのウィーンに短期滞在しておりましたので、前回に続きましてウィーン滞在記(2)となります。
 
今回は研究のことについてご紹介していこうと思います。
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まず滞在している研究所なのですが、IMP(Institute for molecular pathology)というところで下の地図の右下の丸のところにあります。(中心の赤枠が町の中心地で、ここから自転車で20分くらいのところにあります)
 
このあたりはVienna Biocenterといって4つの研究機関(IMP, IMBA, GMI, MAX PERUTZ)が建物をつなげて一つのセンターのようになっています。
 
たとえばIMPは16くらいのラボが入っているので、一つの研究所が日本の大学の付置研一つくらいのサイズ感でしょうか。
 
ちなみに現在このVienna Biocenterには10名ほどの日本人の方がポスドク/PIとして在籍されています。
 
(思っていたよりも少ないなという印象です。ちなみに生命科学系でウィーン留学ならここか、別のところにあるISTというところかのどちらかがほとんどのようです)

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比較的こじんまりとしたセンターではあるのですが、PIはすごい人たちが集まっていてスーパー大御所から今をきらめく超新星まで多様な人材がいます。
 
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なんとなくこちらに来てみて感じた違いをご紹介したいと思います。全体的にはすごく研究しやすいよい研究所だなと思います。
 
環境
・建物はとてもおしゃれ、言葉では説明しづらいが、いわゆる海外のオシャンなラボのイメージに近いと思う
・実験室は4ラボ共用(海外だとほとんどそうだと思うが、)
・デスクスペースは半階ずつずらして2階分で全ラボが入っている、ラボ間の仕切りは特にない
・コンビニがないので少し不便。食堂と軽食ショップが入っている。
・食堂は思ったよりもおいしい。日本の学食の方がヘルシーだが。
・ウィーンはドイツ語圏なのでなにかとドイツ語なことがある(食堂の注文とか)。
・洗濯機やキッチンはあってこれは世界共通なんだなと思った。
 
実験関係
・基本的な試薬/培地はコアファシリティーが全部作ってくれる。PCR酵素も精製してくれる。すごい
・ペンや実験ノートのストックまでファシリティーのストックみたいなのがあって取りに行けばGetできる(ラボの経費から落ちる)
・使い終わった器具も洗ってくれる
・サンガーシーケンスもファシリティーがやってくれるので当日中に結果が分かる。
・だけどなぜかオートクレーブは自分ではできなくてコアファシリティーに持っていってお願いする
・試薬などの注文は一括ぽくてラボに業者さんが入ってこない、これは結構いいとおもった
・研究の進め方が劇的に日本と違うかといわれるとそうでもない、そりゃそうだが。
・研究所セミナーが多い。ポスドク/PhD studentが毎回2~3人話すInternalセミナーと外部からゲストを呼ぶセミナーがそれぞれ週1くらいである。お勉強になってよい。
 
コロナ関係
・コロナのPCRを週2で無料で受けられる(陽性がでたら全体メールでお知らせされる)
・このため割と内輪のミーティングは対面でやっているラボが多い
 
その他
・IMPとIMBAの若手PIは任期(8年?)が決まっている。その間に次のポストを見つけないといけない
・多くの場合は栄転されるらしい。研究所も人をどんどんフレッシュにする、という方針らしい
・コロナ前は毎週金曜に研究所のお金で研究所全体飲み会があったらしい。まじか。
・ラボでの滞在時間はみなさんやはり少し短め。朝はそんなに変わらないが夕方が早い。アジア人は長め。
 
書きながら、もう少し研究者の卵らしくもう少し違いにSensitiveになって、差をちゃんと記述できるようになりたいと思いました()。
 
ネタ切れなのでウィーン滞在記は2で終わると思います。何かあれば何かで聞いてください。では。