Bio-Station

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生きる長さを決めるもの

 
哺乳類の寿命は種によって200倍も異なっていることが知られている。
 
同じ地球に生きるものなのに、どうして寿命がこれほどまでに異なるのだろうか?
 
とても魅力的な疑問であるにもかかわらず、種間で寿命の差を生み出す分子メカニズムはほとんど分かっていない
 
そこで、今回の論文では、寿命とDNA修復応答の関係を探索した。
 
その結果、
- 二重鎖切断修復の能力と寿命に相関があること
- 寿命の長い動物ではSirt6という因子に、二本鎖切断修復活性が高くなる変異が入っていること
を見出した。
 
寿命が決まるメカニズムに迫った面白い論文です。
 
↓今回の論文
 
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これまで寿命を決める要因として、DNA損傷応答が大事だろうと考えられてきた。
 
なぜなら、DNA損傷応答因子が欠損していると寿命が短くなることが知られてきたからである。
 
しかし、寿命の異なる動物種の間でDNA損傷応答に差があるのかは明らかではなかった。
 
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そこで筆者らは寿命の異なる18種類ものげっ歯類からサンプルを採取し、DNA損傷修復能力を測定した。
(マウス、ラット、ハダカデバネズミ、ビーバー、リス、チンチラ、など)
 
このとき計測するDNA損傷応答として、
- DNAのミスマッチをヌクレオチド除去で修復する、ヌクレオチド除去修復
- DNAの2本鎖が両方切れた時にDNAを修復する、二重鎖切断修復
について検証を行った。
 
その結果、驚くべきことに、ヌクレオチド除去修復の活性は寿命と相関しない一方、二重鎖切断修復の活性が寿命と相関していること、が分かった。
 
一応、参考までに二重鎖切断修復の図を以下に掲載。
 
 
やや細かいが、二重鎖切断修復に含まれる非相同末端結合(NHEJ)と、相同組み換え(HR)、両方の活性が寿命と相関していることも示している。また、肺の細胞でも皮膚の細胞でも同じことがみられることをみている。
 
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このことから、二重鎖切断修復活性と寿命に関係がありそうだ、ということが分かった。
 
では、どうして動物種ごとに二重鎖切断修復活性に差があるのだろうか?
 
筆者らは二重鎖切断修復に関わる因子のうち、非相同末端結合と相同組み換えの両方に関わる上流因子が重要なのではないかと考えた。
 
そこで、これまで二重鎖切断修復の上流として知られていたSirt6に着目した。
 
Sirt6は脱アセチル化酵素として知られるが、過剰発現すると二重鎖切断修復を活性化できることが知られている。
(*実際はこれを報告したのは今回の筆者の論文なので、初めからSirt6に目をつけていたのだろう)
 
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そこで、筆者らはSirt6の二重鎖切断修復活性を種間で異なる可能性を考えた。
 
そこで、多くの種でSirt6の二重鎖切断修復活性を測定した。
すると、興味深いことに、寿命が長い生き物ほどSirt6の二重鎖切断修復活性が高いことが分かった。
 
 
では、寿命が長い種のSirt6は寿命が短いSirt6と何が違うのだろうか??
 
筆者らはSirt6のアミノ酸配列を検討し、寿命が長い種のSirt6で活性が高い原因となる5アミノ酸を同定した!
 
つまり、マウスのSirt6を5アミノ酸だけをビーバー型にすると二重鎖切断修復活性が上がる、ことを示している。(すごい)
 
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では、このアミノ酸配列の変化は寿命に影響を与えるのだろうか?
 
筆者らは、マウス型のSirt6や、ビーバー型のSirt6を発現するハエを作成し、寿命を測定した。
(ハエで実験したのは実験として現実的なタイムスケールで寿命を迎えるからだと予想される。マウスだと死ぬまで年単位で待つので実験にならない...)
 
すると驚くべきことに、ビーバー型のSirt6を発現するハエは、マウス型のSirt6を発現するハエより寿命が長いことが分かった
*わずか5アミノ酸を変化させるだけで寿命が変わるのはすごい!
 
すなわち、Sirt6のアミノ酸配列(二重鎖切断修復活性)が、寿命を規定する一要因である可能性が示唆された。
 
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下がまとめ図。
 
寿命が長い種はDNA二重鎖切断修復活性が高く、とくにSirt6の活性が上がるようなアミノ酸配列を持っている。
また、途中で端折ったヌクレオチド除去修復の活性は、寿命とは相関しないが、日中に行動する時間と相関するとも言っている。そちらも面白い。

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不老不死は多くの人が願う夢である(たぶん)。
今回の発見は、種間の寿命を規定するメカニズムに留まらず、不老不死に近づくヒントになる可能性がある。
 
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参考
SIRT6 Is Responsible for More Efficient DNA Double-Strand Break Repair in Long-Lived Species, Cell, 2019
- http://finkelsteinlab.net/research (二重鎖切断修復の図の引用)

エピジェネ因子の"じゃない方"の機能_DNAメチル化編

 
エピジェネティクスとは「DNAの配列変化によらない遺伝子発現を制御・伝達するシステム(脳科学辞典)」として知られる。
 
よく知られたエピジェネ修飾は、DNAを巻き付けているヒストンのメチル化やアセチル化などの修飾だろう。このほかにもDNAのメチル化、RNAの修飾もよく研究されている。
 
今回から2回にわたって(予定)、これらエピジェネ因子が、これまで考えられた以外の方法で機能しているかも、というのを紹介する。
 
今回は特にDNA修飾酵素について。
 
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DNAは特にシトシンがメチル化されることが知られている。(以下の図参照)

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このようにDNAにメチル化を入れる因子としてDNMT、DNAからメチル化を外す因子としてTETが知られてきた(Ito et al., Nature, 2010, Tahiliani et al., Science, 2009)。
 
今回の主役として扱うのはTET。繰り返すがTETはDNA脱メチル化酵素として知られてきた。
 
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さて、これまでDNAのメチル化はどのような機能があると考えられてきただろうか?
 
これらの修飾がついている生物学的な意味を検証するため、修飾を担う酵素の量を制御する方法がとられてきた。
例えば、DNAの脱メチル化の機能をみたい時には、TET(DNA脱メチル化酵素)のノックダウンを行うことで、DNAメチル化の意義を検証していた。
 
もちろんこのような条件では、みたいエピジェネ修飾量は変化するので、エピジェネ修飾の意義に迫れるかに思える。
 
ところが近年、これらエピジェネ修飾を行う酵素は、いわゆる"エピジェネ修飾"以外にも機能を持つことが分かりつつある。
つまり、これまでDNAの脱メチル化酵素だと思っていたものが、他の機能を持っていることが分かりつつある。
 
これは、結構まずい。なぜなら、たとえばこれまでは、DNA脱メチル化酵素をノックダウンしたサンプルをみて、DNA(脱)メチル化の意味だと考えてきた。しかし、DNA脱メチル化酵素に他の機能があると、ノックダウンした時の効果は"他の機能"の効果をみている可能性があるためだ。
 
というわけで、今回は、TET(DNA脱メチル化酵素)の"DNA脱メチル化以外"の機能に迫った論文を2報紹介する。
 
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まず、初めてTETにDNA脱メチル化以外の機能があるのではないかと報告したのが、2012年のNatureでこの論文
 
彼らは始めにTET2に結合するタンパク質を探索するところから始めている。
 
この結果、興味深いことに、TET2はヒストンの糖鎖修飾酵素と結合することが分かった。さらに、この結合の意義として、TET2はヒストン糖鎖修飾酵素との結合を介して、ヒストンの糖鎖修飾を補助していることを示した。
 
ヒストンの糖鎖修飾はクロマチンの構造を変化させ、遺伝子発現を制御するらしい。
 
この報告で初めて、それまでDNAの脱メチル化酵素だと考えられてきたTET2には、DNAの脱メチル化とは全く別の機能があることが明らかになった。
 
下がまとめ図。
TET2はヒストン糖鎖修飾酵素(OGT)と結合し、遺伝子発現を制御する。
 
ちなみに、直後の2013年にもMolecular cellに似たような内容で報告されている。(この論文)
 
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2報目は最近出たこの論文(Nature comm.)。
この論文ではTET3がDNA脱メチル化活性とは別にインプリント遺伝子を制御することを示唆した。
 
まず、筆者らはTET3が成体の神経幹細胞に与える影響を検証しようとした。そこで、TET3をノックアウトすると、神経幹細胞の総数が減少することが分かった。
 
この結果はTET3が神経幹細胞の運命を制御する可能性を示唆する。ただ、TETが神経幹細胞での報告はこれまでにもなくはないので、筆者らもまあそうか、と思っただろう。
 
では、このときTET3がどのような遺伝子の発現を制御するのだろうか?この問題に迫るため、筆者らはTET3をノックアウトした状態でRNAseqにより遺伝子発現を網羅的に解析した。
 
この結果、TET3をノックアウトすると、Snrpnという遺伝子の発現が上昇することが分かった。
 
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Snrpnは普通の遺伝子ではない。Snrpnはインプリント遺伝子と呼ばれ、一般に父方鎖からのみ発現することが知られる。
 
*インプリント遺伝子とは、父親鎖と母親鎖の2つ存在する染色体のうち、片方からだけ発現する遺伝子。普通の遺伝子は父親鎖と母親鎖、どちらからも発現する。インプリント遺伝子は多くの場合、発現が抑制されている方の鎖ではDNAメチル化が入っている。
 
そこで、筆者らはTET3のノックアウトでSnrpnの発現が上がるのは、TET3のノックアウトでインプリントがおかしくなっているからだろうと考えた。しかし、TET3のノックアウトでDNAのメチル化状態は変化せず、インプリントはおかしくなっていないことが示唆された。
 
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一方、TET3が結合するゲノム領域を(ChIPにより)調べると、なんと、TET3は発現している&すでに脱メチル化している、Snrpnの父方鎖に結合していることが分かった。
 
この結果と、TET3のノックアウトでSnrpnの発現が減少することを合わせると、生体においてTET3は(すでに脱メチル化されている)Snrpn遺伝子座に結合し発現を抑制していることが示唆された。
 
これはTETはDNA脱メチル化を行うことで遺伝子発現を促進する、という従来の概念とは正反対であり、結構衝撃的な気がする
 
また、少し端折るが、TET3の脱メチル化活性のない変異体を作成して実験行うことで、TET3の脱メチル化活性はSnrpnの発現および神経幹細胞の運命制御の一部には寄与しない可能性も提示している。
 
以下がまとめ図。
繰り返しになるが、TET3は(すでに脱メチル化されている)Snrpn遺伝子座に結合し発現を抑制することで神経幹細胞の運命を制御する、というモデル。
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そういうわけで、DNA脱メチル化酵素として発見され、DNA脱メチル化酵素として機能が解析されていたTETは、DNA脱メチル化以外の機能があることが分かってきた。
 
これまでTETをノックアウトしたうえで解析してDNAメチル化の機能だ、と思っていたものも、実はTETのDNA脱メチル化以外の機能の影響をみている可能性もある。
 
これまでの常識を信じすぎると、真実からは遠ざかってしまうかもしれませんね。(自戒を込めて...)
 
 
次回は、ヒストン修飾酵素編を書くかもしれません。
 
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参考
- リンク先の論文たち
- http://first.lifesciencedb.jp/archives/609(伊藤さんによる新着論文レビュー)
*管理人はTETの専門家ではありません。間違い等ございましたら教えてください。
 

ニューロンの多様性を作るメカニズム

 
私たちは常に外界からの情報を受け取り、処理し、行動に結びつけている。
ご存知のように、これらの情報処理を行うのに重要な器官は"脳"である。
 
脳の中でも神経細胞ニューロンがとても重要であることが知られている。
 
人間には非常に多くのニューロンが存在するとされているが、
とても面白いことに、それぞれのニューロンはそれぞれ異なる特性を持ち、多様性があることが知られている。
 
多様なニューロンがぞれぞれのあるべき特性を獲得することは正常な脳機能に必須である。
 
このため、このニューロンの多様性が生み出されるメカニズムを知ること、は脳の機能に迫るうえで重要な問題であり、多くの研究者がこの問題に取り組んできた。
 
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この中でこれまでに、ニューロンの多様性を生み出すのにプロトカドヘリン、という遺伝子が重要なことが報告されてきた。
プロトカドヘリンは細胞間接着で有名な因子、カドヘリンのスーパーファミリーに属し、細胞間の接着を制御する、細胞表面タンパク質である。
 
とてもとても興味深いことに、このプロトカドヘリンは多数のエクソンを持ち、その一つだけが1細胞(の1アレル)から選ばれて発現するということが知られている(Esumi et al., 2005など)。
 
下の図も参考に。
つまり、プロトカドヘリン(Pcdh-α)のV領域に存在する12個のエクソンα1~12のうち、一つだけが選ばれて発現する。
(ちゃんと言うならばプロトカドヘリンの一種、αとγがこのような制御を受ける。)
 
 
このように、プロトカドヘリンは1細胞ごとに発現するサブセットが異なる状態になる。
 
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この細胞ごとにプロトカドヘリンのサブセットが異なる性質は、脳発生にもとても重要であることが知られている。
 
一つ例をあげる。
ニューロン樹状突起という突起を伸ばすことで、ニューロン同士のコネクションを形成する。
 
このとき、一つのニューロンから生じた樹状突起は互いに反発しあう"自己忌避"という性質がある。
自己忌避がうまくいかないと、一つのニューロンから生じた樹状突起が結合してしまい、適切な回路形成ができなくなる。
 
この自己忌避の分子メカニズムは長い間不明であった。
ところが2012年、面白いことに、同じプロトカドヘリンのサブセットを発現している突起は互いに反発することが報告された。
この論文ではプロトカドヘリンの種類が一つになると(多様性がなくなると)自己忌避が抑制され、回路形成に異常がみられることを報告している。
 
すなわち、プロトカドヘリンサブセットがランダムに発現することがニューロンの多様性を生むのに重要である。
 
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では、発現するプロトカドヘリンのエクソンはどのようにして選ばれるのだろうか??
 
今回紹介する論文では、複数存在するプロトカドヘリンエクソンのうち、発現するエクソンが選ばれるメカニズムを探索した。
 
 
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まず、筆者らはRNAシーケンスによってプロトカドヘリン遺伝子座のRNA発現を検証した。
(細かいが、プロトカドヘリンの発現量は低いのでcapture RNA seqというのを使っている。Cieslik, 2015)
 
すると、驚くべきことに、いくつかのプロトカドヘリンのエクソンからの転写がみられるとともに、プロトカドヘリンエクソンのアンチセンス(DNAの逆側、本来遺伝子をコードしない遺伝子)からRNAが発現していることが分かった。
 
このRNAはタンパク質となる読み枠を持たないため、おそらく翻訳されずにRNAとして働くノンコーディングRNAであると筆者らは考えた。
 
これだけでも面白いがさらに、このノンコーディングRNAの転写がどこから開始されるのかを検証すると、このノンコーディングRNA発現しているロトカドヘリンエクソンセンス鎖RNAと同じプロモーターから転写が始まっていることが分かった。
 
*このように同じプロモーターから複数の転写物を出すようなプロモーターをconvergent promoterというらしい。珍しいし興味深い。
 
これらの結果から、選ばれて発現するプロトカドヘリンのエクソンはアンチセンス鎖の同じプロモーターからノンコーディングRNAが発現しているという特徴があることが初めて明らかになった。
 
*これは、おそらく筆者らも想像していなかった結果だろう。とても驚き。
 
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では、このノンコーディングRNAの発現は、
- 単にプロトカドヘリンのエクソンが選ばれた結果発現しているものなのだろうか?
- それともノンコーディングRNAが発現することでプロトカドヘリンのエクソン選択に積極的に貢献しているのだろうか?
 
(以下まどろっこしいので、発現するプロトカドヘリンのエクソンからのRNAをコーディングRNA、アンチセンス鎖からのRNAノンコーディングRNAとする。)
 
筆者らはノンコーディングRNAがコーディングRNAより時間的に先に発現していることに着目し、後者のノンコーディングRNAがコーディングRNAの発現を制御している可能性を考えた。
 
では、どのようにしてこの可能性を検証すればよいだろうか?
筆者らはCRIPSRaを用いたノンコーディングRNAの強制発現系を用いた。
 
*CRIPSRa…CRISPR-cas9システムで用いるDNA切断酵素cas9のDNA切断活性をなくす。さらにcas9に転写を活性化させるタンパク質を結合させておく。これにより、ガイドRNAの配列依存的に転写を活性化させることができる。という系。
 
この系でノンコーディングRNAの発現を上昇させると、驚くべきことに、コーディングRNAの発現も上昇することが分かった。
この結果は、ノンコーディングRNAの発現がコーディングRNAの発現を制御する可能性(途中であげた2つの可能性の後者)を示唆する。
 
*ノンコーディングRNAが同じプロモーターから発現するコーディングRNAの発現を制御するというのは他にあまり例がなく面白い発見だと思う。
 
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これだけでも十分もおしろいが、筆者らはさらにノンコーディングRNAがコーディングRNAの発現を制御する分子メカニズムに迫る。
 
詳細は省くが、彼らのモデルでは、
ノンコーディングRNAの発現→DNAの脱メチル化→CTCFによるプロモーター-エンハンサーループの形成→コーディングRNAの発現
という流れをとるようだ。
 
さらに筆者らはin vivoにおいて、このスキームが重要であるかを検証した。
具体的にはDNAの脱メチル化を強制的に活性化させるため、DNA脱メチル化酵素Tet3の過剰発現マウスを作成し、解析した。
 
すると、Tet3を過剰発現すると、DNAの脱メチル化が亢進し、エンハンサーに最も近いプロモーターをもつプロトカドヘリンのエクソンが選択される傾向になることが分かった。
 
これは、Tet3の過剰発現によってランダムなプロトカドヘリンのエクソン選択がなくなってしまうことを意味する。
この結果によりDNAの脱メチル化がin vivoでも確かに重要であることが示唆された。
 
 
同様に、プロモーター-エンハンサーのループ形成で重要な役割をもつRad21を欠損させると、ループがなくなりプロトカドヘリンの発現も減少することを明らかにしている。
 
これらの結果から、ノンコーディングRNAの発現→DNAの脱メチル化→CTCFによるプロモーター-エンハンサーループの形成→コーディングRNAの発現、という流れがin vivoでも働いている可能性が示唆された。
 
*ノンコーディングRNAの発現を発見してからきちんとメカニズムを詰めて、さらにvivoでも検証しているのはすごい!
 
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以下モデル図をお示しする(参考論文から引用)。
 
繰り返しにはなるが、
初めはセンス鎖からもアンチセンス鎖からも発現がない。
→発現するアンチセンス鎖からノンコーディングRNAが発現
→DNAの脱メチル化(vivoでもtet3を介しているかは?)
→プロモーター-エンハンサーのループ形成
→選ばれたプロトカドヘリンエクソンの発現
という流れになる。

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素晴らしい研究ではあるが、気になる点もいくつかある。2つを紹介。
 
- この研究では、なぜ選ばれるエクソンのアンチセンス鎖からノンコーディングRNAが発現するのかは不明である。
現在のところの最も上流はノンコーディングRNAの発現なので、ノンコーディングRNAの発現を制御するさらに上流が分かると面白い。(筆者らはもうこのプロジェクトには取り組み始めているあろうが...)
 
- 本当にノンコーディングRNAといっているRNAは、RNAとして機能するのか(タンパク質に翻訳されないのか)、はもう少し真面目にやってもいいかなとは思った。
このブログでも2回(受精卵の系免疫の系)紹介しているように、これまでノンコーディングと思われていたRNAでもタンパク質として機能するものも見つかってきているので。
 
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上のような疑問も残るものの、今回の研究はプロトカドヘリンの多数のエクソンのうち、一つが選びだされるメカニズムの解明に向けた大きな前進だろう。
これをとっかかりにして、ニューロンの多様性を生み出す分子メカニズム、ひいては脳という精密な臓器がどのように形成されるかという大きな疑問に迫ることが期待される
 
 
さらに、最近シングルセル解析の発展により、ニューロンに限らず多様な細胞種でその多様性が報告されるようになっている。
一方、なぜ多様性が生まれるのか?という点についてはあまり研究が進んでいないように思われる
 
他の細胞種でも、今回のようなノンコーディングRNAやプロモーター-エンハンサーループによる多様性の形成がおこっているかもしれない。
これからの研究がとても楽しみ。
 
 
 
- 関連記事紹介
嗅覚受容体も細胞ごとに発現する遺伝子が異なることが知られている。
そのメカニズムに迫った論文を紹介しています。
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参考
- Antisense lncRNA Transcription Mediates DNA Demethylation to Drive Stochastic Protocadherin α Promoter Choice, Cell, 2019
http://first.lifesciencedb.jp/archives/8634 (プロトカドヘリンの図の引用)
 
 
 

ノックアウトとノックダウンの表現型が違うのは?_2

 
前回の記事で、ある遺伝子をノックアウトした時にその遺伝子に似た機能を持つ遺伝子の発現が上昇する"コンペンセーション"のメカニズムについてまとめた。
 
まとめると前回紹介したところまでで、
ノックアウトで似た遺伝子の発現が上がるのは
ノックアウトによる変異型RNAが似た遺伝子の発現を制御するから、
という可能性が示唆された。
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では、RNA分解からどのように遺伝子発現制御に結びつくのだろうか
 
これまでいくつかのRNA分解酵素は、
エピジェネ因子と相互作用することが報告されてきた。
 
そこで、
筆者らはエピジェネ因子がコンペンセーションに関わるのではないかと考えて、
siRNAスクリーニングを行った。
 
その結果、いくつかのエピジェネ因子をノックダウンするとコンペンセーションが起きなくなることが分かった。
この中でも、WDR5という因子のノックダウンで最も強い影響がみられた。
 
WDR5はCOMPASS複合体というやつの構成因子の一つである。
COMPASSはヒストンH3のK4にメチル化(H3K4me3)を入れることで遺伝子発現を上昇させる、と考えられている。
 
 

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このため、
ナンセンス変異RNAはH3K4me3を介して遺伝子発現を制御する可能性が示唆された。
 
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では、コンペンセーションが起きるときにH3K4me3の修飾量は増えているのだろうか?
 
筆者らは免疫クロマチン沈降法(ChIP)を行うことでこの可能性を検討した。
 
その結果、コンペンセーションが起きる際に、実際に発現が上昇する遺伝子でH3K4me3修飾量が増加していることを見出した。
 
次に、本当にH3K4me3がコンペンセーションに大事かを検証するため、
Wdr5, Setd1a, rbbp5といういくつかのCOMPASS複合体構成因子のノックダウンを行った。
 
その結果、どの因子をノックダウンしてもコンペンセーションが起きなくなることが分かった。
 
すなわち、 H3K4me3がコンペンセーションに大事である可能性が示唆された。
 
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とはいっても、RNAからH3K4me3の間がどうにも理解しづらいと思うかもしれない。
 
筆者らは興味深いことに、
本来細胞質で働くはずのRNA分解複合体(の一つUpf3b)が、
核においてWdr5と複合体を形成することを見出す。
 
そこで筆者らは(少し想像が入るが)
RNA分解酵素が分解したRNAを核の中に運び、
そのRNAをガイドとして配列が似た遺伝子の発現をONにするというモデルを提唱する。
 
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結果は以上で、RNA分解から遺伝子発現をH3K4me3が担っていそうなことが示された。
 
以上から
"ゲノムのナンセンス変異→ナンセンス変異RNA分解→H3K4me3修飾→コンペンセーション"という流れが見えてきた。
 
彼らはこれをナンセンス変異依存的転写補償(nonsense-induced transcriptional compensation, NITC)と名付け、
生命科学界の新しい概念として提唱している。
 
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この研究は、ノックダウンで表現型がでるがノックアウトではでない、という彼らの報告した知見を基にしている。
 
ノックアウトによるコンペンセーションはよくあることで、
生命科学研究者なら一度はコンペンセーションなんて何で起きるんだ、と思うことだろう。
 
筆者らはそのふとした疑問をきちんと生命科学研究に落とし込だ点で非常に素晴らしいと思う。
 
 
また、この研究の面白さは単にノックダウン動物におけるコンペンセーションに留まらない。
 
これまでの報告で、健常な人間も結構ゲノムにナンセンス変異を持っていること、
いくつかの疾患ではミスセンス変異よりもナンセンス変異の方が症状がマイルドなこと、が知られてきた。
 
今回の結果は、ナンセンス変異はコンペンセーションを誘導することで、
その遺伝子の機能を補完できるようにしていることを示唆している。
 
すわなち、ナンセンス変異依存的転写補償は、
ゲノムに入ってしまうナンセンス変異で大きなダメージを受けないようなバックアップシステムとして生体に備わっていると想像される。
 
生き物はこのような精緻な仕組みを長い進化の過程で獲得してきたのだろう。
生物の進化は伊達に何億年もかかっているわけではない。
 
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よろしければ他の記事もどうぞ。
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参考
- Genetic compensation triggered by mutant mRNA degradation, Nature, 2019
Mohamed A. El-Brolosy, Zacharias Kontarakis, ... , Antonio J. Giraldez & Didier Y. R. Stainier
- PTC-bearing mRNA elicits a genetic compensation response via Upf3a and COMPASS components, Nature, 2019
Zhipeng Ma, Peipei Zhu, ... , Jinrong Peng & Jun Chen

ノックアウトとノックダウンの表現型が違うのは?_1


生物はある遺伝子が欠失した時でも、同じような機能を持つ遺伝子を発現させるメカニズム(Genetic compensation、以下"コンペンセーション")を持っている。
 
よくあるのは、ある遺伝子をノックアウトした際に、ファミリー遺伝子の発現が増加するもの。
(例えば、β-actionをノックアウトしたら似た機能を持つγ-actinの発現があがりますよ、みたいなやつ。例えばですよ。)
 
これはある遺伝子の機能を調べようと思っても、似た遺伝子がその遺伝子の機能を補完してしまうため、非常に厄介である。
一方で、生体では一個の遺伝子が壊れても生きられるようにする優れたメカニズムとして使われている。
 
コンペンセーションのメカニズムを解明することは、
遺伝学研究を効率的に進めるヒントになるだけではなく、
生体が恒常性を維持する精緻な仕組みの解明につながる。
 
しかしながら、
コンペンセーションを可能にする分子メカニズムはほとんど明らかではない。
 
今回の論文ではGenetic compensationを引き起こすメカニズムに迫り、
ノックアウトによって生じるナンセンス変異型RNAが、ヒストン修飾を介して類似した遺伝子の発現をONにすることを示した。
 
 
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まず、 何がコンペンセーションを引き起こすのだろうか?、という問題にアドレスした。
 
このため、筆者らはコンペンセーションを引き起こすようなモデル動物を作成した。
ゼブラフィッシュにおいて、6つの遺伝子に対して、途中で終止コドンが入るようなナンセンス変異を入れることでノックアウトを行った。
このとき、このKOゼブラでコンペンセーションが起き、KOした遺伝子に似た遺伝子の発現が上昇することがみられた。
 
(KOした遺伝子は、hbegfa, vcla, hif1ab, vegfaa, egfl7, alcama。
補償するのはそれぞれ対応してhbegfb, vclb, epas1a and epas1b, vegfab, emilin3, alcamb)
 
 
Genetic compensationの原因として、まず思いつくのはタンパク質の欠損だろう。
すなわち、あるタンパク質がないことでフィードバックが働きコンペンセーションがおこる可能性だ。
 
この可能性を検証するため、筆者らはそれぞれのKOゼブラに対して、正常タンパク質をコードするRNAを打ち込んだ。
このゼブラでは正常なタンパク質が発現するため、KOによるタンパク質の欠損は解消される。
 
このとき、驚くべきことに、正常タンパク質をコードするRNAを打ち込んだ場合でも、
KOゼブラではKOした遺伝子に似た遺伝子の発現が上昇していた(コンペンセーションが起きていた)。
 
この結果は、今回の実験に用いた遺伝子群に関しては、
Genetic compensationはKOされた遺伝子のタンパク質が欠損していたためにおこる現象ではない、ことを示唆する。
 
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これは筆者らにとっても少々意外だったと思うが、
筆者らは実験を続けるうちにある種の規則性を見出す。
 
すなわち、何ラインも用意したKOゼブラのうち、
変異型RNAが分解されずに残っているラインではコンペンセーションが起きにくい、傾向である。
 
この傾向から、筆者らはKOされた遺伝子のRNAが分解されることがコンペンセーションを惹起する可能性を考えた。
これを検証するため、(ナンセンス変異)RNA分解経路を、これを担う因子(Upf1)のノックダウン、および試薬、によって阻害した。
 
すると驚くべきことに、(ナンセンス変異)RNA分解経路を阻害するとコンペンセーションは起きないことが分かった
さらに、筆者らは、5capがついていない分解されやすいRNAを注入するとコンペンセーションを起こすことができることも示している。
 
これらの結果は、(ナンセンス変異)RNA分解がコンペンセーションに必要である可能性を示唆する
 
*RNA分解がコンペンセーションに重要というのは結構意外だし面白い発見
 
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では、そもそもRNAを転写しないような変異型ではコンペンセーションは起きないのだろうか?
 
筆者らは、プロモーターや遺伝子全体を欠失させ、RNAが発現しないKOラインを作成して解析した。
すると、このKOラインではコンペンセーションは起きないことが分かった。
 
すわなち、RNAが発現しない状態であればコンペンセーションは起きないことが示唆された。
 
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これまでの結果で変異型RNAの分解がコンペンセーションに大事だということが分かった。
しかしなぜ、都合よく似た機能を持つ遺伝子の発現を上げることができるのだろうか?
 
筆者らは3つのKOラインでRNAseqを行うことで、KOで発現があがる遺伝子の特徴を解析した。
すると、KOで発現の上がる遺伝子は、ノックアウトした遺伝子と配列が似ていることが分かった。
 
すなわち、ノックアウトによって生じた変異型RNAがガイドとなることで
似た配列を持つ遺伝子の発現を上げる、というモデルを提唱している。
 
まとめ図(論文から拝借)
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生命科学研究において、ある遺伝子をノックダウンすると表現型がみられるが、
ノックアウトすると表現型がみられないということはしばしばある。
 
今回の論文ではノックアウトによってナンセンス変異が生じることが、
コンペンセーションを引き起こしてノックアウトした遺伝子の機能を補完する可能性を示した。
 
ノックアウト動物を使用されている方はナンセンス変異で終わっているか、変異RNAが分解されているかにご注意を。
 
 
次回続編として、より詳細な分子メカニズムと生物学的意義について紹介したい。
 
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参考
Genetic compensation triggered by mutant mRNA degradation, Nature, 2019
Mohamed A. El-Brolosy, Zacharias Kontarakis, ... , Antonio J. Giraldez & Didier Y. R. Stainier

赤外線が見える薬!?

私たち人間は、多くの情報を視覚から得ている。
 
人間が感知することのできる光は
波長がおよそ400nm~700nmの間にある可視光のみである。
 
一方で、世界には可視光以外の波長の光にもあふれており、
もし「可視光」(波長400nm~700nm)以外の光を「みる」ことができれば、人間の認識能力を拡張することができる
 
 
しかしながら、700nm以上の波長の光(赤外線)は光受容体を活性化できるだけのエネルギーをもたず、
赤外線は当然人間には「みる」ことのできないものとされてきた。
 
今回紹介する論文では驚くべきことに、
赤外線を感知することを可能にする特殊な微粒子を作成した。
さらにこれをマウスの目に打ちこむと、
マウスは赤外線を感知することができるようになることを示した。

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この赤外線感知薬のミソとなるのは、
赤外線をあてると可視光領域の光を放出する微粒子の作成だ。
 
例えば、2017年のNatureに報告されているように(参考1)、
ランタノイドの一つ、イッテルビウムを用いた微粒子が知られている。
 
これは波長980nmあたりの赤外線をあてると、535nmの波長の光が返ってくるようなものである。
これを使えば、赤外線を可視光の波長に変換することができる。
 
ただし、この微粒子は水に溶けず、生体に適応することができなかった。
そこで筆者らはレクチンの一つであるコンカナバリンAをこの微粒子に結合した。
 
この新しい微粒子は水に溶け、生体で使用することが可能になった。
 
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そこで筆者らは、この赤外線感知薬をマウスの目に打ち込んだ。
 
このとき、細胞が死んだりしないこと、つまり激烈な毒性はないことを確かめている。
 
さらにマウスの目に980nmの光を当てると光受容体が活性化すること、
すなわち赤外線に光受容体が反応することをみている。
 
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では、赤外線感知薬を打ち込むと本当に赤外線が見えているのだろうか?
 
筆者らはマウスの行動実験で検証を行っている。
 
いくつかの実験を行っているが、そのうち一つを紹介する。
 
マウスは水を嫌うことが知られている。
下の図のように2つの場所を用意し、片方だけに水から逃げられるような台を用意しておく。
(下の図では左側)
 
 
マウスはこの台のある方に移動しようとする。
このとき、赤外線で縦線と横線を用意しておき、縦線の方に台があるようにする。
 
もし赤外線をみることができれば、マウスは縦線の方にいくようになる。
 
実際、赤外線感知薬を打ったマウスは赤外線を感知して台のある方にすぐに行くようになることを示している。
 
 
ちなみにこのとき、普通の視覚には影響はないとは言っている。
(がどれくらいの程度で"影響がない"のかは不明)
 
以上から、筆者らが開発した赤外線感知薬によって、赤外線で光受容体が活性化すること、この試薬を打つことで赤外線を感知した行動を行うようになること、が示された。
 
これは生物の限界を突破し、認識の範囲を拡張するという点で非常に大きな一歩である。
 
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では、この赤外線感知薬で人間も赤外線が見えるようになるのだろうか?
 
NatureのNews記事によると、現在のところ、この試薬をすぐに人間に適用するのは厳しいようだ。
 
まず、この試薬には重金属が使用されているので、長期的には毒性があると考えられる。
この問題を解決するために、現在重金属を使わない試薬の開発が試みられているらしい。
 
また、これまで人類は赤外線を非可視光とするように進化してきた。
このため、突然赤外線をみることができるようになると人間の脳が適切に解釈できない可能性がある。
 
そういうわけで、すぐに人間が赤外線をみれるわけではないらしい。
ただし、疾患の治療などへの応用は期待される。
 
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なかなかキャッチーで面白い論文だった。
自分では全く思いもよらないようなことが可能になるのはすごい。
 
ただ、赤外線が波長535nmあたりの光に見えてしまうのは色々まずそう......
一回くらいはどんな感じに見えるのか試してみたい
 
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参考
- Mammalian Near-Infrared Image Vision through Injectable and Self-Powered Retinal Nanoantennae, Cell, 2019
- Amplified stimulated emission in upconversion nanoparticles for super-resolution nanoscopy, Nature, 2017(1)

iBiologyがすごい

 
今回は論文紹介ではなくて、
最近見つけた生命科学サイトを紹介したい。
 
それがこちら。
"iBiology"というサイト。
 
結構有名らしいが自分は最近知った。
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"無償で最先端の生命科学研究を世界中に広めること"を目標としたサイト。
生命科学系のトピックについて20分程度の動画が多数あがっている。
 
何がすごいかって、講演者がすさまじく豪華なことだ。
 
例えば、オプトジェネティクスの生みの親、Karl Deisserothが、
オプトジェネティクスの発見についてトークしたり、
 
 
RNAスプライシングを発見したPhillip A. Sharpが、
じきじきスプライシングの話したり。
 
 
プログラム細胞死(アポトーシス)でノーベル賞をとった
Robert Horvitzの講演もある。
 
 
他にも、今をときめくPhase separation界のBig name
Cliff Brangwynneとかとか
 
 
さらにさらに、
mTORの大御所 David M. Sabatini、
ウーパールーパーの再生で有名な Elly Tanaka、
アストロサイトの Ben Barres
など、本当にすごい。
 
しかも、結構最近録画されたものも多いので情報も古くなくてよい。
 
NIH(アメリカの厚生労働省みたいなやつ)やEMBOから
後援も受けているようだし、信頼感もある。
 
英語の勉強にもなるし(動画は字幕もつけられる)、とてもよい。
 
いい世の中になったもんだ。
ご参考までに。