ウイルス由来配列の発現を抑える
多くの生き物のゲノムには、
ウイルスを由来とする配列が多く含まれていることが分かっている。
例えばその一つで、レトロウイルス由来の配列であるRetroelementsは
ヒトゲノムの40%を占めるとされている。
このようなウイルス由来配列は、胎盤形成に関わる遺伝子になったり(peg10)、
認知機能に重要になったり(Sirh11/Zcchc16)していることなどが知られていて、
進化を駆動する要因の一つであると考えられている。
一方で、このようなウイルス由来配列は
ゲノム上を転移して他の遺伝子を壊してしまう可能性があるので、
基本的に抑制されている必要がある。
------
例えば、全身性エリテマトーデスのモデルマウスでは、
免疫細胞において、ウイルス由来配列の発現が異常に上昇していることが知られていた。
しかし、このモデルマウスにおいて、
なぜウイルス由来配列の発現が上昇しているのかは不明であった。
最近、ウイルス由来配列の発現を上げてしまう原因遺伝子として、
初めてSnerv(suppressor of NEERV)を同定した、という論文が出ていたので紹介する。
(PIはIwasaki先生というYaleで独立されている日本人の先生。
-----
モデルマウスにはB6JとB6Nという近いけれども異なるマウスのラインがある。
そのうち、B6Nの方はいくつかのウイルス由来配列(以下ERV)が発現していること
が分かっていた。
では、なぜB6NではERVが発現してしまうのだろうか?
B6NでERV遺伝子座のクロマチン状態をみてみると、
そこで、クロマチン修飾に関わるような因子が
ERVの発現を制御している可能性が示唆された。
このERVの発現を制御する遺伝子を探すため、
B6JとB6Nを掛け合わせて、表現型がみられる/みられないマウスを探索した。
この実験では、かけ合わせたマウスでは大体半分くらいが
片方由来のゲノムを持つのでERVの発現と相関するゲノム領域を絞ることができる。
(読み違えているかもしれないです...)
この解析の結果、
13番染色体の1Mbpの間にあるゲノム領域がERVの発現を制御していることが分かった。
このゲノム領域には、2410141K09Rik と Gm10324という遺伝子があることが分かっていたが、
(名前から分かる通り)その機能は全く分かっていなかった。
遺伝子配列から、この二つはクロマチン構造変化を介して遺伝子発現を抑制する因子として知られる、
KRAB-ZFPに属することが明らかになった。
そこで、この2410141K09Rik と Gm10324こそが
ERVの発現を制御する因子なのではないかと考え実験を行うと、
確かにこのノックアウトではERVの発現があがってしまうことをが分かった。
また、分子メカニズムとしても、(とくに2410141K09Rikは)
また、実際に全身性エリテマトーデスモデルマウスにおいてこの遺伝子が欠損していることが症状の原因であろうこと、
ヒトの患者さんでもZFPの発現とERVの発現が逆相関していることなどを見出している。
-----
そういうわけで、
2410141K09Rik と Gm10324がERVの発現を抑制する因子であることが分かったので、
これをSnerv1/2(suppressor of NEERV)(NEはnon ecotropic)、と名付けている。
-----
このご時世、マウスで新しい名前を付けられるような因子を同定する(しかも2つ)のはとてもすごい。
また、内在性ウイルス由来配列を抑えるというのも(個人的には)面白い。
内在性レトロウイルス、他の組織でも発現していたりするらしいけれど、
Snervの発現や機能は他の組織ではどうなっているんだろう。
免疫系に留まらない可能性を示唆するBig paperだと思った。
-----
参考
The Lupus Susceptibility Locus Sgp3 Encodes the Suppressor of Endogenous Retrovirus Expression SNERV, Immunity, 2019
*1 personal communication?