生きる長さを決めるもの
哺乳類の寿命は種によって200倍も異なっていることが知られている。
同じ地球に生きるものなのに、どうして寿命がこれほどまでに異なるのだろうか?
とても魅力的な疑問であるにもかかわらず、種間で寿命の差を生み出す分子メカニズムはほとんど分かっていない。
そこで、今回の論文では、寿命とDNA修復応答の関係を探索した。
その結果、
- 二重鎖切断修復の能力と寿命に相関があること
- 寿命の長い動物ではSirt6という因子に、二本鎖切断修復活性が高くなる変異が入っていること
を見出した。
寿命が決まるメカニズムに迫った面白い論文です。
↓今回の論文
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これまで寿命を決める要因として、DNA損傷応答が大事だろうと考えられてきた。
なぜなら、DNA損傷応答因子が欠損していると寿命が短くなることが知られてきたからである。
しかし、寿命の異なる動物種の間でDNA損傷応答に差があるのかは明らかではなかった。
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そこで筆者らは寿命の異なる18種類ものげっ歯類からサンプルを採取し、DNA損傷修復能力を測定した。
このとき計測するDNA損傷応答として、
- DNAの2本鎖が両方切れた時にDNAを修復する、二重鎖切断修復
について検証を行った。
その結果、驚くべきことに、ヌクレオチド除去修復の活性は寿命と相関しない一方、二重鎖切断修復の活性が寿命と相関していること、が分かった。
一応、参考までに二重鎖切断修復の図を以下に掲載。
やや細かいが、二重鎖切断修復に含まれる非相同末端結合(NHEJ)と、相同組み換え(HR)、両方の活性が寿命と相関していることも示している。また、肺の細胞でも皮膚の細胞でも同じことがみられることをみている。
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このことから、二重鎖切断修復活性と寿命に関係がありそうだ、ということが分かった。
では、どうして動物種ごとに二重鎖切断修復活性に差があるのだろうか?
筆者らは二重鎖切断修復に関わる因子のうち、非相同末端結合と相同組み換えの両方に関わる上流因子が重要なのではないかと考えた。
そこで、これまで二重鎖切断修復の上流として知られていたSirt6に着目した。
Sirt6は脱アセチル化酵素として知られるが、過剰発現すると二重鎖切断修復を活性化できることが知られている。
(*実際はこれを報告したのは今回の筆者の論文なので、初めからSirt6に目をつけていたのだろう)
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そこで、筆者らはSirt6の二重鎖切断修復活性を種間で異なる可能性を考えた。
そこで、多くの種でSirt6の二重鎖切断修復活性を測定した。
すると、興味深いことに、寿命が長い生き物ほどSirt6の二重鎖切断修復活性が高いことが分かった。
では、寿命が長い種のSirt6は寿命が短いSirt6と何が違うのだろうか??
つまり、マウスのSirt6を5アミノ酸だけをビーバー型にすると二重鎖切断修復活性が上がる、ことを示している。(すごい)
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では、このアミノ酸配列の変化は寿命に影響を与えるのだろうか?
筆者らは、マウス型のSirt6や、ビーバー型のSirt6を発現するハエを作成し、寿命を測定した。
(ハエで実験したのは実験として現実的なタイムスケールで寿命を迎えるからだと予想される。マウスだと死ぬまで年単位で待つので実験にならない...)
すると驚くべきことに、ビーバー型のSirt6を発現するハエは、マウス型のSirt6を発現するハエより寿命が長いことが分かった!
*わずか5アミノ酸を変化させるだけで寿命が変わるのはすごい!
すなわち、Sirt6のアミノ酸配列(二重鎖切断修復活性)が、寿命を規定する一要因である可能性が示唆された。
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下がまとめ図。
寿命が長い種はDNA二重鎖切断修復活性が高く、とくにSirt6の活性が上がるようなアミノ酸配列を持っている。
また、途中で端折ったヌクレオチド除去修復の活性は、寿命とは相関しないが、日中に行動する時間と相関するとも言っている。そちらも面白い。
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不老不死は多くの人が願う夢である(たぶん)。
今回の発見は、種間の寿命を規定するメカニズムに留まらず、不老不死に近づくヒントになる可能性がある。
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参考
SIRT6 Is Responsible for More Efficient DNA Double-Strand Break Repair in Long-Lived Species, Cell, 2019
- http://finkelsteinlab.net/research (二重鎖切断修復の図の引用)