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CRISPRの歴史_3

今回はCas9の改変体について。
 
CRISPR-cas9は強力なゲノム編集技術だが、もちろん課題もある。
その一つが、ターゲット配列にかかる制限だ
 
Cas9はガイドRNAで標的とした領域すべてを切断できるわけではなく、
標的配列の近傍にPAM(プロトスペーサー隣接モチーフ)が必要である。
 
現在広く使われているCas9のPAM配列はNGG(Nは任意の塩基)で、
この配列が近くにないとCas9はDNAを切断できない。
 
GGは一応1/16で出てくるが、ノックインなどをしようと考えると、
PAMは短い方が望ましい。
 
そこでPAMを短くしようという試みが行われてきた。
 
その結果、PAMを1塩基まで絞った論文が今年Science(1)とNature(2)に報告された。
Scienceは日本人(濡木研)なので今回はこちらを主に紹介したい。
 
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PAMを短くするためには、
NGGの最後のGを認識するアミノ酸を削ればいいだろう、と当然考えられた。
 
結晶構造解析から、このアミノ酸は同定されていたが(R1335)、
この変異体(R1335A)はDNA切断活性が失われていた。
 
これは、おそらくDNAとCas9の相互作用が弱くなったためと予想された。
 
そこで次に、R1335Aのまま、DNAの周りの残基をArgにして
DNA-Cas9相互作用を高めようとした。
実際この変異で、DNAは切断されたがその活性は弱いことが分かった。
 
そこでさらに、DNAのリボース部分とCas9の相互作用を強めるような変異を導入し、
最終的に、VRVRFRRという7重変異体Cas9がNGをPAMとすることが分かった
 
さらに、このCas9はオフターゲット(期待しないDNA領域の切断)も小さいことが分かった。
(これは、このCas9がこれまでのCas9より切断効率が若干劣ることに由来するのかな)
 
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Natureの方は、西川先生も紹介されています(http://aasj.jp/news/watch/8205)。
 
基本的には、試験管内で進化を模倣させることで短いPAMを持つCas9を作るというもの。
David Liuというイケイケの研究者のラボから出ていてxCas9と名づけている。
David Liuの他の仕事についてはいつか紹介するかもしれない。
 
分子進化という方法は初めて知ったので、テクニックは面白いと思った。
ただ、濡木研の論文曰く濡木研Cas9の方がイカしているらしい。
 
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ちなみに、自分は今のPAMだって2塩基だし結構十分じゃないかと思っていた。
ただそれは、西川先生曰く「PAMだって2塩基だけの制限と思って満足している凡人」らしい。
 
PAMがNA、NT、NCのものができれば実質的にはPAM freeな感じになるな。
 
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参考
(1) Engineered CRISPR-Cas9 nuclease with expanded targeting space, Science, 2018
(2) Evolved Cas9 variants with broad PAM compatibility and high DNA specificity, Nature, 2018
関係者の方、間違い等ありましたら教えてください。