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CRISPRの歴史_4

前回xCas9で紹介したDavid Liuの他の仕事について少し。
 
David Liuさん、これまで存じ上げなかったが、
2017年のNatureが選ぶ10人にも取り上げられるスーパーな研究者らしい。
 
経歴もなかなかすさまじく、
学部の時はド有機化学ノーベル賞ホルダーのE.J.Corey Lab、
PhDは化学と生物の融合領域で有名なピーター・シュルツ Labを出ている。
 
*ピーター・シュルツさんについては"ピーター・シュルツ"で
検索して出てきたものを読むとなんとなくわかる。
かなりのハードワーカーらしい。
ちなみに、昔(低分子で神経幹細胞を作るというやつ)取り上げたSheng Dingも
ピーター・シュルツLab出身。
 
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で、最近はCRISPRを用いた1塩基置換法でいくつかPublicationを出している。
 
紹介してきたようにCRISPRはゲノム編集技術として優れているわけだが、
二本鎖切断を伴うという問題点があった。
 
実際の疾患を考えると、多くの遺伝疾患は一塩基の変異が原因のものが多く
(二本鎖切断してノックアウトやノックインしなくても)
一塩基を置換できれば良かった。
 
そこでDavid Liuらは二本鎖切断を伴わずに一塩基置換を行うツールを開発した。
 
マイルストーン的な論文は以下の2報。
Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage, Nature, 2016
Programmable base editing of A•T to G•C in genomic DNA without DNA cleavage, Nature, 2017
 
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といっても、原理は意外と単純。
(とはいっても苛烈な競争の中で初めて出たのが2016年と
割と時間かかっているので相当大変なんだろう。)
 
2016年のほうで報告されたCからTへの一塩基置換の方法は、
DNA切断活性を失ったdCas9にCytidine deaminaseをくっつけておくことで、
CをTに変換してもらう、というもの
 
原理的には、これでオッケーだが、おそらくこれだけでは編集効率が良くないので、
一本鎖切断を入れる酵素をdCas9につけておくなどの工夫だが成されている。
 
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しかし、この方法では A-T塩基対からG-C塩基対への変換を行うことができなかった。
そこで、2017年の論文でこの問題を解決している。
 
こちらは、少しトリッキーな方法を使っている。
なぜなら、自然にはDNAのAを脱アミノ化する酵素が存在しなかったためだ。
 
一方で、RNAのAを脱アミノ化する酵素は知られていたらしい。
そこで彼らお得意の分子進化の手法(xCas9でも使っていた)を用いることで、
DNAのAを脱メチル化する酵素を作り出している。
 
あとは同じで、これをdCas9にくっつければA-T塩基対からG-C塩基対への変換が可能になる。
 
これらの成果で、一塩基レベルで、二本鎖切断を伴わずにゲノムを書き換えることが可能になった。
ヒトを含めた疾患の治療に用いるには強力なツールになると期待される。
 
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次回もCRISPRの歴史シリーズの予定