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CRISPRの歴史_5

今回はCRISPRを治療に使おうという潮流の論文を。
 
この分野では、
Juan Carlos Izpisua Belmonte (以下ベルモンテ) Lab (ソーク研究所)
の成果が目覚ましい。
 
*ベルモンテは日本人研究者好きで知られている。
Publicationをみても日本人が1stのものも多い。
ちなみに、ブログ編集者は最近某学会でベルモンテの講演を聴くまで
存じ上げなかったのだが、かなりすごい成果を上げまくっている。
Ratとmouseのキメラとか、若返りマウスとか。
 
ベルモンテはCRISPRで疾患モデルを治そうという研究を行っている。
 
今回紹介するのは以下の2報。
In vivo genome editing via CRISPR/Cas9 mediated homology-independent targeted integration, Nature, 2016
In vivo target gene activation via CRISPR/Cas9-mediated trans-epigenetic modulation, Cell, 2017
 
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Natureの方は非分裂細胞にもゲノム編集(ノックイン)する手法。
これまでのCRISPRによる遺伝子ノックインは分裂細胞で活性の高い相同組み換えを利用していた。
 
しかしながら、ニューロンや筋肉など多くの最終分化細胞は分裂を止めているので、
この手法で最終分化細胞にノックインを行うことはできなかった。
 
ノックインする細胞種を選択にしたい場合、分化細胞でもノックインできる方法が必要になる。
 
そこで、筆者らは非相同組み換えを利用したノックインを確立した。
具体的にはノックインDNAを工夫しているのだが、
力不足で簡潔に紹介できないので詳しくは論文を参照して頂きたい。
 
この論文のすごいところはこの手法で疾患モデルマウスの症状を改善させている点だと思う。
今回は、網膜色素変性症のモデルラットを用いている。
 
このマウスではMertkという遺伝子のエクソンが一つ抜けることで、
視覚が減弱してしまうらしいことが知られている。
 
そこで、筆者らは彼らの開発したツールでこのエクソンをノックインした。
その結果、正常Mertkの発現が回復しただけではなく、視力も部分的に回復することが分かった
 
*目の神経を含めほとんどのニューロンは胎生期に神経幹細胞から生み出されるので、
これまでの(分裂期でしかノックインできない)手法では生後の治療が困難だった。
この手法であれば、症状が出た生後でも治療が可能になるという点で非常に大きいと認識している。
 
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Cellの方はエピゲノム操作で疾患をなおそうというもの。
 
前回David Liuの話でも紹介したが、CRISPRによるゲノム編集は、
二本鎖切断を伴うという問題があった。
また、dCas9に転写活性化因子をくっつけて遺伝子発現を上げる手法もあるが、
ウイルスにのせるにはあまりにも大きく、in vivoではあまりワークしないことが問題となっていた。
 
そこで、ベルモンテは標的とする遺伝子座に転写を上げるようなdCas9を設計した。
具体的にはMs2-p65-Hsf1というのを使っている
(イマイチこれらの因子の分子レベルでの働きは分からず...調べればきっとわかるが)
 
結論としてはこれはin vivoでもワークして、狙った遺伝子の発現を上げることができる。
今回は筋肉量に関わることが知られているFst遺伝子の発現を上昇させている。
このマウスでは筋肉量が増えてムキムキになっている。
 
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これらの成果で、ヒトを含めてCRISPRを実際に治療に使うという点では前進している。
(まだノックアウトヒトを作るフェーズではないと思うが....)
 
ただ、実際問題ヒトでの治療でアデノウイルス打ったりするのはいいんですかね(すいません。不勉強で)
自分はあんまりウイルスを脳みそに打たれたくはないですが。
 
次回もCRISPRの歴史シリーズ続きます。