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CRISPRの歴史_6

今回はゲノム編集ではなくて、基礎研究のためのCRISPRの応用法を。
先日CellにてでたCRISPR-GOというの(1)を紹介しようと思う。
 
 
遺伝子発現は転写因子やクロマチン状態などの要因で制御されることが有名ですね。
 
しかし近年、遺伝子発現が"遺伝子座が核内のどこに存在するか"で
制御されている可能性が報告されてきている。
 
一般的には、ある遺伝子座が核膜に移行するとその遺伝子の発現はOFFになる、と考えられている。
 
これまで、幹細胞の運命制御でいくつか報告がなされている。
代表的なものは心臓の幹細胞(2)と、神経の幹細胞(ハエ、3)だ。
 
例えば、ハエの神経幹細胞では、ある種の分化細胞を生みだす時期が決まっている。
この細胞を生みだし終わると、その分化細胞に必要な遺伝子の遺伝子領域は、
核膜付近に運ばれ、発現がOFFになることが知られている。
 
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ただし、これまでの研究は遺伝子座の核内配置と遺伝子発現の"相関"をみていることが多く、
必ずしも核内配置と遺伝子発現に"因果"があるかは不明だった。
 
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そこで、今回紹介する論文はCRISPRを用いて、
任意の遺伝子座を、核膜やCajal Bodyに移行させる手法を確立した。
 
これを可能にするために、筆者らは植物の持つABI/PYL1システムに着目した。
 
これはアブシジン酸受容体を利用したもので、
アブシジン酸依存的にABIとPYL1を結合させることができる。
 
つまり、この二つに目的の遺伝子座と、移行させたい先のタンパク質を
くっつけたものを作っておけばよい。
 
今回の例では、
dCas9とABIの融合タンパク質、
核膜やCajal bodyタンパク質とPYL1の融合タンパク質、を作成している。
 
想定通り、アブシジン酸を導入すると
dCas9で標的とされるゲノム領域が核膜などに誘導できることを示している。
 
このとき、核膜に誘導された遺伝子座(論文ではレポーターだが)は
確かにその遺伝子発現が落ちていることを確認している。
 
すなわち、
核膜への移行は遺伝子発現を抑制するという因果関係があることが分かった。
 
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これまで相関で見られていた"遺伝子座の位置と発現"が
"相関"でなく"因果"であることが分かったのはとても面白い。
 
どれだけ一般的なメカニズムなのかは気になるが....
 
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CRISPRを使った面白い研究はまだまだありますが、一応CRISPRの歴史シリーズはこれで終了の予定です。
ブログ編集者は一連の話を書いていて、なんとなくCRISPR研究の流れが見えたような気がしました。
 
次回からは数回続けて日本人研究者の論文を紹介する予定です。
 
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参考
(1) CRISPR-Mediated Programmable 3D Genome Positioning and Nuclear Organization, Cell, 2018
(2) Genome-nuclear lamina interactions regulate cardic stem cell lineage restriction, Cell, 2017
(3) Developmentally Regulated Subnuclear Genome Reorganization Restricts Neural Progenitor Competence in Drosophila, Cell, 2013
*https://www.cell.com/fulltext/S0092-8674(12)01560-7 (Freeでとれたので著作権的には大丈夫?)
Cellが多いですね。確かにCellはこういうのが好きそうなイメージ。