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端のメチルが役に立つ?

今回は日本人研究者の論文を紹介しようと思います*。
タイトルは完全にプレスリリースのタイトルに引っ張られてます...
(プレスリリースのタイトルは"メチルは端だが役に立つ")
 
少し前の投稿でも解説した通り、
最近新しいRNA修飾としてm6Aが再発見され、その生物学的意義が明らかにされつつある。
 
多くの人はmRNAの内部に存在するm6Aに着目し、その機能を研究しているが、
脊椎動物ではmRNAの5末端にも、m7Gに続く構造としてm6Amが存在している
ことが知られている。(端のメチル基ってことですね)
 
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このキャップのm6AmはRNAの安定性に関わるかもとか、がんでなんとかといわれていたが、
あまりその機能は分かっていなかった。(出典はNature 2017なはずです)
 
なぜなら、キャップのm6Amを入れるメチル化酵素の実体が不明であったためである。
 
今回穐近さんらは、このm6Amメチル化酵素を同定し、
端のメチル基は実はRNAの安定化にはほとんど寄与しない一方、翻訳効率に影響を与えることを明らかにした。
 
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はじめにこのメチル化酵素を同定するために、m6Amは脊椎動物のみ持つことに着目して、
脊椎動物にのみ保存されている、機能未知のメチル基転移酵素と思われるものをKOした
(15種類に対してひたすらノックアウト細胞を作ったらしい)
 
それらのノックアウト細胞でRNA-MSを行うことで、
PCIF1という因子のノックアウト細胞で、m6Amが消失していることを見出した。
 
さらに、このときキャップ以外のm6Aはいれないことも分かったので、
PCIF1を CAPAM  cap-specific adenosine-N6-methyltransferase
と名付けた。
 
この後いくつかの生化学実験と、(濡木研による)構造解析を行って、
CAPAMが本当にキャップのm6Amメチル化酵素であることを確かめている。
 
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では、m6Amの機能は何であろうか?
Mauer et al, Nature, 2017はm6AmがRNAの安定性に関わるといっていたため
mRNAの安定性を検討した。
 
すると驚くべきことに、CAPAM KOでもRNAの安定性はほとんど変化しないことが分かった。
 
Nature2017ではm6Am脱メチル化酵素としてFTOをとったといって解析しているのだが、
FTOはmRNA内部のm6Aも脱メチル化しているらしい。
 
そいうわけでnature2017はmRNA内部のm6Aの効果をみていたのではないかという考察。
実際Wei et al, Mol.Cell, 2018でも同じようなことが言われているので、
やはりどうもキャップのm6AmはmRNAの安定化には寄与しないらしい。
 
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そこで、m6Amの他の機能として翻訳効率を考えた。
 
(そもそもmRNAのキャップのm7Gが見つかった背景は
ウイルス再構成にSAM入れとくと翻訳あがるという実験(Furuichi,1975とか)なはずなので
キャップのメチル化なら翻訳効率というのは理にかなっている。)
 
そういうわけで、翻訳効率(Ribosomal profiling)をみてみると
CAPAM KOでmRNAの翻訳効率が落ちていることが分かった。
 
一応、酵素自体はポリメラーゼとくっつくことみているのでそれが効くのかな?
 
また、最終的なアウトプットとして細胞生存も見ている。
普通の状態ではKOしても増殖率変わらないが、H2O2(細胞へのストレス)への感受性が高くなるらしい。
 
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そういうわけで、長年実体不明であったm6Amのメチル化酵素の実体が明かされ、
controversialであったその機能の一端も明らかになった。
 
これから、conditional KOで生理的な機能が明らかになっていくのだろうか。
これからの研究が期待されますね。
 
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参考に、RNAに関しては以下のRNA学会のコラムが非常に面白かったです。
 
RNAのキャップがどのように見つかったかなど、RNA研究の歴史が詳しく書かれています。
 
これを書かれている古市先生がRNAキャップみつけられた先生なので、
競合の様子から、同僚の人となりまで非常に詳しく書かれています。
 
 
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参考
* Cap-specific terminal N6-methylation of RNA by an RNA polymerase II–associated methyltransferase, Science, 2018