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温度に合わせて性別が決まるメカニズム

それなりの種類の爬虫類は、卵の時の温度に合わせて性別を決定するという仕組みを持っている。
 
例えばアカミミガメでは26℃ではほとんどオスになるが、
32℃ではほとんどがメスになることが知られている。
 
温度で性別をさせる利点ははっきりとは分かっていないが、
「チャーノフ・ブルモデル」
(発生環境が雌雄の適応度に異なる影響を与える場合には、
遺伝子型性決定よりも温度依存型性選択の方が選択上有利になる???)
というので説明されるらしい。(よくわかりません...)(D. A. Warner et al, Nature, 2008)
 
 
この温度依存的な性選択は非常に面白い性質だけれども、
温度依存的に性を決定する分子メカニズムはこれまで分かっていなかった
 
今回筆者らは、JMJD3というエピジェネティクス因子が、
温度によって発現を変化させ、性を決定するマスター因子であることを見出した。
 
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筆者らはこれまでに、アカミミガメ(下図)をモデルに
オスが生まれるような温度(26℃)とメスが生まれるような温度(32℃)で、
網羅的遺伝子発現解析を行っていた。

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この中で、温度によって発現が変わる遺伝子として、
JMJD3というエピジェネティクス因子に着目した。
 
なぜなら、温度依存的に性が決まるということは、
遺伝子自体(例えば哺乳類のSry遺伝子みたいなもの)で性別が決まるわけではなく、
遺伝子の発現を調節する後天的なエピジェネティクスが重要だろうと考えられるためである。
 
JMJD3はヒストンのH3K27me3のメチル化を外すことで
遺伝子発現をONにして、転写を促進する因子である。
 
JMJD3の発現はオスが生まれるような低温(26℃)で発現が高く、
メスが生まれるような高温(32℃)で発現が低い。
 
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筆者らは、JMJD3が性決定に重要であるか検討するために、
オスになる温度(26℃)でJMJD3をノックダウンした。
 
すると驚くべきことに、
コントロールではほとんどがオスに生まれるのに対して、
JMJD3がノックアウトされたカメではメスが多く生まれていた。
 
すなわち、低温(26℃)でJMJD3の発現が高いことが、
カメをオスにするのに必要であることが分かった。
 
 
ハイライトは上の実験だが、
筆者らはさらにJMJD3がオス化に大事なマスター因子の
上流の脱メチル化を行っていることなどを明らかにしている。
 
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まとめると
低い温度→JMJD3の発現高い→Dmrt1の発現あがる→オス化する
というストーリーらしい。
 
これまでエピジェネティクス状態と温度依存的な性決定の相関報告されてきた。
この研究は初めて因果関係をみることができた点で非常に新しい。
 
また、一般に使われるモデル生物ではないカメで、
ここまでの遺伝学手法を導入し、分子メカニズムを明らかにしている点も素晴らしい。
 
一方、なぜ温度依存的にJMJD3の発現が変化するかという核心部は不明。
これからの研究も期待される。
 
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他の爬虫類や魚類でも温度で性が決まったり、
途中で性が変わったりする種は結構いるらしいですね。
 
2回続けて非モデル生物での研究を紹介しましたが、
まだまだ面白い生き物は残っているだろう。
 
最近非モデル生物でも全ゲノムが読まれるようになっているので、
非モデル生物の特殊能力の分子メカニズムも解明されていくかもしれない。面白い。
 
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参考
- The histone demethylase KDM6B regulates temperature-dependent sex determination in a turtle species, Science, 2018
- 画像はこちらから転載