若い血を飲むと再生能が落ちる??
若い血を飲むと再生能が落ちる??
トカゲは切った尻尾を再生させることができるが、
私たち人間は基本的に傷ついた組織を再生させることはできない。
ただし、肝臓や子供の皮膚など限られた再生能があることが知られている。
この再生能の研究で多く用いられるのが、Ear hole closureというアッセイ法だ。
このアッセイでは、その名の通り、マウスの耳に穴をあけて、その穴がふさがるまでの経過を観察する。
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今回の論文*では、老いたマウスと若いマウスでどちらが早く傷を再生するかを観察した。
その結果、驚くべきことに、老いたマウスの方が傷口の再生能が高いことが分かった。
一方で、若いマウスでは傷口の形成(scar formatin; scarは表皮ではないので再生ではない)は素早く行われていた。
すなわち、若いマウスは早くscarを作るが再生は不完全で、老いたマウスはscar形成は遅いが傷口の再生は遅いことが分かった。
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では、どのような因子がこの再生能とscar formationのバランスを決めているのだろうか。
若いマウスと老いたマウスの血管をつなぎ合わせるパラビオーシス**を行い、Ear hole closure assayした。
その結果、若いマウスの血を受け取った老いたマウスは再生能が落ちることが分かった。
すなわち、若いマウスの血中に再生を阻害する因子が存在すると想定される。
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筆者らはこの因子の実体がSDF1という分子であることも突き止めている。
さらに、老いたマウスではEzh2という分子がSDF1の遺伝子座に抑制性のヒストン修飾を入れることで発現を抑制していることも分かった*。
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これまでの常識に反していて非常に驚いた。データは嘘ではないと思うが狸に化かされたような...
若いうちに再生能を落としておく生物学的意義が気になるところだ。
若い血を飲むと若返るという説もあるが、再生能は落ちるらしいので注意といったところか。
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* Aging Suppresses Skin-Derived Circulating SDF1 to Promote Full-Thickness Tissue Regeneration, Cell Reports, 2018
** 見た目は結構悪いので検索注意。ヒトでの実験はまずできない
*** 駆け足ですいません。