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再生に伴う遺伝子発現のダイナミックな変動

再生能が限られている私達ヒトを含む高等脊椎動物と異なり、メキシコサンショウウオ(アホロートルウーパールーパー) は成体においても高い再生能を有し、器官レベルの再生を行うことが可能である。
 
再生の過程では一度分化した細胞が多分化能を獲得し、さらに元通りに再び分化するというダイナミックな分化能の変遷をたどる。
 
この厳密に制御された再生の分子メカニズムを明らかにすることは、分化能がいかにして規定されるかという生物学的側面からも、そして再生医療への応用など医学的側面からも極めて重要である。
 
しかしながら、再生芽はたくさんの細胞種を含むため、再生過程において特定の細胞系譜での遺伝子発現がどのように変化するのかは全く分かっていなかった。
 
そこで今回は、分化能がダイナミックに変化する結合組織細胞をモデルに、再生過程における遺伝子発現変化に迫った論文を紹介する。
 
 
結合組織細胞は再生芽において最も多い細胞種であり、再生過程において骨と軟骨、腱、骨格周囲、真皮、間質性線維芽細胞など多数の細胞種を生み出すもととなる。
 
筆者らは遺伝学的に結合組織細胞をラベルするウーパールーパーを作成した(ちなみにPrrxでcreERT2を発現するライン、とてもよくValidationしている)。
 
次に、このラインを用いて再生過程おけるシングルセルRNAseqを行った。

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その結果
・再生過程において、結合組織細胞は多様な遺伝子発現プロファイルを持つ状態から均一な細胞集団に変化すること(おそらくこれは分化した細胞が一度多分化能を獲得することに対応する)
・損傷直後に細胞外組織をリモデリングする遺伝子や細胞増殖を促す遺伝子の発現が上がってくること
などが明らかになった。
 
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何もないところから組織を構築するという点で、再生は発生過程と似ている。そこで、筆者らは次に発生過程におけるシングルセルRNAseqを行うことで発生と再生の共通点と相違点を探索した。
 
この結果、
・損傷直後(損傷後10日目まで)はどの発生ステージの細胞とも異なる発現プロファイルになること
・再生過程の細胞は損傷後11日目ごろに、発生過程の細胞と似た発現プロファイルになること
が分かった。
 
すなわち、再生時には発生と異なる遺伝子発現の変化をたどって、発生時と似た遺伝子発現プロファイルに終着することが示唆された。
 
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また、このシングルセルRNAseqの結果により、再生時の結合組織細胞はいくつかのサブ集団が存在することが分かった。
 
このサブ集団の存在の意義に迫るため、筆者らはサブ集団のみを特異的にラベルするウーパールーパーのラインを作成した。(このラインがシングルセルRNAのどの集団に対応するのかよくわからないのだが、、)
 
この結果、ラベルしたサブ集団は腕の根本側の再生に大きく寄与し、先端部の再生にはあまり寄与しないことが分かった。
 
すなわち、再生時に現れるサブ集団は異なる様式で再生に寄与している可能性が示唆された。
 
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あとは再生芽から再び分化細胞が現れる過程の解析と系譜追跡をしているが力尽きたので割愛、、、
 
全体として、初めて特定の細胞系譜で再生過程における遺伝子発現を単一細胞レベルで明らかにしたことは新しい!
 
一応Graphical abstract

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以下管理人コメント
 
・主流でもないモデル生物で系譜追跡できるラインを作ってシングルセルRNAseqと、かなり大変そうな実験をしていてすごい、!!
 
・やはりこの変化を制御する因子が分かると面白いですね!
 
・再生と発生で異なる遺伝子発現プログラムの詳細は何だろう?どうやって違いが生まれるのだろう?(再解析すればわかるが、、)
 
今回紹介した論文
Single-cell analysis uncovers convergence of cell identities during axolotl limb regeneration, Science, 2018
Bio-station, 2020, communicated by L.F.