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猫も杓子も相分離_2

多くの転写因子はDNA結合ドメイン(DBDs)と活性化ドメイン(ADs)を持つことが知られている。
(下図、一応オレンジ色のまるで囲ってある)
 
これまでDNA結合ドメイン(DBDs)の機能はよく研究されてきたが、
ADの遺伝子発現への機能はあまりよく分かっていない。
 
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数多くの転写因子は限られた数のメディエーターを介して遺伝子発現を制御すると考えられる。
 
しかし、タンパク質間の相互作用を制御すると考えられるADは
- 転写因子間でホモロジーが低いこと、
- ADを転写因子間で交換しても機能に大きな影響はない、
ことから、
 
転写因子-メディエーター相互作用はいわゆる「鍵と鍵穴」モデルではない可能性が示唆されていた
 
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筆者らは、このADがintrinsically disordered regions (IDRs)を持つことに着目し、
複数の転写因子がADを介してメディエーターとphase-separatedしていることを明らかにした*。
 
またIDRの配列を操作して相分離できないようにすると、その転写因子の下流遺伝子の発現が減弱した。
 
すなわち、(相関ではあるが)、相分離することが正常な遺伝子発現調節に必要であることも示唆された。
 
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この論文から、これまで未知であった複数の転写因子が限られたメディエーターと結合するメカニズムの一端が分かった。
 
幾つかの種類のがんではタンパク質の融合がみられることが知られているが、
これらによるがん発症メカニズムの一部は異常なphase-separateによる転写制御の破綻にある可能性もある。
 
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参考
* Transcription Factors Activate Genes through the Phase-Separation Capacity of Their Activation Domains, Cell, 2018
** 脳科学辞典「転写制御因子」より。一部改変。