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二刀流 in Heart

今年2018年は大谷翔平メジャーリーグでも二刀流をこなし話題になりましたね。
年の瀬ですが、Scienceにタンパク質も二刀流していたというやつが出ていたので
紹介します。
 
この論文では、心筋で筋小胞体とT tubeをつなぐ構造タンパク質として知られていたJunctophilin2が筋損傷時に核に入り転写因子として働く、ことを見出した。
 
構造タンパク質と転写因子としての二刀流ということですね。
 
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心筋は収縮と弛緩を繰り返すことで血液を全身に巡らせている。
この収縮と弛緩は細胞内においてはカルシウムの濃度によって制御されている。
 
心筋に活動電位が入ると
心筋細胞の凹んだ構造体であるT管のカルシウムチャネルが開き、
さらにそれに引き続いて筋小胞体のカルシウムチャネルが開くことで
細胞内のCa濃度が上昇する。
(最終的に、Ca濃度の上昇はトロポニンの構造変化を引き起こして筋収縮を促す。)
 
Junctophilin2(以下JP2)は以下の図のように、
心筋においてT管と筋小胞体をつなぐ構造体として同定されていた。
(最初の論文は日本人のグループらしい)
 
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筆者らのグループはこれまでに、
- このJP2が筋損傷時に活性化するCalpinという酵素によって切断されること
- この切断が筋損傷応答に重要であること
を示してきた。
 
では、切断されたJP2はどのようなメカニズムで筋損傷に応答するのだろうか?
 
筆者らは切断されたJP2の断片を認識するような抗体を作成し、染色を行った。
その結果JP2が切断されたタンパク質のうちN末端側であるJP2NTに局在していることを発見した。
 
また、この核局在は筋損傷ストレスで増加すること、
JP2切断酵素であるcalpainの活性に依存することを明らかにしている。
 
すなわち、筋損傷時にJP2は切断されることで、切断されたフラグメントが核に移行することが分かった。
なお、このJP2NTは核移行配列NLSを持ち、この配列がないと核移行できないことも示している。
 
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では、このJP2NT(JP2フラグメント)は核内で何をしているのだろうか?
 
筆者らは核分画を行った後にWestern Blotすることで、
JP2NTはクロマチン画分にあること、すわなちDNAと結合していることを突き止めた。
 
実際JP2NTがゲノム上にどこに結合しているか調べると、
転写が活性化しているプロモーターにJP2NTは結合していることが分かった。
 
少し端折るが、この後いくつかの実験を行うことで
JP2NTは、筋損傷の系では悪さをする転写因子であるMEF2と競合することで
MEF2標的遺伝子の発現を抑制している可能性が示唆された。
 
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では、このJP2NTは筋損傷応答に重要なのだろうか?
 
筆者らはJP2NT過剰発現マウスと、JP2NTの核移行ドメイン欠損マウスを作成し、
筋損傷時の応答を検証した。
 
その結果、驚くべきことに、
JP2NT過剰発現マウスでは筋損傷からの回復が早くなる一方、
JP2NT核移行ドメイン欠損マウスは筋損傷応答が不十分になることが分かった。
 
以上の結果から、普段は構造タンパク質として働いているJP2が、
筋損傷時には切断され転写因子として働くことで、損傷応答に働いていることが分かった。
 
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構造タンパク質として知られていた因子が、まさか転写因子としても働くことができるというのは面白い!
 
思い返せば?、b-cateninもWntのエフェクターとして働いているし、
アクチンも核内移行してリプログラミングがなんとか、など知られているので、
意外と生物はいろんなタンパク質に二刀流させているのかもしれない。
 
 
また、今回の論文の大きな教訓(だと思う)のは、
今回のJP2NTのような因子はトランスクリプトーム解析からは同定できない、ことだ。
 
最近はトランスクリプトーム解析で何でも分かった感じにしている論文も少なくないが(実際分かることも多いが)、
遺伝子発現だけでは理解できない生命現象も数多く残っている。
 
トレンドに乗らない地道な実験でしか分からないこともあるのだと実感。そして反省。
 
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参考
E-C coupling structural protein junctophilin-2 encodes a stress-adaptive transcription regulator, Science, 2018