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シングルセルChIP-seq

今回は日本初のテクニックについて紹介しようと思う。
 
ChIP(クロマチン免疫沈降法)は、
あるタンパク質がゲノム上のどこに張り付いているか調べる方法で、
転写因子の解析やエピジェネティクスの研究でよく使用されている。
 
具体的な実験としては、以下の図のように
 
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タンパク質とDNAを結合させる
DNAを切断する
タンパク質を抗体で免疫沈降する
 
という流れで行われる。
 
実際は、最後にシーケンスすることでゲノムワイドに解析することが多い。
(定量PCRで特定のゲノム領域のみをみることもあるが)
 
このChIP(-seq)、とてもパワフルな技術ではあるが、
少数細胞では解析できない、という問題があった。
 
(免疫沈降が少数細胞ではできないためで、
ヒストン修飾でも最低10万細胞くらい必要。)
 
そこで、今回の論文では
少数細胞でもChIP-seqできるようにしたぜ!というのを報告している。
 
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具体的には以下のようなスキームを用いている。
 
ざっくりいうと、
二次抗体にプライマーとトランスポゾン配列をくっつけておけば
目的の配列付近にDNAが挿入されるだろう
というもの。
 
プロトコル的には、
抗体入れて、トランスポゼース入れて、
DNAリガーゼ入れて、増幅する、という流れ。
 
書いてしまえばこれだけだが、
条件を検討するのは相当大変だっただろう。
 
なお、シングルセルChIPとは書いているが
IP(免疫沈降)はしないのでChIL(L=Labelling)という名前になっている。
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実際この手法によって、
少数細胞(100細胞とか)においても多くの細胞を用いた場合と同様のシグナルが得られることを確かめている。
 
そういうのをFigureに入れているだけかもしれないが、
本当にきれいにシグナルが得られている。
 
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最後に1細胞にも適用できるかを検討し、
いくつかのヒストン修飾に対してはシングルセルでもChIP(正確にはChIL)できることを示している。
 
ただし、筆者らは最後に
However, the current ChIL–seq protocol is not cost-effective for high-throughput assays
(=めっちゃ高い)といっている。
 
シングルセルRNAseqのようにシングルセルChILseqするのはしばらく先になるだろうか。
 
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これまで、シングルセルRNAseq、ATACseqは存在していたが、
シングルセルChIPの開発は長年待ち望まれていた。
 
今回の結果でついにシングルセルレベルでクロマチン状態が記述できるようになった。
これから、続々とこの手法を用いた研究がでてくる可能性を感じる。
 
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筆者は九大/大川先生、東工大/木村先生、東大/胡桃坂先生、白髭先生と豪華な顔ぶれ。
新学術領域研究(科研費)「クロマチンポテンシャル」の総力(ではないが)をあげた力作ですね。
 
ちなみに、このクロマチン系の新学術は平成16年から、
細胞核ダイナミクス→遺伝情報場→動的クロマチンクロマチンポテンシャル
と、長くにわたって活動している。
 
同じような顔ぶれでずっと続いているのはこの領域くらいではないか?
それだけきちんと成果が出ているということだろう。すごいですね。
 
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参考
☆A chromatin integration labelling method enables epigenomic profiling with lower input, Nature Cell Biology, 2018, **