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翻訳されるnon-coding RNA??

近年non-codingと思われていたRNAから翻訳されていた!
という報告がいくつかなされてきた。
 
今回紹介する論文も感染時に発現する翻訳される"non-coding"RNAを見つけた!、
という話(☆)。
さらにそいつは一般的な開始コドン(AUG)から始まっていなかったという驚きもある内容。
 
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おそらく、初めは感染時に翻訳がどう変化するというモチベーションだったのだろう。
 
筆者らは始めに、培養しているマクロファージにLPS(感染刺激)を加え、
一定時間後にリボソームプロファイリングを行った。
 
先日紹介したように、リボソームプロファイリングでは、
リボソームの乗っている、翻訳されていそうなRNAを同定することができる。
 
この結果、驚くべきことに、リボソームの乗っているRNAのうち、
実に10%がこれまでnon-codingと思われていたRNAであることが分かった
 
*これまでの翻訳される"non-coding"RNAの研究は、
いくつかの遺伝子に絞った解析が多く、
このようにゲノムワイドにみられたのも新しい。
 
また、解析の結果、このnon-coding RNAの一部は
開始コドンであるAUG以外から翻訳されていそうなことが示唆された。
*パソコンで解析しているだけなので、本当にこの翻訳が起きているかは不明。
 
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筆者らは、これらの解析の結果から変動幅の大きかった因子、
Aw112010に着目した。
 
これは感染時に発現の上がる翻訳されそうな"non-coding"RNAで、
AUG以外から翻訳されていそうな因子である。
 
実際に、Aw112010にタグをノックインした細胞や、MSを使った検証を行い、
Aw112010は確かにタンパク質になり非AUGから始まっていることを確認している。
 
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では、このAw112010は機能があるのだろうか?
 
筆者らはAw112010にSTOP配列を挿入したマウスを作成し、
Aw112010の機能にアドレスした。
*作るのも結構大変だっただろう....
 
Aw112010は感染時に発現が上昇するので感染防御に大事だろうということで、
サルモネラ菌を感染した時のOutputを検証した。
 
その結果、驚くべきことに、Aw112010欠損マウスは
サルモネラ菌感染時の生存率が低下することが分かった。
 
すなわち、Aw112010はサルモネラ菌に対する防御に必要であることが示唆された。
 
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一応、筆者らはメカニズムも少しやっていて、
Aw112010はインターロイキン12の産生に必要なことをみている。
 
ここで、ちょいと知っている人なら気になるだろう。
これまでの実験ではAw112010の
RNAとしての機能が大事なのか
本当にタンパク質としての機能が重要なのか、
は分けることができなかった。
 
そこで筆者らはAw112010と同じアミノ酸配列になるがRNAの二次構造は全く異なる
RNAをレスキューする実験を行っている。*おしゃれ。
 
この結果、このRNAでもIL12の発現低下はレスキューできるので、
Aw112010 RNA自体ではなくそこから翻訳されるタンパク質が重要だったのだろうと示唆される。
 
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そういうわけで、感染防御に重要な翻訳される"non-coding"RNAが初めて同定された。
 
正直最初見たときは流行に乗っただけの論文に見えてしまったが、
ゲノムワイドに見たり、二次構造の異なるRNAでのレスキューなど良い論文だった気がする。
 
 
最近この翻訳される"non-coding"RNAが流行っているが、
少なくとも哺乳類でみつかった例はすべて病理的な条件である。
 
生理的な条件ー例えば発生とかーでこのような新規ペプチドも存在することが予想されるが、
その実体をとらえた報告は未だ存在しない。
*あったらコメントで教えてください、ぜひ。
 
いくつかの系ではいくつものnon-coding RNAの発現が変動することが知られている。
(心臓発生とか神経発生とか)
これらのいくつかは翻訳されている可能性も大いにあるのではないだろうか。
今後の研究が期待される分野だと思う。
 
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参考
☆The translation of non-canonical open reading frames controls mucosal immunity, Nature, 2018