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2019年生命科学研究まとめ&2020年展望

 
今回は大みそかということで、管理人の独断と偏見による2019年生命科学研究のまとめと2020年の展望、そして今年バイオステーションでアクセス数の多かった記事を紹介していこうと思います。
 
(一学生の私見ですのであしからず。)
 
全体
昨年までの勢いを持続したままシングルセル解析相分離が今年もたくさん報告された印象。
 
シングルセル解析は一時期散見された、シングルセルRNAseqしただけの論文はさすがに減って、複数のオミクス解析を混ぜたり、サンプル調製に一工夫持たせたものが多くなった感じがします。今後は、シングルセルRNAseqがさらにスタンダード化するとともに、シングルセルレベルでのマルチオミクス解析や空間情報を付加したシングルセル解析が流行ってくるのではないでしょうか。
 
相分離は去年で終わりかと思いきや、今年も結構大きな論文に報告がありました。これまでとは違うのは、少し意外なところで相分離していることを示した論文が増えたところかなと思います。一方、相分離は、相分離しています、だけで終わる報告が多く、何か大事なことが分かった感じがしないのは相変わらずの印象を持ちます。来年以降は相分離していることの生物学的なメリットなどが分かるような論文が出てくれることを楽しみにしています。
 
そういうわけで、来年もシングルセル解析と相分離はしばらく見ることになるかな、と予想します。
 
 
神経幹細胞研究
一応管理人に近しい分野ですので、神経幹細胞研究についてもまとめていきます。バイオステーションで解説書いたのはリンク張っていきます。
 
まず、今年潮流が変わった論文といえば、"ヒトの海馬では(やっぱり)大人になっても神経新生している"という論文でしょうか。
 
 
古典的には冷戦時の放射線ラベルによる解析から大人のヒトでも神経新生するというのが通説でした。ところが2017年、アルトロらのグループがNatureにヒトの海馬では大人になるとほとんど神経新生しない!というセンセーショナルな論文を出します。この論文で大議論が巻き起こるのですが、昨年のCell Stem Cell, 今年のNature Medicineの論文でやはりヒトの海馬では大人になっても神経新生している、ことが報告されました。大きな差は神経新生マーカーが染まるかどうか、その条件にあったようです。アルトロらは反駁の構えという噂ですが、なんとなく大人の神経新生はある、という風潮になってきた年でした。
 
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また、がんができると神経幹細胞が脳からがんに移動していく、という論文も衝撃でした。そんなことあるのかー!という感じですね。
 
内容については記事を書いているので是非ご覧ください。

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また、デニスジャボウドンによるScienceとNatureは結構インパクトがありましたね。
 
Scienceの方では、発生過程における神経幹細胞と分化細胞の遺伝子発現をシングルセルRNAseqで網羅的に解析しています。同一系譜の細胞をFlash Tagというのできちんとラベルできたのが大きいです。
(ただシングルセルRNAseqしただけ、といえばそうなので、インパクトはもう少し低い雑誌に載るかと思っていた。。)
 
Natureの方では、発生後期の神経幹細胞を発生初期の脳に移植すると発生初期らしい振る舞いをする、すなわち環境による発生時計の巻き戻りがあることを報告しています。これはフェレットなどで古くから言われていた説(発生時計は細胞自律的である)というのとは逆なので驚きがありました。一方で、移植に伴って色々な操作をしているのでやや人為的だという意見もあるようです。ここらへんは今後の研究に期待ですかね。
 
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あとは、ホンジュンソンの海馬の神経幹細胞の起源細胞の同定もありましたね。
 
 
マウスの成体脳で神経新生するのは脳室下体と海馬です。この成体で神経新生するための神経幹細胞は、脳室下体では、胎生期に既にゆっくりと分裂する神経幹細胞としてとりおかれていることが知られていました(Furutachi et al., 2015)。
 
今回海馬では、脳室下体とは違って神経幹細胞はとりおかれることなく、だんだんと大人の神経幹細胞としての性質を獲得することを報告されました。HopXという遺伝子を発現する細胞をラベルしてその系譜を追う明らかに大変そうな実験が印象的でした。
 
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年始のアナのNatureも印象的でしたね。これはRNAからの翻訳後制御で神経幹細胞運命を制御するというので、転写と翻訳の二段構えで運命を柔軟に制御しているというのが面白いと思いました。こういう翻訳の制御の論文も今後も出るだろうなという気がします。
 
詳しくはブログでの解説記事をご覧ください。
 

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その他では、マグダレナゲッツによるAKNAのNature論文とアナの神経幹細胞の老化のCell論文も出ていました。AKNAはいつも前座っぽくトークされていたので、Natureとは思っていませんでした。。。
 
あと、脳を再構成する脳オルガノイドではクリーグシュタインのCellとグレイキャンプNatureが出ていました。ちゃんと追えていないけど、オルガノイドも今後結構論文出てくるのでしょうか。
 
というわけで神経幹細胞研究の2019年の動向はそんな感じでしょうか。ハイインパクトジャーナルにのせてくるPIも少し世代交代してきている感じもしますね。
 
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バイオステーション2019 ベスト3
 
今年バイオステーションで扱った記事の中で反響が良かった記事を3つほど紹介します。
 
①超天然変性タンパク質Heroを同定し、機能に迫った論文の解説記事。管理人が2019年で一番感動した論文。

 

②遺伝子のノックアウトによって補償が起きるメカニズムに迫った論文を2回に分けて解説した記事。バイオステーションTwitterのフォロワーが増えた論文だったので思い出がある。ありがとうございました。

 
③2019年のノーベル医学生理学賞の解説記事。ラボを早めに抜けて発表の当日中に書き上げた記憶。。

 
というわけで2019年のまとめ記事でした。2020年も面白い論文がたくさん出るといいですね。(管理人も自分の仕事頑張ります。。。)
 
2019年もご愛読ありがとうございました。2020年もよろしく願いいたします。

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