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代謝とエピジェネをつなぐ新しいヒストン修飾「ラクチル化」の発見!

遺伝子の発現がどのように制御されているか知ることは、現在の生命科学の一つのゴールである。
 
遺伝子発現には遺伝子自身のDNAは配列も重要だが、DNAをパッキングするヒストンの状態も重要であることが知られている。
 
古典的にはヒストンのアセチル化が活性化した遺伝子のマークになっていることから始まり、メチル化やユビキチン化など多様なヒストン修飾が見つかってきている。
 
一方、最近でもヒストンのセロトニン化やグルタリル化など新しい修飾も発見されるなど、すべてのヒストン修飾が同定されているわけではなく、生物学的に重要なヒストン修飾はまだ残っている可能性がある。
 
今回は、乳酸を基質とする新しいヒストン修飾「ラクチル化」を発見し、その生物学的な意義に迫った論文を紹介する。
 
 
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新しいヒストン修飾を同定する手法の定番となっているのはマススペクトル解析で、筆者らもまずマススペクトルによって新規ヒストン修飾を探索する。
 
その結果、新しい修飾の候補として出てきたのが、乳酸を基質とするヒストン修飾「ラクチル化」である。
 
ラクチル化」は乳酸の部分構造がリジンに結合する修飾で、以下のような構造になる。
 
 
*筆者らはマススペクトル以外にもラクチル化ヒストンの抗体を使った実験や、乳酸を放射線ラベルする実験を行い、ヒストンラクチル化が実在することを入念に確かめている。
 
また、マススペクトルの解析から、ラクチル化はコアヒストンの複数のリジン残基に導入される可能性があることも見ている。
(HeLa細胞では下の青い△のところ、BMDM細胞では下の黄色い△のところに入る可能性があるらしい。)
 
 
さらに筆者らは、このヒストンラクチル化が遺伝子発現を活性化するのか、それとも抑制するのかに迫った。
 
このために、筆者らは再構成クロマチンを用いた無細胞系の実験を行った。
 
詳細は省くが結果、ヒストンラクチル化は遺伝子発現を活性化する修飾であることが示唆された。
 
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このラクチル化の非常に興味深い点は、ラクチル化は「乳酸」という解糖系の代謝物を基質とすることである。
 
このことから、ラクチル化は解糖系などの代謝状態と関係があることが予想される。
 
そこで、筆者らはさらに「細胞内代謝」とラクチル化の関係に迫った。
 
このために、解糖系を抑える試薬やミトコンドリア呼吸を活性化する/抑制する試薬を加えることで細胞内代謝状態を変化させ、ラクチル化の量を観察した。
 
その結果、解糖系が優位になった状態では、乳酸の量が多くなり、(おそらく基質が多くなったために)ヒストンラクチル化も増加することを見出す。
 
この結果は、ヒストンラクチル化が細胞内代謝状態とエピジェネ状態を結ぶ可能性があることを示した点で非常に面白い。
 
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では、このヒストンラクチル化はどのような生物学的な機能を持つのだろうか?
 
筆者らはラクチル化の意義に迫るため、マクロファージの系を用いた。
 
なぜならマクロファージは、以下の図のように、細胞内代謝状態とその性質を変化させることが知られているためである。
 
具体的には、マクロファージは病原菌の刺激に応答して炎症を促進するM1マクロファージに変化し、さらに時間が経つと炎症を抑えるようなM2マクロファージに変化する。
 
 
 
筆者らはまず、マクロファージを刺激すると、解糖系優位のM1マクロファージに変化することで、細胞内で乳酸の濃度が上昇しヒストンのラクチル化も上昇することを明らかにする。
 
では、このときヒストンラクチル化はどのよう遺伝子座に導入されるのだろうか?
 
これを明らかにするために、H3K18のラクトリル化免疫クロマチン法により、ラクチル化が導入されたゲノム領域を探索した。
 
その結果興味深いことに、ラクチル化は(M1マクロファージで重要な遺伝子座ではなく)M2マクロファージで重要な遺伝子座に多く導入されていることを発見する。
 
このことから、ラクチル化はM1マクロファージがM2マクロファージに変化するのに重要な遺伝子を制御する可能性を示唆する。
 
 
この可能性を検証するため、筆者らは乳酸合成酵素をノックアウトして乳酸が作られないようにすることでララクチル化を減少させる実験と、乳酸を過剰投与することでラクチル化を上昇させる実験を行った。
 
この結果、ラクチル化を減少させるとM2マクロファージのマーカー遺伝子の発現が減少する一方、ラクチル化を上昇させるとM2マクロファージのマーカー遺伝子の発現が上昇することを明らかにする。
 
すなわち、ラクチル化はM2マクロファージに重要な遺伝子を制御し、M1マクロファージからM2マクロファージへの転換を制御している可能性が示唆された。
 
まとめると以下のような感じ。(News&Viewsより転載)
 
 
*これは、乳酸の量がM1マクロファージからM2マクロファージへの転換タイミングを決めるタイマーとなっている可能性があるという点でとても面白い。
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以上、今回の論文では、乳酸を基質とする新しいヒストン修飾として「ヒストンラクチル化」を同定し、ラクトリル化が代謝状態の影響を受けること、マクロファージの性質に重要な働きがある可能性が明らかになった。
 
これは、新しいヒストン修飾が見つかったというだけでなく、「細胞外環境から細胞内代謝を介してクロマチンの状態変化を導く」というスキームが明らかになったという点で非常に興味深い。
 
また、今回の論文では明らかではないが、ラクチル化を認識するリーダータンパク質や、運動などの乳酸が重要な系での機能が分かると面白いなぁと思いました。
 
いずれにせよ、まだまだヒストン修飾の世界も分かっていないことだらけなのですね。今後の研究も楽しみです。
 
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今回紹介した論文
Metabolic regulation of gene expression by histone lactylation, Nature, 2019
Di Zhang, Zhanyun Tang, ..., Bing Ren, Robert G. Roeder, Lev Becker & Yingming Zhao
 
画像の引用
 

神経活動が寿命を決める!?

私たち人を含め生き物は病気にならなくても、老いていき、ある程度の寿命で死んでしまう。
 
このどうして老いていくのか、何が寿命を決定するのか、というのは人類が長年探し求めてきた疑問の一つである。
 
ここ数十年で、生命科学の発展により老化や寿命を規定する多様なメカニズムが明らかになってきた。
 
例えば、代謝状態が寿命と関係あるというのは結構報告が多いし、DNA損傷応答が寿命と関係するというのは以前バイオステーションでも紹介した。(→生きる長さを決めるもの)
 
これらに加え興味深いことに、寿命には"神経"が何らかの役割を持つ可能性が示唆されてきた。
 
例えば、神経で何らかの遺伝子が欠損すると寿命が変化してしまうということが知られている。
 
しかし、寿命の長さと神経活動に相関関係や因果関係があるのか?というのは明らかではなかった。
 

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そこで今回取り上げる論文では、寿命と神経活動の関係に迫った。
 
筆者らはまず、寿命が短いヒトと、長いヒトで、脳の遺伝子発現にどのような違いがあるのかを探索した。
 
このために、認知機能に問題のなかったヒトの死後脳で遺伝子発現を網羅的に解析したデータベースを用い、85歳以上まで生きた長寿の人と80歳までに亡くなった人の前頭前野における遺伝子発現パターンを解析した。
 
その結果、興味深いことに、長寿の人の脳では神経の活動に関わる遺伝子の発現が減少していることが明らかになった。
 
またさらなる解析から、長寿の人では(抑制性ではなく)興奮性の神経の活動に関わる遺伝子の発現が減少していて、神経活動が低下している可能性が示唆された。
 
このような「寿命⇔神経活動」という相関関係があるという今回の知見は重要であるが、「神経活動⇒寿命」の因果関係があるかは不明である。
 
そこで筆者らは線虫の系を用いて、神経活動と寿命に因果関係があるのかに迫った。
 
このためにまず、薬剤によって神経活動を強制的に抑制し、寿命が変化するか検証した
 
*ちなみに、筆者らは神経活動を抑える薬剤としてネマジピンとイベルメクチンというのを使用している。ネマジピンは割と最近線虫のスクリーニングで見つかったカルシウムチャネルのブロッカー(2006, Nature)。イベルメクチンは非脊椎動物のCl-チャネルに作用し神経活動を抑える(大村先生がノーベル賞とったやつ)。
 
この結果、驚くべきことに、薬剤によって線虫の神経活動を抑えると、線虫の寿命が長くなることが分かった。
*イベルメクチンは普通は寄生虫殺すのに使われるのに、イベルメクチン投与で線虫(≒寄生虫)の寿命が延びるのは謎。投与量の問題かなぁ。
 
 
すなわち、線虫の系において、神経活動を抑えると寿命が長くなるという因果関係があることが示唆された。
 
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では、神経活動を変化させるといっても、特にどのような遺伝子が寿命に関係するだろうか?
 
筆者らはヒトのデータをさらに解析し、どうやらRESTという遺伝子発現を抑制する因子が大事であろうことを突き止める。
 
RESTは神経活動に関わる遺伝子の発現を抑えるので、長寿の人ではRESTの発現/活性が高く、これによって神経活動が抑えられていることを示唆する
 
そこで筆者らはREST遺伝子を過剰に発現させることで寿命が長くなるのではないかと仮説を立て、再び線虫の系を用いて検証を行った。
 
この仮説は的中し、神経系特異的にREST遺伝子の線虫版(オルソログ)を強制発現させると、寿命が延長することをみている。
*なお、このとき神経活動が減少していることは結構しっかりみている。
 
 
あとは、神経活動を抑えるとどうして寿命が延びるのか、という点に迫っている。
 
データは端折ってしまうが、結果的に筆者らは神経活動が代謝状態を変化させ、それが寿命につながっているのではないかというモデルを立てている。
 
(代謝状態の変化は寿命と関係するというのは多く報告されているので、分かりやすいところに話を落としたかった、というところだろう。それでも神経活動が代謝状態を変化させるというのは面白い。)
 
以下はNature誌のNews&Viewsのまとめ図。
(aのCaenorhabditis eleganceが線虫。SPR-2/4というのがRESTのオルソログ、DAF-16は代謝関連の因子。)
 
 
以上、今回の結果から神経活動が寿命を規定する可能性が示唆された。
 
ヒトの網羅解析で得られた結果から、モデル生物に落とし込んでいく流れはよかった。
 
また、RESTや神経活動を標的とした創薬を行うことで、不老不死に近づけるかもしれない、という点では結構面白い。
 
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以下のようなポイントは今後の課題になるでしょうか。いずれにせよ今後の研究にも期待です。
 
- 今回ヒト(とマウス)のデータは相関だけなので、哺乳類でも神経活動と寿命に因果関係があると面白い。
 
- 線虫のデータも薬剤と遺伝子操作だけなので、DREDDとかで"神経活動"をもっと直接的にいじって寿命が変化したら面白い。
 
- どうして神経活動が代謝状態とリンクするのかというメカニズムは気になるところ。
 
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論文
Regulation of lifespan by neural excitation and REST, Nature, 2019
 
イラスト転載元 

2019年ノーベル医学生理学賞;細胞の酸素濃度検知システム

2019年のノーベル医学生理学賞「細胞がどのように酸素濃度を検知するか」という謎に取り組んだ一連の研究で、グレッグ・セメンザ、ピーター・ラトクリフ、ウィリアム・ケーリンの3氏に授与されます。
 
Biostationでは、受賞対象となった研究についてまとめてみようと思います。内容は概ねノーベル財団公式発表している資料に基づいております。
 
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いうまでもなく、生き物にとって酸素は極めて重要である。酸素は1777年には命名され、1858年にはパスツールらによって酸素が生物の代謝状態に変化を与えることが報告されている。
 
ノーベル賞だけを見ても、1931年には酸素と代謝機構の研究でワールブルグが、1938年には血液中の酸素の含量が体でどのように認識され、大脳に情報が届けられるのかという研究でコルネイユ・ハイマンスが受賞するなど、酸素の生体での重要性は明らかである。
 
しかしながら、酸素の発見から200年以上、細胞がどのように酸素濃度を検知するか、という分子メカニズムは明らかではなかった
 
今回のノーベル賞は、この問題に一定の答えを与える研究をリードしてきた3氏に送られることとなった。
 
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今回のノーベル賞受賞研究のルーツは、1880年代のエリスロポエチンホルモンの研究にある。
 
金字塔の一つが、バーツらによる1882年の報告で、この中で彼らは人間は高所に行くと酸素濃度が減少するため、対応策として酸素を多く運ぶために赤血球を増やす、ことを見出した。
 
では、このように低酸素状態で赤血球を増やすメカニズムは何だろうか?
 
時は飛んで1986/7年に、低酸素により肝臓でエリスロポエチンホルモンの発現が上昇すること、そしてエリスロポエチンこそが赤血球を増やす因子であることが報告された。
 
このことから、エリスロポエチンの発現を制御する因子こそが細胞の酸素濃度を感知する実行因子であることが予想される。
 
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そこで、今回ノーベル賞を受賞するセメンザ氏は、エリスロポエチンの発現を制御する因子の同定を試みた。
 
このため、エリスロポエチン遺伝子の上流配列を含む配列を探索し、エリスロポエチンの発現を制御するエンハンサーを同定する。
 
さらに、このエリスロポエチンのエンハンサーに結合する核内因子を複数同定した。
 
この中で、低酸素によって量が多くなる遺伝子をHIF(hypoxia-inducible factor)と命名した(Semenza and Wang, 1992)。
 
そしてこのHIFこそが、細胞内で酸素濃度を感知する分子メカニズムの中心となる遺伝子である。
 
 
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次の大きな疑問は、HIF1aの活性はどのように制御されているのだろうか?ということである。
 
もっとも考えやすいのは、HIF1aの発現が低酸素によって誘導される、というストーリーである。
 
しかし、HIFの同定以降の怒涛の研究により、HIF1aの遺伝子発現自体は酸素濃度でそれほど変わらないことが分かってきた。
 
さらなる研究により、HIF1aの量は遺伝子発現ではなく、タンパク質の分解量によって制御されていることが分かり始めた。
 
そこでキークエスチョンは「何がHIF1aの分解を起こす実行因子なのか?」という問題である。
 
 
ここで転機となったのが、さらなる受賞者、ケーリン氏とラトクリフ氏の研究である。
 
ケーリン氏はがんの研究をしていて、がん化を抑える因子としてVHL遺伝子というのを同定した。
 
さらに彼らは興味深いことに、VHLが変異した細胞ではHIFの標的遺伝子の発現が上昇していることを見出す。すなわち、VHLとHIFが何らかの関係を持つことが示唆された。
 
ではVHLは何をしているのだろうか?
 
VHLの相互作用因子を同定する実験から、VHLはユビキチン依存的なタンパク質分解を制御する複合体を結合していることが明らかになった。
 
このことから、VHLこそがHIF1aを分解する因子である可能性がある。
 
ラトクリフ氏は実際この仮説に取り組み、VHLがHIF1aを分解するユビキチン化酵素であることを発見する。1999年、まさに金字塔である。
 
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さらにラトクリフ氏はこの論文の中でVHLによるHIF1aの分解には、酸素が必要であることを示している。
 
では、最後に残る大疑問は「どのように酸素濃度依存的にVHLによるHIFの分解が制御されるのか?」という問題である。
 
当時、コラーゲンにおいて酸素濃度依存的にプロリン残基がヒドロキシ化されることが知られていた。
 
そこで、酸素濃度依存的なヒドロキシ化の状態を調べると、HIF1aのODDドメインの2つのプロリン残基が酸素依存的にヒドロキシ化を受けることが分かった。
 
さらに、ヒドロキシ化を受けたHIF1aはVHL複合体に結合しやすくなり、分解されやすいことを明らかにする。
 
すなわち「酸素濃度依存的にHIF1aの修飾状態が変化すること」こそが細胞が酸素濃度を検知するメカニズムであることが示唆された。
 
 
なお、この分解を免れたHIF1aも通常酸素濃度では核内でヒドロキシ化を受け、転写活性化を受けないことが分かっている。
 
一連の研究をまとめると以下のようになる。

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これらの低酸素応答の研究は臨床的にも重要である。
 
例えば、HIF1aの活性を上げることで赤血球を増やして貧血を治そう、という薬は続々と臨床試験が行われている。また、VHLはそもそもがん抑制遺伝子としてとられているので抗がん剤の開発にも期待がかかる。
 
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管理人感想
 
低酸素応答がノーベル賞というのは全く予想していませんでした。が、非常に重要な発見であり、むしろこれまで取っていなかったのが意外です。
 
一連の研究は偉大ですが、まだまだ未知のことも多く残っているし、臨床までに詰めないといけない現象も沢山ありそうです。
 
これからの研究も楽しみですが、こういった研究をきちんとつなげていくのも今の若い人たちに課せられた重要なことかと思いました。みなさん頑張りましょう。
 
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受賞に関する代表的な論文(論文リストはノーベル財団のPDFより): 
 
低酸素で発現が上がることが知られていたEPO遺伝子のエンハンサーを同定、さらにこのエンハンサーに結合する核内因子を探索
Semenza, G.L, Nejfelt, M.K., Chi, S.M. & Antonarakis, S.E. (1991). Hypoxia-inducible nuclear factors bind to an enhancer element located 3’ to the human erythropoietin gene. Proc Natl Acad Sci USA, 88, 5680-5684 
 
HIFが核内で複合体を組む相手としてARNTを発見
Wang, G.L., Jiang, B.-H., Rue, E.A. & Semenza, G.L. (1995). Hypoxia-inducible factor 1 is a basic-helix-loop-helix-PAS heterodimer regulated by cellular O2 tension. Proc Natl Acad Sci USA, 92, 5510-5514 
 
通常の濃度でHIF1aを分解するユビキチンリガーゼとしてVHLを同定
Maxwell, P.H., Wiesener, M.S., Chang, G.-W., Clifford, S.C., Vaux, E.C., Cockman, M.E., Wykoff, C.C., Pugh, C.W., Maher, E.R. & Ratcliffe, P.J. (1999). The tumour suppressor protein VHL targets hypoxia-inducible factors for oxygen-dependent proteolysis. Nature, 399, 271-275 
 
酸素濃度に応じたHIF1a修飾が細胞内酸素濃度検知のメカニズムであることを発見(2報同時掲載)
Mircea, I., Kondo, K., Yang, H., Kim, W., Valiando, J., Ohh, M., Salic, A., Asara, J.M., Lane, W.S. & Kaelin Jr., W.G. (2001) HIFa targeted for VHL-mediated destruction by proline hydroxylation: Implications for O2 sensing. Science, 292, 464-468 
Jakkola, P., Mole, D.R., Tian, Y.-M., Wilson, M.I., Gielbert, J., Gaskell, S.J., von Kriegsheim, A., Heberstreit, H.F., Mukherji, M., Schofield, C.J., Maxwell, P.H., Pugh, C.W. & Ratcliffe, P.J. (2001). Targeting of HIF-a to the von Hippel-Lindau ubiquitylation complex by O2- regulated prolyl hydroxylation. Science, 292, 468-472

核の中の相分離

細胞の中で、DNAから適切な遺伝子が発現し機能することは、細胞運命を正確に制御するために極めて重要である。
 
これまでに遺伝子発現の制御には、多数のヒストン修飾をはじめとしたエピジェネティック因子が重要であることが示されてきた。
 
例えば下のイラストのように、ヒストンH3、27番目のアセチル化は遺伝子発現を多くの場合促進することが知られている。
 
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このようにヒストン修飾などのエピジェネティック因子が重要なことは教科書にものっているほど当たり前のことだと考えられている。
 
しかしながら、アセチル基のような極めて小さな因子がどうしてクロマチン状態を変え、遺伝子発現を変えることができるか、というのは未だ未解決のまま残された大きな謎である。
 
*ヌクレオソームの分子量は100kDaを超えるのに対して、 アセチル基は分子量60くらい。
つまりヌクレオソームを50kgのヒトとすると、アセチル基は30gにも満たない。上のイラストのアセチル基は実際よりもとても大きい。
 
もちろん、ヒストン修飾を認識するタンパク質の寄与が示されてきてはいる。しかし、ヒストン修飾によって核の状態をもっとダイナミックに変えるような仕組みも考えられる。
 
そこで今回紹介する論文では、筆者らは「クロマチンの相分離」という概念を打ち立て、これこそがヒストン修飾によってダイナミックにクロマチンが変化するメカニズムの一つではないかと提唱している。
 
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「相分離」というのは、なぜだか最近生物学で流行っている概念で、ざっくりいうと細胞の中で水と油のような物性の違う領域が分離しているという概念。(リンクなどを参考にされるとよいかもしれない。)
 
下の例のように、相分離するタンパク質は溶液の中で、油のようにドロップレットを形成する。
 
 
これらの概念はP顆粒というRNAの含まれる粒が相分離していること始まり、最近では中心体とかアミロイドとか、多くの膜のない細胞内構造物が相分離していることが報告されてきている。
 
(P顆粒の元祖はこちら。この筆頭著者のRoy Perkerが今の相分離生物学を引っ張っている一人という印象。中心体の相分離はどれが最初か分からないが、中心体関連因子Plk4の相分離を示したのはこちら。)
 
さらに細胞質だけではなく、細胞核の中の構造体、例えば転写が抑制されているヘテロクロマチンや、エンハンサーが集積しているスーパーエンハンサーまでもが相分離していることも報告されている。
 
(ヘテロクロマチンの相分離はこちらこちら。NatureにBack-to-backだったので結構盛り上がった。スーパーエンハンサーの相分離はこちら。転写の大御所Richard Youngが熱心に研究している。核内の相分離についてはBiostationでも取り上げたことがあるので是非ご一読→①猫も杓子も相分離②猫も杓子も相分離_2)
 
しかし、核の中でDNAとそれを巻き付けるヒストンからなるヌクレオソームだけで相分離が起きるかどうか、またそれらの相分離状態が他のクロマチン因子やヒストン修飾で変化するかは不明であった。
 
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そこで筆者らはまず、ヒストンとDNAからなるクロマチンだけで相分離しうるのかを検証した。
 
このため、人工合成したDNAでヌクレオソームを調整し、生理的な塩の濃度でヌクレオソームが相分離しているか観察した。
 
その結果、以下のように、DNAとヌクレオソームだけでも油のような液滴が形成されること、すなわちヌクレオソームは相分離しうることを発見する。
 
 
また他の実験により、この液滴は固体のように"固い"状態ではなく、フレキシブルな構造であることも明らかにしている。
 
(さらにこの人工合成DNA+ヌクレオソームを核内にインジェクションすることで細胞内でも相分離するかもよ、というデータもある。が、これは人工的な条件なので、正直生体内でも相分離しているかははっきりしない。)
 
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では、この相分離状態はヒストン修飾などによって変化するのだろうか?
 
この問いに迫るため、筆者らは人工ヌクレオソームに強制的にアセチル基をつける実験を行った。
 
この結果、驚くべきことに、通常ヌクレオソームが相分離して液滴を作る条件でも、アセチル化を入れるとこの液滴はなくなってしまうことが分かった。
 
すなわち、アセチル化はヌクレオソームの物性を変えることで、相分離状態を変化させていることを示唆する。
 
というわけで、小さなアセチル基でも核の状態を大きく変えることができるのは、アセチル基によってヌクレオソームの物理化学的性質が変化して、"相"が変化するからかも、という話。
 
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さらに、アセチル化が入ってヌクレオソームの液滴が壊れてしまう状態において、らにアセチル化を認識してアセチル化ヒストンに結合するタンパク質、BRD4を入れておくことで再び液滴ができることを示している。
 
このとき大変興味深いことに、BRD4添加でできた液滴は何でもないヌクレオソームの液滴とは混ざり合わない
 
すなわち、普通のヌクレオソームの液滴とBRD4添加でできる液滴は物性が異なり、核の中で異なる区画として分けられている可能性がある。
 
彼らが実験しているのはBRD4だけではあるが、概念的にはそれぞれのヒストン修飾やその認識タンパク質の集合はそれぞれ異なる物性のクロマチンを構成し、核の中で区画化されているという可能性を示唆する。
 
論文中のモデル図では以下のような感じ。核内に物性の違う液滴が多数あってそれぞれ異なる制御をしているというイメージか。
 
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また、筆者らはこれ以外にも、リンカーヒストンH1がヌクレオソームの相分離を促進すること、ヌクレオソームのリンカー部の長さが10n+5bpだと相分離が起きやすいこと、などを示している。
 
(知らなかったけれども、生体のヌクレオソームのリンカーの長さは10nよりも10n+5bpが多いらしい。リンカーの長さにも生理的な意義があるかもしれないというのは面白い。)
 
結果は大体以上で、ざっくりまとめると今回「ヌクレオソームが核内で相分離し、その相分離状態はヒストン修飾などで制御される可能性がある」ということを提唱している。以下グラフィカルアブストラクト。

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まあ正直なことを言えば、クロマチンの相分離が生体内で本当に起きているのか、相分離することが遺伝子発現などに大事なのか、という最も重要なことが示されていないので、よくCellにのったなぁ、という気はしなくはない。(トレンドの力...??)
 
いずれにせよ、極めて小さな分子量でもタンパク質の物性を変えている(ように見える)のは面白いと思った。
 
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今回紹介した論文
Organization of Chromatin by Intrinsic and Regulated Phase Separation, Cell, 2019
Bryan A. Gibson, Lynda K. Doolittle, ..., Sy Redding and Michael K. Rosen
 
画像の引用

ibiologyまとめ#1 David Sabatini_栄養センサーmTORの発見

今回は新コーナーということで、iBiology(分野の大御所が自身の研究について紹介してくれるサイト)のまとめ。
 
初回はDavid Sabatini。写真のような方。作曲家か指揮者みたいですね。

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iBiologyについてはこちら。
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David Sabatiniは栄養センサーとして知られるmTORの同定で非常に有名である。
 
mTORは超有名分子なのでおなじみの方も多いだろう。ではこのmTORはどのように発見されたのだろうか?
 
mTORはTarget of Rapamycin(ラパマイシンターゲット)の略。というわけで、まずはラパマイシンについて紹介。
 
  
 
ラパマイシンは上の構造をしている化合物で、太平洋に浮かぶラパヌイ島(イースター島、モアイがある島)で単離された。
 
ラパマイシンは医療用の医薬品として免疫抑制剤抗がん剤として使われている。
 
興味深いことに、ラパマイシンは寿命を延ばす効果があることなども知られている。
 
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Sabatiniがラパマイシンの研究を始めたのは、彼がジョンズポプキンス大学で大学院生の時だった。
 
当時彼が所属していたラボでは、いろんな種類の低分子を集めて、その生理活性を調べていたらしい。
 
その中で、Sabatiniがラボに入るころは、タクロリムス(FK506)の作用機序を調べてた。
 
(*タクロリムスは筑波山でとれたとされる化合物で、藤沢薬品工業が発見し、販売を始めた。日本発の素晴らしい医薬品だと思います。)
 
この結果、タクロリムスはFKBPというタンパク質に結合してカルシニューリンを活性化することが分かった。(Liu et al, Cell, 1991)
 
このとき、部分構造が一致するがカルシニューリンは活性化しない"コントロール"として取られていたのがラパマイシンだった。
 
(左がタクロリムスで、右がラパマイシン)
   
 
 
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このとき、タクロリムスとラパマイシンが同じタンパク質(FKBP;たぶんFK506 Binding Protein)に結合することまでは分かっていた。
 
では、ラパマイシンはFKBPと結合したのちに、どのようなタンパク質をターゲットするのだろうか?
 
この標的に迫るため、Sabatiniはラパマイシンが結合したFKBPを放射線ラベルし、結合するタンパク質をMSで解析した。
 
その結果、ラパマイシンが結合した時にだけFKBPと結合する因子として、それまで未知だったタンパク質を同定しTOR(Target of Rapamycin)と名付けた
 
比較的大きな分子で当時クローニングは簡単ではなかったらしいが、配列も決めている。
 
これが世にいう?mTORの同定である(Sabatini et al., Cell, 1994)。
 
ちなみに、ほぼ同時期に、ラパマイシンが効かなくなる変異体スクリーニングからもmTORとられた。
 
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この後、数多くの研究によって、mTORは細胞の栄養状態によって活性状態を変化させることが分かった。すなわち、mTORは"栄養センサー"である。
 
では、mTORはどのように栄養状態を感知するのだろうか?
 
まずSabatiniは、細胞を飢餓状態にしたあとにアミノ酸を加えると、mTORが粒状になりリソソームに局在することを見出す。
(ちなみにこの実験はSabatiniが御父上から提案されたらしい)
 
さらに、リソソーム上でmTORと結合する因子を次々と同定していった。(Lim et al., JCB, 2016より引用)
 
これらの多数の因子を複雑な制御を受けて、mTORの活性は制御されていることが分かっている。
 
 
では、まさに栄養をダイレクトに感知している分子は何だろうか?
 
Sabatiniは特にアミノ酸を感知する分子をよく研究している。
 
これらの結果、上の図にもあるようにSLC38A9とCASTORがアルギニンセンサー、Sestrinがロイシンセンサー、また図にはないがSAMTORがメチオニンセンサーであることを明らかにしてきている。
 
特に興味深いのはロイシンセンサーのSestrin。彼らはSestrinの構造を決めて、ロイシンが結合するサイトを同定している。
 
さらにここに点変異を入れることでロイシンの量を感知できなくなることも示していてすごい。(Saxton et al., Science, 2016)
 
 
ここまで見せられると、本当にこの分子がアミノ酸をセンスしているというのに説得力がある。
 
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iBiologyの講義は3パートに分かれている2パート目までが大体このような内容。
 
mTORの歴史から今の研究の流れまですっきりと整理された感じがした。
 
次は相分離のDr.Roy ParkerかクロマチンのDr.Jan-Michael Petersかなあ。
 
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Biostationの最近の他の記事もよろしければどうぞ。

 
 

マクロファージの前座を務めますのは??

 
生物はわずか一つの受精卵から細胞の分裂と分化を繰り返し、多数の細胞からなる個体を形成する。
 
この細胞をどんどん増やしていくという発生の過程において、一方でいくつかの細胞は細胞死していくということが知られている。
 
発生において、細胞が正しく死んでいくことは、個体全体の発生をうまく進めるために極めて重要である。
 
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この「プログラム細胞死」の中でも特に重要なものとして、神経管が閉鎖する時期における細胞死がある。
 
例えばアポトーシスができないマウス胎児は、不要になったモルフォゲン産生細胞を除去できず脳形成が異常になることが知られている(Nonomura et al., 2013)。
 
このとき重要なことに、アポトーシスした細胞は貪食細胞によって貪食され、速やかにクリアランスされる。
 
ところが、この神経管閉鎖が起きるような極めて早い発生ステージにおいては貪食細胞であるマクロファージなどはまだ胎児で機能していない。
 
そこで、この発生ステージの早い段階において、死んだ細胞をクリアランスする細胞の実体は不明であった。
 
今回この大きな課題に取り組んだ論文を紹介する。
 
 
(ちなみに、この論文にはシングルセルなんとかseqも、フェーズセパレーションも、CRISPRも流行の手法は全く出てこない。それでも面白い問いを立てれば面白い研究はできるんだなあ、というのを実感した。)
 
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彼らはゼブラフィッシュをモデルとして用いている。(タイムラプスイメージングとかしやすいから)
 
まず、筆者らは20hpfという早い発生ステージでDorsal trunkという領域で細胞死がおこっていることを発見する。これは、発生の過程で細胞死が起きているという報告と一致する。一方このとき代表的な貪食細胞であるマクロファージは細胞死している細胞の近くにいないことをみている。
 
では、死んだ細胞たちはどの細胞によって貪食されるのだろうか?
 
これまでの報告で、細胞死する細胞の近くに神経堤細胞が存在する可能性が示唆されていた。
 
そこで筆者らは神経堤細胞をラベルする新しいゼブラフィッシュラインを作成し観察を行った。この結果、細胞死している細胞の近くには神経堤細胞が存在することが分かった。
 
このとき、神経堤細胞が細胞死した細胞を包み込み、まるで貪食しているような様子が観察された。この結果は、意外にも”神経堤細胞"が、死細胞を貪食している可能性を示唆する
 
 
(緑が神経堤細胞で、丸で囲われた細胞が死にゆく細胞。三角で示された神経堤細胞が移動して、死にゆく細胞を貪食する様子が分かる。)
 
さらにこのとき、神経堤細胞ではLamp1やPI(3)Pが陽性であり、いわゆる貪食細胞と同じようにファゴソームを形成していることが分かった。
 
すなわち、神経堤細胞は実際に死細胞を分解する貪食細胞として働いている可能性が示唆された。
 
これらの結果がハイライトで、あとは割愛してしまうが、他にも
- 人工的に細胞を殺すと神経堤細胞はその細胞に向かって移動すること
- 死細胞への移動はインターロイキンシグナリングに依存すること
などを示している。
 
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なお、今回の論文では示されていないが、以下のような点は追求してもよいかなと思った。
 
1. 本当に神経堤細胞による貪食は発生に不可欠か?神経堤細胞による貪食の阻害が必要だが難しい、というディスカッションはされていたが、このデータは欲しい。
 
2. 貪食を行う神経堤細胞は特殊なサブタイプから構成されるのか?シングルセルRNAseqなどによるサブタイプ解析はもう始めているかもしれない。
 
いずれにせよ、今後も沢山の新しい疑問を生む良い研究だと思った。
 
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これまで発生過程において細胞死が起きること、その細胞死が正常な個体発生に重要であること、はよく知られてきた。
 
しかしながら、マクロファージなどがあまり機能しない発生の早いステージにおいて、細胞死した細胞をどの細胞が貪食するのかは不明であった
 
今回、神経堤細胞というやや意外な細胞が死んだ細胞を貪食する可能性が明らかになった。
 
これはどのように細胞運命が制御され、精密な個体発生が実現するか解明する大きな一歩である。
 
以下グラフィカルアブストラク

f:id:Jugem:20190910203001j:plain

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Migratory Neural Crest Cells Phagocytose Dead Cells in the Developing Nervous System, Cell, 2019

病原を「寛容」する分子メカニズム

「腸チフスのマリー」として知られるメアリー・マローンをご存知だろうか。
 
メアリー・マローンは1869年~1938年に実在した人物で、アメリカにおいて住み込み料理人として働いていた。
 
彼女が有名になってしまった発端は、メアリーの勤め先の近辺で腸チフス患者が相次いだことである。
 
実際、彼女の周りで47名の感染者と3名の死者が出たことが知られている。
 
これだけだと、彼女が料理人の立場を悪用して、チフス菌を混入させた大悪人のようにも思える。
 
しかしながら、実際はそうではなかったようだ。
 
彼女は腸チフスを患いながらその症状が出ていない状態であった。
 
つまり自分が腸チフスと自覚しないまま料理を作り、チフスを広めていたということらしい。(以下ニューヨークアメリカン誌の記事)
 
 
(以上、Wikipediaを参考)
 
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この例で重要なことは、病原体に感染した際に恒常性を維持する仕組みには、病原の「排除」だけではなく、病原に対する「寛容」があるということである。
 
多くの免疫研究は病原の「排除」を目指しているが、健康的な生活を送るためには積極的に「寛容」を選ぶような治療も重要である。
 
このため、「寛容」の分子メカニズムを明らかにすることは非常に重要である。
 
しかし、その重要性にもかかわらず「寛容」の分子メカニズムはほとんど明らかではなかった。
 
今回は、GDF15という因子が「寛容」を実現するための重要な因子である、という論文を紹介する。
 
 
(Ruslan Medzhitovさんは(免疫畑ではない)管理人も知っているくらい著名な免疫学者。ウズベキスタン出身。奥さんは日本人で免疫学者。)
 
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まず、筆者らは炎症が引き起こされた時に血中に増える因子を探し、GDF15という因子が炎症の後に増加することを見出す。
 
GDF15というのはTGFβの仲間で、炎症や代謝に何か関係はありそうということは報告されていたらしい。
 
そういうわけで、何かしらGDF15は大事なのだろうということで、筆者らはGDF15を中和抗体で阻害した。
 
このとき、GDF15が阻害されると、敗血症が誘導された時の生存率が有意に減少することが分かった。
 
すなわち、GDF15は何かしら炎症時の恒常性維持に重要な働きをすることが示唆された
 
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普通なら、GDF15は免疫機能に重要で、GDF15の阻害で病原体の排除がうまく行かなったのだろう、と考えるかもしれない。
 
ところが興味深いことに、GDF15を阻害しても病原体の量は変わらないことが分かった(少なくとも彼らの系では)。
 
これは、GDF15は免疫機能ではないところで、生体の恒常性維持に貢献していることを示唆する。
 
ちょっと端折るが、筆者らはGDF15は心臓保護機能に重要であることなどを見出している。
 
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では、GDF15はどのように炎症時に恒常性の維持に働くのであろうか?
 
筆者らは、GDF15が細胞の代謝状態を変化させること、具体的にはトリグリセリドの量を変化させていること発見する。
(これまで「寛容」について迫った論文で代謝状態の変化というのは言われていたのでそれっぽくてよい。)
 
実際、GDF15を阻害した時でもトリグリセリドの量を増やすと炎症時の生存率が改善することをみている。
 
すなわち、GDF15は代謝状態を変化させることで(病原体の量は変化させずに)、生体の恒常性維持に貢献することが示唆された。
 
まさにこれは「寛容」と同じような状態であり、GDF15は「寛容」を制御する重要な因子であることが分かった。
 
以下Graphical Abstrac

 

f:id:Jugem:20190811184307j:plain

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繰り返しにはなるが今回の論文では、GDF15という因子がキーファクターとなって、細胞の代謝状態を変化させ、病原体に対する「寛容」を誘導することが分かった。
 
次は「排除」と「寛容」を分けるトリガーは何なのかとか、トリグリセリドの量が寛容につながる分子メカニズムは何なのかとかが知りたいところ。
 
いずれにしても、病原体に対する応答は排除だけではない、共生するという道もある、というのは重要な概念。だと思う。
 
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参考
GDF15 Is an Inflammation-Induced Central Mediator of Tissue Tolerance, Cell, 2019